障がい者スポーツ種目 パラリンピック効果でボッチャが1番人気に躍進

公益財団法人笹川スポーツ財団による調査「障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究2021」が公表され、コロナ禍以後の障がい者スポーツの状況が分かりました。同調査は全国150の障がい者専用・優先スポーツ施設に対し、2021年11月から12月にかけて実施されています。様々な角度から障がい者スポーツの実態が分かる、社会的な価値の高い研究です。

同調査による「障害者専用・優先スポーツ施設における種目別スポーツ大会やイベントの実施内容」の結果を引用して紹介します。( )内の数値は、150施設の内、2021年度にその種目のスポーツ大会やイベントを実施した施設の比率です。

第1位:ボッチャ       (68.1%)

第2位:卓球         (58.3%)

第3位:水泳         (33.3%)

第4位:アーチェリー     (23.6%)

第5位:車椅子バスケットボール(20.8%)

同調査によるボッチャの実績は、2015年度は37.0%、2018年度は48.3%で、卓球と大きく差がある2位でした。

パラリンピック効果で、ボッチャは障がい者スポーツの人気種目に成長しています。

《生きるちから舎ニュース 2022年7月22日付》

別稿で「重度の身体障がいがある人のためのスポーツ ボッチャの概要」を掲載しています。ご参照ください。

重度重複障がい者の生涯学習を紹介するパンフレット

重度重複障がい者の生涯学習啓発パンフレット「だれでも参加できる生涯学習の機会を作りませんか?」が文部科学省から発行されました。以下のアドレスで公開されています。

https://www.mext.go.jp/content/20220608-mxt_kyousei01-01845_02.pdf

令和3年度の文部科学省委託調査「生涯学習を通じた共生社会の実現に関する調査研究」の調査結果に基づき、当事者の学びのニーズと具体的な取組内容を紹介しています。

パンフレットでは訪問型、集合型、オンライン型など13の実例が掲載され、主催者の活動への想いが語られています。その一部を紹介します。

・本人に楽しみがあって、本人を肯定してくれる存在があることで、本人も家族も生活の幅が広がっている。

・重症心身障がい児者が特別支援学校の在学中に育んだ、意思表示する力を、卒業後も継続的に広げたり生かしたりすることを目指している。

・参加者には一人の大人として向き合い、極力、発達の年齢を考慮したプログラムを心掛けている。

・自宅で生活している参加者と家族にとっては、自宅外での活動の場が少ないので、仲間に会える大切な場所になっている。

・障がいの有無に関わらずみんなが参加できる学び場づくりを継続している。

文部科学省から委託されてパンフレットを作成した事業者は「1 冊を通して生涯学習の必要性、意義を理解してもらい、実際の取組イメージを醸成する啓発パンフレットという位置づけにして作成した。」としています。

《生きるちから舎ニュース 2022年6月10日付》

別稿で「大人になった重度重複障がい者と共に生きる親の想い・悩み・希望」を掲載しています。ご参照ください。

インクルージョン、ノーマライゼーション・・・障がい分野の用語を解説

インクルージョン、ノーマライゼーション、ダイバーシティ、アクセスビリティ、ユニバーサル、サスティナブル、ウェルビーイング。これらの用語が、障がい福祉分野で使用される場合の一般的な意味を解説します。

〇インクルージョン

「地域共生社会」を意味して使用されることが多く、障がいがある人も地域で暮らし、地域の市民と共に生きる社会のイメージを表します。

「ノーマライゼーション」が理念だとすれば、インクルージョンは実践、または方法論に近い概念で用いられることもあります。

インクルージョンは名詞で、形容詞がインクルーシブ。形容詞を用いてインクルーシブ社会など、広く共生社会をイメージして使用されることもありますが、インクルーシブ教育、インクルーシブ公園など、対象範囲を狭めて障がいのある人とない人が一緒になるシーンを象徴する表現としても用いられます。日本ではインクルージョン教育など名詞を組み合わせた表現になることもあります。

〇ノーマライゼーション

ノーマリゼーションと表記されることもあります。日本では福祉政策の理念として用いられる言葉です。

最初は知的な障がいのある人に限定した、分け隔てのない普通の生活権を意味する言葉でしたが、現在では多くの場合、高齢者や社会的マイノリティを含めた広義の人々を対象にした用語として使用されます。

