重度重複障がい者の看取りを施設に託す際に家族がなすべきこと

人生の最終段階。戦前は家庭、戦後は病院での看取りが多数ですが、近年「施設」での看取りが増加しています。重度重複した障がいあり、障害者入所施設で生活している人で、住み慣れた施設で看取られる人も増えてきました。現時点での社会制度や医療の常識に照らして、重度障がい者の人生の最終段階において、一般的に家族が考えるべきポイントを紹介します。

 

○本人の意思確認が出来ない場合のガイドライン

厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」をまとめています。そこでは「本人の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要がある」としています。

①家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

②家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。

このガイドラインが想定している主なケースは、知的に健常であった人が人生の最終段階で自分の意思表示ができなくなった場合です。重度の知的障がいがある人の場合は、ガイドラインに従えば②を選択することになります。「このプロセスを繰り返し行う」ことが重要です。

 

○障がい分野には看取り加算がない

介護保険制度の枠組みには、福祉法人に対する報酬の増額「看取り加算」があります。65歳未満で人生の最終段階を迎える場合、入所施設への加算はありません。したがって介護スタッフや看護師の増員、医療機器の配備などによる経費増は、そのまま施設の負担になります。

家族が入所する施設の経営努力の限界について、客観的に理解する必要があります。ただしこれは現状における現実的な観点であり、本来的には障がい者の権利や人権という観点から、あるべき姿を議論すべき課題です。

 

○治療方針指示書や看取り同意書の作成

「延命治療」と「緩和治療」について、家族が文書を作成してその意思を明確にすることがあります。「延命治療」は望まないとした場合、医療として延命治療しか施しようがないことを理由に、医療機関から通院や入院を拒否されるケースがあり得ます。この場合結果的に、容態が悪化した入所者を施設のスタッフが看ることになります。

時間とともに、家族の考え方がぶれることがあります。そのため入所施設から看取りに関する「同意書」へのサインを求められるケースがあります。

人生の最終段階に関する文書を作成する場合は、その人に関わる医療機関やケアチームと、十分な意思疎通を行う必要があります。

 

○施設や地域により体制や経験は様々

いくつかのアンケート調査によると、入所施設での障がい者の看取りは、すでに多くの施設で経験があるようです。しかしまだまだ歴史は浅く、事例も十分に多くはありません。

多くの入所施設では、看取りにふさわしい個室が少ない、夜間の容態の急変に対応出来る体制がない、医療機関との連携が不十分、そして介護スタッフへの教育研修が十分ではなく、多くのスタッフは経験不足で、不安と疲労を抱えている、などの課題があります。

施設や地域により状況は異なります。障がいのある家族の入所する施設、地域の現状を正しく理解する必要があります。

 

重度障がい者の高齢化と家族の8050問題、地域共生社会と入所施設の関係、大人になった障がい児の「きょうだい児」問題など、「重度重複障がい者の看取り」は、深くて重いテーマと関連する、これからの課題です。

(本稿は2020年8月に執筆しました)

介護ロボットの開発・実証・普及を目指すプラットフォーム構築事業

介護ロボットの開発・普及が国策として取り組まれています。2020年8月3日から「令和2年度介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築事業」が始まりました。事業の概要と重点分野をやさしく解説します。

 

○利用者と開発者をつなぐPDCAサイクル事業

介護事業者など介護ロボットの利用者側と、開発企業からの相談窓口を、全国11カ所に開設します。あらゆる相談に対応し、総合的な活用支援を行う、ワンストップ相談窓口を目指しています。

相談窓口とは別に、介護の現場で利用された介護ロボットの実証支援、評価・効果検証を行う「リビングラボ」を全国6カ所に開設します。「リビングラボ」は、十分な活動実績がある研究所など既存の専門機関が参加します。

相談窓口と「リビングラボ」、そして介護現場がつながり、製品の企画開発、効果的な運用、導入効果の検証、製品の改良と新製品の開発を進める事業です。

なお相談窓口と「リビングラボ」の設置数は事業開始時点のもので、今後増設される可能性があります。

 

