日蓮宗総本山、山梨県身延町の身延山久遠寺は、2009年に斜行エレベーターやバリアフリーカート道を整備したバリアフリー寺院です。
2021年8月から新エレベーターが供用され、駐車場から総受付、本堂、祖師堂などへ、階段を使用することなく参拝できるようになりました。
その時のプレスリリースによると「当山ではSDGsの基本理念でもある誰一人取り残さない社会を目指し、共栄運動を推進してまいります」としています。久遠寺のバリアフリー状況を紹介します。
アクセスは車が便利。境内周辺に複数の参拝者用駐車場があります。健脚の人は門前駐車場などを利用し、門内商店街を散策して「三門」をくぐり、287段の「菩提梯」を上がり、本堂へ向かうルートが選択できます。
車椅子利用者は斜行エレベーターの発着地である「西谷せいしん駐車場」の利用をお薦めします。この駐車場だけは有料です。駐車料金の障がい者減免制度はありません。
身障者用駐車スペースは斜行エレベーター寄りに2台分。
反対の山側にも1台分設定されています。この駐車場から斜行エレベーターを利用します。
斜行エレベーターは無料で利用できますが、浄財募金箱が設置されています。駐車場の横に「下の駅」があります。ここまで全く段差なく車椅子で移動できます。
エレベーターは2基。定員は30名です。今回取材したのは閑散期で、1台のみ運行されていました。
乗車口の横にあるボタンを押して、斜行エレベーターを呼びます。
到着すると自動ドアが開きます。乗降口とエレベーターに段差はありません。
エレベーター内で行先ボタンを押すと、ドアが閉まり動き出します。
斜行エレベーター内から駐車場が、はるか下に見えます。
「上の駅」に到着する自動でドアが開きます。上の駅も段差なく乗降できます。そしてここにも浄財募金箱が設置されています。
上の駅プラットフォームには、身延山ロープウェイなど各種のパンフレットが置かれています。また壁面にはAEDが設置されています。
上の駅から境内への移動ルートはフラットな舗装路面です。
エレベーター駅を出ると境内に入ります。境内は砂利路面ですが、全域にわたり舗装されたバリアフリーカート道が整備されています。
本堂などの回廊へは、新エレベーターを使用して上がります。その前に、境内に整備されているバリアフリーカート道からの車椅子での参拝状況を紹介します。
久遠寺は大寺院です。斜行エレベーター上の駅から、本堂の横にでます。横に五重塔を見上げる地点です。
本堂の地下が有料施設「宝物館」。正面左側が入口です。
宝物館の入口は階段ルートで、そこから靴を脱いで段差を上がり観覧します。宝物館は車椅子では観覧できません。
斜行エレベーターの上の駅の横側、宝物館入口の正面に境内の公衆トイレがあり、バリアフリートイレが用意されています。
スペースは一般的なサイズのトイレで、ウォシュレット付き便器が備えられています。この他に新エレベーターを利用する「報恩閣」の屋内トイレにも、綺麗なバリアフリートイレがありますが、男女別トイレの中にあるので、異性介護でトイレを利用する人は、この本堂横の公衆トイレの利用をお薦めします。
本堂の前までバリアフリー通路を進みます。五重塔、手水舎、鐘楼が並ぶ配置で、五重塔と手水舎の間にバリアフリーカート道が伸びています。
本堂前からバリアフリーカート道を右折すると、手水舎に近づきます。
手水舎は砂利路面を通り、段差がある構造です。車椅子で手を浄めるのは苦戦します。
その先は287段の「菩提梯」です。手前に段差があるので、車椅子では菩提梯を上から眺めることができません。
下の写真は段の下まで行き、菩提梯を上から眺めた風景です。たいへんな階段です。
バリアフリーカート道を通り、本堂前に再度移動します。正面が本堂、右隣が「祖師堂」です。
お堂に沿ってバリアフリーカート道が整備されています。
本堂の正面は段差構造です。新エレベーターを利用すると上部の回廊に車椅子で移動できます。
祖師堂の前の香炉は車椅子でお参りが出来る構造です。
祖師堂の正面の見事な装飾を、バリアフリーカート道から観覧できます。
