経済産業省が「馬乗り型電動車椅子」のJIS規格を制定

経済産業省は2020年9月23日付で、「馬乗り形電動車椅子」を日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)の安全要求事項(T9210)として制定し、同日公示しました。(※写真は経済産業省のHPから転載しています)

「馬乗り形電動車椅子」について経済産業省は、「介護の担い手不足が高齢化社会の課題となっており、ベッドから車椅子に移乗する際、介護者に過度な負担となっていることから、移乗・移動が容易となる馬乗り形電動車椅子の開発が進められて」いるとし、JIS規格の制定により「安全性に十分配慮した製品開発が可能となります。あわせて、新たな市場の創造とともに、医療・介護の現場においては、被介護者の自立支援と介護者の負担軽減が大いに期待されます。」としています。

「馬乗り形電動車椅子」は、体の向きを変えることなく移乗することができるのが特徴です。

現在では製品数は多くはありませんが、JIS規格の制定を契機に「馬乗り形電動車椅子」の普及が進むかもしれません。

(生きるちから舎ニュース 2020年9月25日付)

別稿で「介護ロボットの開発・実証・普及を目指すプラットフォーム構築事業」を掲載しています。ご参照ください。

障がい者福祉施設での「やむを得ない」身体拘束の実態

障がい者を身体拘束することは違法行為です。しかしながら「やむを得ない」ケースはあり、一定のルールに従えば違法性は問われません。

2019年度に厚労省の事業として実施された「障害福祉サービス事業所等における身体拘束等に関する実態調査」から、2019年10月時点での「やむを得ない」身体拘束の状況を紹介します。

○違法性が問われないルールとは

調査結果を紹介する前に、障がい者の身体拘束に関するルールを簡単に説明します。

認められる場合の3原則は「切迫性」「非代替性」「一時性」です。そして「組織による決定」と「個別支援計画への記載」が必要です。更に「本人・家族への十分な説明」を行い、「必用な事項の記録」を残します。

以上のことを正しく行うことで「障害者総合支援法」や「児童福祉法」違反に問われることなく、また「身体拘束廃止未実施減算」の適用を受けません。

では、障がい者福祉施設での、身体拘束の実態をアンケート調査から抜粋して紹介します。

○3分の1の施設で身体拘束行為がある

調査に回答があった事業所数は521事業所です。その32.8%の事業所がルールに則って「身体拘束を行うことがある」と回答しました。

○最大数は「車椅子」への固定

実施した身体拘束の対象者人数が最も多いのは「車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける」です。

有効回答数で590人に実施され、その内「重症心身障害」が488人、その中で「医療的を要する児者」が55人です。

車椅子のベルトやテーブルによる固定は、重度の身体障がいがある人にとって、姿勢保持や食事、移動の安全のために必要です。厚労省のマニュアルでも、医療的に必要な固定は虐待ではないとされています。ただしその状態での「長時間の放置」は、虐待にあたる場合もあるとしています。

したがって身体拘束とはいっても、姿勢が保てない、側弯がある、テーブル席に移乗して食事がとれない、などの重度障がい者への医療的に正しい身体拘束と、座位が不安定な人が車椅子で外出する際の安全確保のためのベルト固定などが多いことが推定されます。

○強度行動障がい児者への身体拘束

該当数は最大で22名と少数ですが、強度行動障がいがある人への身体拘束は、想定される行為が現実に行われています。

・周囲の人に対して殴る、噛み付く、蹴る、つばをかける、髪を引っ張る等の他害を一時的に職員の体で制止する(22名)

・自分の意思で開けることのできない居室に隔離する(14名)

・公道等に急に飛び出したとき、あるいは飛び出さないように職員の体で制止する(14名)

・頭を柱に強くぶつける、自らの体を激しく傷つけるなどの自傷を一時的に職員の体で制止する(8名)

・自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む(5名)

・脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる(4名)

他にも1~2名ですが「ミトン型の手袋等をつける」「体幹や四肢をひも等で縛る」「向精神薬を過剰に服用させる」という回答があります。

またそれらの身体拘束を1週間で何日実施しているか、という質問には、多くの行為が「5日間」程度です。強度行動障がいがある人への身体拘束は、毎日のように「やむを得なく」行われています。

○身体拘束の廃止・適正化の取組み

身体拘束問題に関する、障がい者福祉施設での取り組み状況です。

「職員に対し、身体拘束の弊害の周知や、身体拘束をしない支援等についての研修会等を行っている」45.3%。

「利用者のアセスメントを十分に行い、身体拘束をしないための支援の質を高める工夫を行っている」 39.7%。

一方、身体拘束を廃止する場合の課題は、

「本人を事故から守る安全対策として、身体拘束以外に方法のない場合がある」 50.1%。「他の利用者を事故から守る安全対策として、身体拘束以外に方法のない場合がある」 47.8%。

支援現場での切実な悩みが回答されています。障がい者福祉施設では、以上のような「やむを得ない」身体拘束が行われています。

(本稿は2020年9月に執筆しました)

別稿で「障がい者への虐待 通報を受けてからの行政の対応マニュアル」を掲載しています。ご参照ください。

障がい福祉+介護保険「共生型サービス」をやさしく解説

「65歳になった障がい者が今までと同じ支援施設を利用できる」「近所の介護施設で放課後等デイサービスを利用できる」。児童、障がい者、高齢者で区分される社会福祉制度を横断する取組みが「共生型サービス」です。サービスを利用する障がい者側として、理解しておきたい共生型サービスのポイントを紹介します。