○相談窓口の機能

利用者側に対して以下の支援を行います。

・介護ロボットの製品情報の提供と体験展示

・介護ロボットの試用貸し出し

・介護ロボットの活用方法や導入事例の紹介

・利用できる補助金や基金の紹介

・各種研修会の実施

開発企業へは以下の支援を行います。

・開発に関する補助金の紹介

・出展可能なイベントの紹介などPRに関する相談への対応

・製品評価や効果検証に関する要望があった場合は「リビングラボ」への取り次ぎ

そして利用者と開発者をつなぐ事業として、協議会を運営して介護現場のニーズを反映した介護ロボット開発の提案内容を取りまとめます。

・ニーズ・シーズ連携協調協議会の設置・運営

 

○介護ロボットの重点分野

厚生労働省は2017年に、6分野13項目の介護ロボットを重点にすることを定めています。

・移乗支援

ベッドから車椅子、車椅子から食卓などへ移乗する際の介護者の負担を軽減。

・移動支援

外出や屋内移動、立ち座りを支援。

・排せつ支援

排泄を予測してトイレ誘導、下着の着脱などトイレ内の動作支援、ロボット技術を用いた排泄物の処理。

・見守りコミュニケーション

徘徊や転倒を感知する、センサーや通信機能による見守りロボットと、AIスピーカーなどによる生活支援ロボット。

・入浴支援

入浴行動の動作一連を支援するロボット。

・介護業務支援

排せつ時間、バイタルチェック、支援活動記録など、介護にかかわる情報を収集蓄積し、それを分析提案して介護に活用するシステム。

 

○介護ロボットの現状

介護施設および障害者施設、そして家庭での介護ロボットの普及状況は、正確なデータはありません。

2019年にある民間事業者がおこなったアンケート調査によると、介護施設の約3割が何らかの介護ロボットを導入しているという回答であったそうです。

現在販売されている製品で、介護施設である程度利用されていると思われるものは、

・見守りセンサー

・介護ベッド

などではないでしょうか。装着型の移乗支援パワーアシスト器具などを利用している施設は、少数だと思われます。

同アンケートで、介護ロボットを導入していない約7割の介護施設にその理由を尋ねたとろ

・価格が高い

・実用的ではない、役に立たない

・安全性に不安

以上の3点が未導入の上位理由だったそうです。

「令和2年度介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築事業」では、介護の現場で安全に役立つ、効果と価格が釣り合う介護ロボットの開発・普及への取り組みが行われます。

(本稿は2020年8月に執筆しました)

乗り物や駐車場 車椅子のためにバリアフリー法が規定する目標値

電車、バス、航空機、客船、UDタクシー、そして駐車場まで、バリアフリー法とそのガイドラインでは、様々な数値的目標が挙げられています。その中から、知っているようで一般的には知られていない、具体的な数値目標を抜粋して紹介します。

《電車》

・客室には1列車ごとに2以上の車椅子スペースを設ける。ただし3両編成以下の車両で組成する列車にあっては 1 以上とすることができる。

・車椅子スペースの長さは、1,300mm 以上とする。ただし、車椅子使用者が同じ向きの状態で利用する車椅子スペースを2以上縦列して設ける場合にあっては、2台目以降の車椅子スペースの長さは、1,100mm 以上とすることができるものとする。

・車椅子スペースの幅は、750mm 以上とする

・車椅子スペースには、車椅子使用者が握りやすい位置(高さ 800~850mm 程度)に横手すりを設置する。上記手すりの径は 30mm 程度とする。

・(特急車両などに設ける)車椅子スペースの広さは、1,400mm 以上×800mm 以上とすることが望ましい。そして車椅子が転回できるよう、周囲を含めると1,500mm 以上×1,500mm 以上の広さを確保することが望ましい。

・車椅子で単独乗降しやすいプラットホームと車両乗降口の段差・隙間に関する実証試験では、段差 3cm・隙間 7cm の組み合せであれば、車椅子自走者約 9 割の被験者が乗降可能であった。段差・隙間の縮小に向けた当面の目安値は 段差3cm × 隙間7cm以内とする。