「バリアフリー」に比べれば、より抽象的な理念あるいは考え方を意味する用語ですが、概念的に「心のバリアフリー」という表現が用いられた場合は、ノーマライゼーションとほぼ同じことを意味することがあります。

〇ダイバーシティ

原語は多様性を意味しますが、日本では企業など組織における女性活用や外国人活用など、仕事で多様性のある人材を活用する意味で使用される多く、そこから転じて障がい福祉分野で使用されるダイバーシティは、障がい者雇用のことを指す用語になりつつあります。

例えば、積極的に障がい者を雇用する経営方針を「ダイバーシティ経営」と表現、企業が障がい者の法定雇用率を達成するため、あるいは障がい者を戦力として活用するために用いる人事管理手法を「ダイバーシティ・マネジメント」と表現することなどがあります。

狭義の障がい者に限定せずに、働きづらさを抱える人が、多様な働き方で一般就労することを「ダイバーシティ就労」と表現するケースもみられるようになりました。この場合は、障がい者雇用よりも対象者が広く、マイノリティなども含めた概念になり、用語としては「インクルージョン」に近いイメージで使用されています。

〇アクセスビリティ

誰もが情報に容易にアクセスできることを意味するIT用語として使用されることが多く、障がい福祉の分野では、ほとんどの場合「情報の利用におけるバリアフリー化」を意味して使用されます。

もっとも多く用いられているのは、様々な障がいのある人が、WEB上の情報にアクセスできることに対する表現で、「アクセシビリティに配慮したウェブページ」などの言い回しで使用されます。

政府が定める「障害者基本計画」では「ソフト、ハード両面にわたる社会のバリアフリー化を推進し、アクセシビリティの向上を図る」と表現されています。

〇ユニバーサル

哲学上の「ユニバーサリズム」は、人の属性にとらわれずにすべての人を同等に考える主義思想を指します。したがって障がい福祉の分野で「ユニバーサリズム」という場合、意味としてはノーマライゼーションに近い用語です。

「ユニバーサルデザイン」は、出来るだけ多くの人が利用できることを最初から目指したデザインを意味し、バリアフリーとは似て非なる用語として解説されています。

近年定着した言葉は「ユニバーサルツーリズム」や「ユニバーサルツアー」。バリアフリーな観光、旅行を示す用語で、国土交通省も積極的に使用しています。

〇サスティナブル

国連で「SDGs」が採択されてから、日本でも用いられることが多くなりました。日本語に訳しにくい言葉で「持続可能」などと表現されています。

地球環境にやさしいこと、人々の健康に役立つことなどがイメージされる用語なので、ビジネスシーンでは「サスティナブル投資」「サスティナブル経営」などと使用されています。

障がい福祉の分野では、まだ使われ始めたばかりの用語ですが、例えば障がいのある人を長期間伴走型で支援するサービスは「サスティナブル・サポート」と表現されることもあります。

そのほかに、障がい者の就労が長く続くための支援、あるいは福祉施設のスタッフの転職を防止する支援策などにも、「サスティナブル」が使用される事例が目に付くようになりました。障がい者アートを「サスティナブル・アートプロジェクト」と称している事例もあります。

〇ウェルビーイング

WHO憲章の前文にも規定される言葉で、無理やり日本語に訳すと「幸福」。「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」を意味します。

障がい福祉の分野では「重度障がい者も地域移行でウェルビーイングを」などと使用されます。この場合は、障がいのある当事者や家族が、総合的に自分が幸せであると感じる状態であることを意味します。

個々人の主観的な幸福度を示す概念なので、その人の個性、その国の文化、その時代の価値観などに大きな影響を受けます。したがって障がい福祉分野のウェルビーイングとは、その人、その地域、その時点で最適と思われる状態を意味します。

言葉の定義は難しく、特にカタカナ用語は、使用する人のイメージで微妙にニュアンスが変わります。誤解を生まないように、全体の文脈の中で、真意を読み取ることが必要です。

(本稿は2021年3月に執筆しました)

別稿で「障がい者福祉の歴史 ノーマライゼーション8原理をやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。