○施設が利用できる前提

共生型サービスとは、障がい者施設が介護保険制度から、介護施設が障がい者福祉制度から報酬を得る制度です。そのためには施設が行政に申請し認可される必要があります。障がい者が「共生型サービス」を利用できるのは、施設が手続きを済ませ、サービスが開始されてからです。

2018年の制度導入以来、実際に申請した施設はまだ少数です。2019年度に厚労省の事業で実施されたアンケート調査では、共生型サービスを始めた支援施設の動機の第一位は「利用者から要望があったから」でした。

例えば、近隣の介護施設で、ショートステイなど何らかの対象サービスを利用したい障がい者や家族は、その希望を施設に伝えることが申請への第一歩につながる可能性はあります。

同調査で最も多かった利用者からの要望は「65歳に近づいている障がい者が、65歳以後も施設の継続利用を希望している」です。障がい者または家族から、利用している支援施設に意向を伝えることで、介護施設としての新申請につながっています。

ただし65歳以上になると、利用者は介護保険制度の対象になり、サービス利用は有料になります。所得ランクが最も低い人で、利用料の1割負担です。2018年の法改正で介護保険の負担比率は引き上げられ、「現役並み所得世帯」は3割負担になっています。

○制度設計がもたらす施設側の悩み

障がい者側から将来的な利用希望を施設に伝えても、必ずしも申請に動いてくれないかもしれません。利用者としても、施設の悩みを理解しておく必要があります。

共生型サービスの施設側からみた主な悩みを紹介します。

・事務の増加

現在の申請方法は、多くの自治体で新規施設の申請と同等です。つまり膨大な書類が必要です。また多くの自治体では、障がい者と高齢者で担当組織が別で、申請にあたっては、それぞれの課に相談する面倒があります。

サービス開始後は報酬請求事務が新しく発生します。そのための会計ソフトを購入しなければならず、費用が増えたという施設の声があります。

事務が増加するので、少数の利用者のために共生型サービスに参入しても割に合わない、という意見があります。

・支援スタッフの教育

大規模に新サービスを開始するには、スペース、設備、スタッフの増強が必要です。小規模なスタートであっても、介護施設のスタッフに障がい者ケアの研修、障がい者施設のスタッフに高齢者ケアの研修、そして必要な資格の取得などが必要です。調査によると、この点を危惧して、共生型サービスへの参入を躊躇している施設が少なくないようです。

・報酬の減額

障がい者施設と介護施設では、スタッフの数や必要な資格、施設面積など認可要件が異なります。共生型サービスの制度の上の特徴は、両要件を満たさなくても認可することです。ただし要件に満たない施設は、報酬単価が5%から10%程度減額されます。一般に、障がい者施設と介護施設の要件を同時に満たすことは大変です。調査によると、この単価減額制度が、施設の共生型サービス参入へのモチベーションを低下させています。

ただしインセンティブ制度として、有資格者の配置や規定の地域貢献活動の実施などによる、報酬の加点制度はあります。

○富山型地域共生サービスの拡大

施設の成り立ちからして、児童、障がい者、介護の枠組みを超えたサービスがあります。地域の小規模な拠点で、身体、知的、精神の軽度から重度までの障がい児、障がい者、高齢者が共に過ごし、共に生きる施設です。サービスの内容は、デイサービス、ショートステイからホームヘルプまで、施設によっては幅広いメニューが用意されます。

富山県での取り組みが有名なため「富山型」と呼ばれますが、長野県では「宅幼老所」、熊本県では「地域の縁がわ」、高知県では「あったかふれあいセンター」という名称で、サービスの対象者を選ばない福祉支援施設が展開されています。

共生型サービスが一つの契機になり、「富山型」の施設が全国で増加する可能性はあります。障がい者と家族にとって、様々な人々と地域で一緒に生きる拠点になるかもしれません。

○まとめ~課題は情報不足

厚労省の事業による福祉施設へのアンケート調査では、共生型サービスについて「よくわからない」「知らない」という答えが目立ちます。行政からの情報提供は「ない」が多数です。福祉施設側が「よくわからない」のですから、利用者側はもっと「わからない」はずです。

利用者としての障がい者側からみた、想定できる共生型サービスの主なメリットをまとめます。

・利用している支援施設が介護施設認定になれば、自分が65歳になっても介護保険から施設が報酬を受け取れる。それによって自己負担は発生するが施設を継続利用できる。

・近隣の介護施設が障がい者施設認定になり、デイサービス、ショートステイ、ホームヘルプなどのサービスを開始すれば、65歳未満でも利用できる。

・「富山型」施設が地域にあれば、利用する福祉サービスの選択肢が増える。良い方向に進めば、地域での共生が強まる。

共生型サービスで考えられるリスク因子は以下です。

・受入人数の増加やスタッフの専門性の低下などにより、サービスの質が劣化する。

・同じ施設で同じサービスを受けても、年齢と収入で「0円」から「3割負担」まで自己負担額に差があり、利用者間に不公平感がでる。

・例えば、高齢者施設を「騒ぐタイプ」の若い障がい者が利用するなど、異質な利用者が入ることで、利用者間にトラブルがおきる可能性がある。

利用者側にとって、共生型サービスの拡大は、基本的に受け身です。地域の行政と福祉施設の動向に注目して情報を収集して下さい。

(本稿は2020年9月に執筆しました)

別稿で「地域共生社会と新事業をやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。