・客室にトイレを設置する場合は、そのうち 1 列車ごとに 1 以上は、車椅子使用者の円滑な利用に適したトイレを設ける。

 

バリアフリー法が規定する目標値

《バス》

・乗降時における乗降口の踏み段(ステップ)高さは 270mm 以下とする。出来れば高さは 200mm 以下とすること が望ましい。

・車椅子使用者等を乗降させる際のスロープ板の角度は 7 度(約 12%勾配・約 1/8)以下とし、スロープ板の長さは 1,050mm 以下とする。出来れば、スロープ板の角度は 5 度(約 9%勾配・約 1/12)以下とすることが望ましい。

・スロープ板の耐荷重については、電動車椅子本体(80~100kg)、車椅子使用者本人、介助者の重量を勘案し、300kg 程度とする。

・乗降用リフトを設置する場合の耐荷重も、電動車椅子本体(80~100kg)、本人、介助者の重量を勘案し、300kg 程度とする

・乗り合いバスには 2 脚分以上の車椅子スペースを確保する。スペースは乗降口から 3,000mm 以内に設置する

・長時間の乗車となる場合の多い都市間バスにおいては、車内にトイレを設置する。ドアは軽い力で操作できる仕様とし、開き戸の場合は外開きとする。ドア開閉ノブ等の高さは 800~850mm 程度とする。出来れば車椅子使用者が利用可能なトイレを設けることが望ましい。

・車椅子対応トイレを設置しない車両の運行に際しては、高速道路サービスエリア等の公衆トイレを利用できるような運行計画を立てることが望ましい。

 

バリアフリー法が規定する目標値

《航空機》

・客席数が30以上の航空機には、通路に面する客席(構造上の理由によりひじ掛けを可動式とできないものを除く。)の半数以上について、通路側に可動式のひじ掛けを設けなければならない。

・客席数が60以上の航空機には、当該航空機内において利用できる車椅子を備えなければならず、備え付けられる車椅子を使用する者が円滑に通行することができる構造でなければならない。

・通路が2以上の航空機には、車椅子使用者の円滑な利用に適した構造を有する便所を1以上設けなければならない。

 

バリアフリー法が規定する目標値

《客船》

・バリアフリー客席(基準適合客席)を、旅客定員 25 人に対して 1 個以上の割合で設置する。

・車椅子スペースを、旅客定員 100 人に対し 1 個以上の割合で設置する。

・バリアフリー食堂の車椅子使用者用テーブルを、バリアフリー食堂のいすの収容数 100 人に対して 1 個以上の割合で設置する。

 

バリアフリー法が規定する目標値

《UDタクシー》

・乗降口のうち 1 カ所は、スロープ板その他の車椅子使用者の乗降を円滑にする設備を備える。

・車椅子のまま乗車できる乗降口を1 以上設け、その有効幅は 700mm 以上、高さは 1,300mm 以上とする。

・車椅子のまま乗車できる車両の室内高は、1,350mm 以上とする。

・停車時の乗降口地上高は、350mm 以下とする。

 

バリアフリー法が規定する目標値

《都市公園の駐車場》

・車いす使用者用駐車施設の設置数は、当該駐車場の全駐車台数が 200 以下の場合は、駐車台数に 1/50 を乗じて得た数以上とし、全駐車台数が 200 を越える場合は、当該駐車台数に 1/100 を乗じて得た数に2を加えた数以上の車いす使用者用駐車施設を設置する。

・車いす使用者用駐車施設の幅は 350cm 以上とする。

※(公財)東京都道路整備保全公社の「駐車場ユニバーサルデザインガイドライン」では、「障害者用駐車スペース」は幅 3.5m以上、奥行き 6m以上。「福祉車両対応の障害者用駐車スペース」は幅 3.5m以上、奥行き 8m 以上というガイドラインを示しています。

 

バリアフリー法およびガイドラインでは、以上の数値目標が掲げられています。

(本稿は2020年8月に執筆しました)