障がい福祉+介護保険「共生型サービス」をやさしく解説

共生型サービス

「65歳になった障がい者が今までと同じ支援施設を利用できる」「近所の介護施設で放課後等デイサービスを利用できる」。児童、障がい者、高齢者で区分される社会福祉制度を横断する取組みが「共生型サービス」です。サービスを利用する障がい者側として、理解しておきたい共生型サービスのポイントを紹介します。

○施設が利用できる前提

共生型サービスとは、障がい者施設が介護保険制度から、介護施設が障がい者福祉制度から報酬を得る制度です。そのためには施設が行政に申請し認可される必要があります。障がい者が「共生型サービス」を利用できるのは、施設が手続きを済ませ、サービスが開始されてからです。

2018年の制度導入以来、実際に申請した施設はまだ少数です。2019年度に厚労省の事業で実施されたアンケート調査では、共生型サービスを始めた支援施設の動機の第一位は「利用者から要望があったから」でした。

例えば、近隣の介護施設で、ショートステイなど何らかの対象サービスを利用したい障がい者や家族は、その希望を施設に伝えることが申請への第一歩につながる可能性はあります。

同調査で最も多かった利用者からの要望は「65歳に近づいている障がい者が、65歳以後も施設の継続利用を希望している」です。障がい者または家族から、利用している支援施設に意向を伝えることで、介護施設としての新申請につながっています。

ただし65歳以上になると、利用者は介護保険制度の対象になり、サービス利用は有料になります。所得ランクが最も低い人で、利用料の1割負担です。2018年の法改正で介護保険の負担比率は引き上げられ、「現役並み所得世帯」は3割負担になっています。

○制度設計がもたらす施設側の悩み

障がい者側から将来的な利用希望を施設に伝えても、必ずしも申請に動いてくれないかもしれません。利用者としても、施設の悩みを理解しておく必要があります。

共生型サービスの施設側からみた主な悩みを紹介します。

・事務の増加

現在の申請方法は、多くの自治体で新規施設の申請と同等です。つまり膨大な書類が必要です。また多くの自治体では、障がい者と高齢者で担当組織が別で、申請にあたっては、それぞれの課に相談する面倒があります。

サービス開始後は報酬請求事務が新しく発生します。そのための会計ソフトを購入しなければならず、費用が増えたという施設の声があります。

事務が増加するので、少数の利用者のために共生型サービスに参入しても割に合わない、という意見があります。

・支援スタッフの教育

大規模に新サービスを開始するには、スペース、設備、スタッフの増強が必要です。小規模なスタートであっても、介護施設のスタッフに障がい者ケアの研修、障がい者施設のスタッフに高齢者ケアの研修、そして必要な資格の取得などが必要です。調査によると、この点を危惧して、共生型サービスへの参入を躊躇している施設が少なくないようです。

・報酬の減額

障がい者施設と介護施設では、スタッフの数や必要な資格、施設面積など認可要件が異なります。共生型サービスの制度の上の特徴は、両要件を満たさなくても認可することです。ただし要件に満たない施設は、報酬単価が5%から10%程度減額されます。一般に、障がい者施設と介護施設の要件を同時に満たすことは大変です。調査によると、この単価減額制度が、施設の共生型サービス参入へのモチベーションを低下させています。

ただしインセンティブ制度として、有資格者の配置や規定の地域貢献活動の実施などによる、報酬の加点制度はあります。

○富山型地域共生サービスの拡大

施設の成り立ちからして、児童、障がい者、介護の枠組みを超えたサービスがあります。地域の小規模な拠点で、身体、知的、精神の軽度から重度までの障がい児、障がい者、高齢者が共に過ごし、共に生きる施設です。サービスの内容は、デイサービス、ショートステイからホームヘルプまで、施設によっては幅広いメニューが用意されます。

富山県での取り組みが有名なため「富山型」と呼ばれますが、長野県では「宅幼老所」、熊本県では「地域の縁がわ」、高知県では「あったかふれあいセンター」という名称で、サービスの対象者を選ばない福祉支援施設が展開されています。

共生型サービスが一つの契機になり、「富山型」の施設が全国で増加する可能性はあります。障がい者と家族にとって、様々な人々と地域で一緒に生きる拠点になるかもしれません。

○まとめ~課題は情報不足

厚労省の事業による福祉施設へのアンケート調査では、共生型サービスについて「よくわからない」「知らない」という答えが目立ちます。行政からの情報提供は「ない」が多数です。福祉施設側が「よくわからない」のですから、利用者側はもっと「わからない」はずです。

利用者としての障がい者側からみた、想定できる共生型サービスの主なメリットをまとめます。

・利用している支援施設が介護施設認定になれば、自分が65歳になっても介護保険から施設が報酬を受け取れる。それによって自己負担は発生するが施設を継続利用できる。

・近隣の介護施設が障がい者施設認定になり、デイサービス、ショートステイ、ホームヘルプなどのサービスを開始すれば、65歳未満でも利用できる。

・「富山型」施設が地域にあれば、利用する福祉サービスの選択肢が増える。良い方向に進めば、地域での共生が強まる。

共生型サービスで考えられるリスク因子は以下です。

・受入人数の増加やスタッフの専門性の低下などにより、サービスの質が劣化する。

・同じ施設で同じサービスを受けても、年齢と収入で「0円」から「3割負担」まで自己負担額に差があり、利用者間に不公平感がでる。

・例えば、高齢者施設を「騒ぐタイプ」の若い障がい者が利用するなど、異質な利用者が入ることで、利用者間にトラブルがおきる可能性がある。

利用者側にとって、共生型サービスの拡大は、基本的に受け身です。地域の行政と福祉施設の動向に注目して情報を収集して下さい。

(本稿は2020年9月に執筆しました)

別稿で「地域共生社会と新事業をやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。