報恩閣の前を通ります。大きなしだれ桜があり、下の池には鯉が泳いでいます。
バリアフリーカート道は、日蓮聖人が眠る御真骨堂拝殿の横を通ります。
更に仏殿の前まで、バリアフリーカート道は続きます。
バリアフリーカート道から、仏殿の見事な彫刻を見上げることができます。
バリアフリーカート道は、釈迦殿新納牌堂方面へも伸びています。しだれ桜を近くから観桜できます。
そして大客殿の前で、バリアフリーカート道は突き当たりになります。バリアフリーカート道を本堂方面に引き返します。この角度からもしだれ桜が楽しめます。
2021年に完成した新エレベーターを利用した参拝ルートを紹介します。エレベーターは祖師堂と報恩閣の間にあります。
車椅子で利用できるサイズのエレベーターです。
上階は反対側のドアから出ます。車椅子で利用しやすい構造です。
上階の回廊は土足禁止エリアです。エレベーターから出た場所に、ペーパータオルが置かれています。ここで車椅子のタイヤを拭いて回廊へ入ります。横に靴箱があります。
祖師堂から本堂への回廊の状況です。エレベーターのすぐ横が祖師堂です。
エレベーターから左方面に進むとすぐに祖師堂の回廊に入ります。
そして本堂の回廊へとつながる連絡橋があります。
連絡橋の段差は丁寧に解消されています。
車椅子への配慮がある回廊です。
そして本堂の回廊へ移動できます。
本堂の回廊から五重塔とバリアフリーカート道がよく見えます。
周囲が砂利路面の鐘楼。車椅子では本堂回廊から見ることができます。
本堂のお参りが終わったら、同じルートで祖師堂に引き返します。
祖師堂の見事な装飾を近くから鑑賞できます。
祖師堂をお参りしたら、総合受付と休憩所がある報恩閣に入ります。報恩閣はバリアフリー施設です。
休憩所が2室あり、いずれも段差の無い構造で、車椅子で利用できます。
休憩室には無料のお茶サービスがあり、久遠寺を紹介する映像コンテンツが放映され、各種のパンフレットが置かれています。
休憩室にはロッカーが用意されています。
報恩閣事務所の両サイドに男女別トイレがあります。
男性用と女性用は同じ構造です。
男女別トイレ内の入口近くにバリアフリートイレがあります。
スペースは一般的なサイズの個室で、ウォシュレット付き便器が備えられています。
報恩閣から先へとバリアフリー回廊は続きます。御真骨堂の前を通り、仏殿へとつながります。
仏殿の回廊にバリアフリーに移動できます。
見事な彫刻を鑑賞しながら、仏殿の回廊を進みます。
仏殿正面の回廊から大客殿の威容を鑑賞できます。
仏殿正面の回廊に段差はありません。しかし仏殿正面入口には段差があります。
段差を回避して仏殿に入るバリアフリーポイントが整備されています。
回廊の床を上げて段差解消された入口から、仏殿に入ることができます。
段差は丁寧に解消されています。
仏殿の周囲を廻り、バリアフリー回廊に戻ることができます。
回廊の横に、仏殿内の上階へ行くための昇降機が用意されています。
以上が新エレベーターを利用してお参りができようになった、回廊の全貌です。同じエレベーターを利用して境内に戻ります。
本堂の裏側に、新エレベーターが出来る前に利用されていた昇降機の案内が残されています。
本堂の裏側から、身延山ロープウェイの乗り場へ行くバリアフリー歩道が整備されています。
ロープウェイを利用する健常な人でも、西山せいしん駐車場から坂道を上がるよりは、斜行エレベーターを利用して境内に上がり、本堂裏のバリアフリー歩道経由でロープウェイ乗り場に行くほうが楽です。
ちなみに身延山ロープウェイのゴンドラは、2021年2月に新型パノラマビューゴンドラにリニューアルしました。1号車は「知恩号」、2号車が「報恩号」です。
癒しと信仰のパワースポット身延山久遠寺は、本堂周辺のほぼすべてのお堂を車椅子でお参りすることができる、先進的なバリアフリー寺院です。
身延町のバリアフリー観光施設「道の駅みのぶ富士川観光センター」を別稿で掲載しています。ぜひご覧ください。
(本稿は2022年1月に執筆しました)