関東6県の県立美術館は、充実したコレクション、高名な建築家の設計、素晴らしい美術館からの眺望など、それぞれに魅力があります。
すべての美術館は、身障者用の駐車場があり、館内はバリアフリー仕様で、観覧料の障がい者減免制度があります。
「茨城県立近代美術館」
1988年の開館。水戸千波湖のほとりに建つ、素晴らしい景観が楽しめる美術館です。
設計は吉村順三氏。広々とした解放感と内外装の高質感が特徴です。
1Fのロビー空間は大きな窓がある設計で、窓の向こうには千波湖が輝きます。
1Fはコレクション展が開催される常設展示室。2Fが企画展示室です。
所蔵作品はルノワール、横山大観などから、水戸由来の作家など約4,000点。企画展は年に4本から5本開催されます。
美術館に隣接して、水戸市出身の洋画家中村彝氏のアトリエが新築復元されています。アトリエ内部は段差があり、バリアフリー構造ではありません。
茨城県の県立美術館は、他に以下の2つの施設があります。
「天心記念五浦美術館」
岡倉天心が後半生を生きた地に建つ、風光明媚な美術館です。企画展示室と天心の書斎を復元した「岡倉天心記念室」があります。
「茨城県陶芸美術館」
「笠間芸術の森公園」にある笠間焼の美術館です。企画展示室と常設展示室があります。
「栃木県立美術館」
1972年の開館。1981年に常設展示室が増設されました。宇都宮市の市街地に建つ、複雑で重層的な設計の美術館です。
設計は川﨑清氏。屋外展示場を中心に、B1から2Fまでが横につながるような、素晴らしい調和がある昭和の名建築です。
所蔵作品は、モネ、クロード、ターナー、イケムラケイコなど約9,000点。年に4本の企画展とコレクション展の展示替えをおこないます。
常設展示室2Fの一角は「伊東直子マイセン磁器コレクション」コーナーで、約100点のコレクションがあり、年4回展示替えされます。
バリアフリー面では、中庭への出入口と常設展前出入口は手動ドアです。
「群馬県立近代美術館」
1974年の開館。高崎市の県立公園「ぐんまの森」にある、空間を贅沢に使った施設です。駐車場から美術館までは、100mほどの距離があります。
設計は礒﨑新氏。館内は横にも縦にも空間が広がります。また美術館1Fにレストランがあり、緑豊かな公園に面してガラス面で囲まれ、外観がとても綺麗な建物です。
所蔵作品は、モネ、ムンク、ピカソ、シャガール、フジタ、岸田劉生、彫刻ではロダン、寄贈された丸山応挙、俵谷宗達など約2,000点。企画展は年に4回ほど開催されます。
企画展は原則1F、コレクション展示室は原則2F。2Fには6つの展示室があり、それぞれでテーマに基づいた展示が行われます。展示室6と「山種記念館」と呼ばれる展示室7へは坂上りのスロープを通りますが、一般的な車椅子なら介助者がいればクリアできる傾斜です。
「群馬県立館林美術館」
2001年の開館。多々良沼公園の整備と一体となって設計された、水面に浮かびあがる島をイメージした施設です。
設計は第一工房の高橋靗一氏。一般駐車場から長いアプローチを通りエントランスに向かう設計で、移動しながら見る美術館の景観がとても美しい建築デザインになっています。
所蔵作品はフランソワ・ボンボンなどの彫刻作品で、本館前庭に飛び出した位置にある展示室1が常設展示室です。
展示室2から4があり、そこで企画展が年に4本程度開催されます。
本館とは違う趣で設計された別館があります。別館はフランソワ・ボンボンの資料が展示される「彫刻家のアトリエ」とワークショップルームがあります。
身障者用駐車場を利用すると、移動距離が短いのは便利ですが、アプローチからの景観を楽しむことが出来ないのが欠点です。
「埼玉県立近代美術館」
1982年の開館。北浦和公園に建つ凝った外観の建物です。
設計は黒川紀章氏。美術館の周囲には彫刻広場や音楽噴水があり、エリア一帯がアート空間です。
モネ、シャガール、ピカソなど巨匠の作品を多数所蔵しています。
B1が一般利用できる展示ホール。1Fが年に4回ほど展示替えがあるコレクション展会場。2Fが年間5本から6本ほど開催される企画展会場。3Fが資料閲覧室です。
館内各所に美術館が蒐集したデザインに秀でた椅子があり、自由に鑑賞できます。
1Fのコレクション展会場から屋外展示場に出入りする箇所が手動ドアです。
搬入口から入る裏庭に1台分身障者用駐車区画があり、この駐車場から館内へ移動する通路に手動ドアがあります。
「千葉県立美術館」
1974年の開館。ポートタワーがある千葉港に建ちます。約1万坪の広い敷地に、平屋構造で全8室の展示室が配置されています。
設計は大高正人氏。敷地内には20体以上の「野外彫刻」が展示されています。
所蔵作品は千葉県出身の画家の作品など、千葉にゆかりのある作品で、「ミュージアムショップ」には、千葉に関わる商品が並びます。
常設展はなく、年間数本の企画展が開催されます。有料企画展だけではなく、市民ギャラリーの機能も有しています。
敷地内には他に、講堂とアトリエ3室などがある「県民アトリエ棟」、「管理棟」があります。
「神奈川県立近代美術館葉山」
2003年の開館。一色海岸沿いに建ちます。美術館の敷地内から葉山の海の眺望を楽しむことができます。
設計は佐藤総合計画。葉山の海と山の自然に溶け込んだ外観で、館内には自然光を取り入れた展示室があります。美術館は展示室がある本棟と、レストランや売店などが入る別棟に分かれます。
所蔵作品は岸田劉生ほか日本画家を中心に約14,000点。ワンフロア構造で4つの展示室があり、コレクション展と企画展がそれぞれ年間3本から4本開催されます。展示室の内装は洒落たデザインで、縦横に余裕のある空間が広がります。
本棟と別棟の間は中庭のような空間、美術館の周囲は散策路で、計19点の屋外アート作品が展示されています。
車椅子では、駐車場から屋根無しの長いスロープを上りエントランスに向かいます。
「神奈川県立美術館鎌倉別館」
1984年の開館で、2019年にリニューアルオープンしました。
設計は千葉県立美術館と同じ大高正人氏です。
鶴岡八幡宮境内の北側、鎌倉駅と北鎌倉駅の中間付近、鎌倉の閑静な住宅街にある美術館です。1台分身障者用駐車場があり、予約制で利用できます。
1Fと2Fそれぞれにバリアフリートイレがあります。2Fはウォシュレット無しのやや古い設備のトイレです。1Fのトイレは新しくユニバーサルベッドがあります。
1Fと2Fの構造で、各フロア内は車椅子で移動できるバリアフリー仕様です。
2Fの展示室内はスペースに余裕のあるフラットな空間です。
関東6県の県立美術館は車椅子で利用できます。そして、それぞれ独自の魅力がある施設です。
(本稿は2020年2月に執筆しました)