大人になった重度重複障がい者と共に生きる親の想い・悩み・希望

知、身体、医療的ケアなど、重度で重複した障がいを抱える人の多くは、18歳で特別支援学校高等部を卒業すると社会人になります。その時点での親の年齢は50歳代が多く、重度重複障がいのある子のケアは、引き続き親が担うケースが多いようです。

大人になった重度重複障がい者と共に生きる親を主な対象にしたアンケート調査が行われました。文部科学省による事業「令和3年度重度重複障害児者等の生涯学習に関する実態調査」は、目的は障がい者生涯教育の状況調査ですが、有効回答者の多くは重度重複障がい者の50代60代の親で、アンケートの記入欄には、障がい者の親の想い・悩み・希望が書かれています。

大人になった重度重複障がい者の親の生声を、「想い」「悩み」「希望」に分類して紹介します。一部意訳して表現を修正している「声」があります。ご承知おきください。

※出所:文部科学省委託調査令和3年度「生涯学習を通じた共生社会の実現に関する調査研究」重度重複障害児者等の生涯学習に関する実態調査

○想い

・知的障がい者にとって学校卒業後に学びを継続する場は皆無。まだまだ伸びしろがあるのに、施設で漠然と過ごさせるのは無念。

・通所先で余暇やレクの時間はあるが、内容がマンネリ化している。これから長い人生を漫然と過ごすのではなく、成長できるような過ごし方をさせたい。

・重症心身障がい児者に教える方法がない、仕方がない、という認識は特別支援教育では変わってきている。学びへの支援をさらに強化してほしい。

・知的な理解度があったので、学校では授業がありメリハリがあったが、卒業後の施設では、10 代 20 代なのに、高齢者のデイサービスのような、ゆったりのんびりとした活気のない生活をしている。まだまだ伸びる力と体力はあるのに、卒業後すぐに高齢者さんと同じ様な生活になるのは人間として悲しい。

・寝たきり生活にはしたくない。何かを達成させるためというよりは、本人の生きる糧や楽しみを持たせたい。

・学習とはほど遠く、生活の維持のみの生活になっている。18 才を過ぎてもまだ成長できる時に学習を分断されてしまうのはもったいない。

子供が大人になっても、子の成長と幸せを願う親の気持ちは変わりません。

○悩み

・本人の意向が親もわからない。時々は旅行や鑑賞観劇などに興味を示すが、連れて歩くには親の体力や気力が湧かず難しい。

・施設に対して本人の云いたい事を代弁しなければならないが、親の勝手な判断で伝える事と伝えない事を仕分けしている。

・施設では習字・絵・陶芸の日などあり、活動が行なわれるが、本人は興味があって参加しているのか分からない。

・レクリエーションなどの支援活動に子どもが受け入れてもらえるイメージが全くない。体調や行動を理解してもらえるとは思えない。

・集団活動が苦手なので一般的な支援活動に参加できない。本人が参加できる支援活動がほとんど見つからない。

・本人にあった施設を捜したら、隣の市に通うことになり、自宅から距離があるため両親が施設まで送り迎えしている。免許を返納したら利用出来なくなる。

・パソコン・フェイスブック・ツイッターなど、自分が苦手なので全く情報が入らない。

・主たる支援者が母なので、体力的な負担が大きい。気持ちも、アイデアもあるが、もどかしい。

・親がいつまでも大人になった子どもの学習を見守るのもどうかと思う。

・日中活動の中だけで学習の機会を完結してはならないと思う。なぜなら地域から隔離されてしまうため。

・今は仕事が手いっぱいで心身ともに余裕がない。

・学習以前に、送迎や入浴をしてもらえると、親は助かる。

・生涯学習と言っても何を学ばせれば良いのか分からない。毎日の介護が精一杯で生涯学習の事を考えている余裕は無い。

・本人のやりたい事をたくさんやらせてあげたいのですが、親が毎回連れて行き、付き添うのは大変。

・大人になると益々本人たちの行き場が無く、引きこもり状態になり、運動不足になる。親も高齢になり、学校時代の様には色々な場所に連れて行けない。

・重度障がいがあっても自宅で参加できる何かが見つかれば、もう少し生活の質の向上ができるのではと悩む。

・卒業直後は情報や学べる機会はあるが、年数が経つにつれて情報が減少し、地方は特に厳しい状況になる。

子供と意思疎通が出来ないこと、自分の力不足、迫り来る老いなどが悩みです。

○希望

・重度重複障がいのため、本人の意向は確認できないが、多くの人と接する事が何より大切だと考えている。

・日々看護師や職員の方々とのふれ合いそのものが学習。家に居ては経験出来ない。

・身体的にも知的にも最重度であるため、特に活動に参加できなくても、外に出かけて色々な音を聞くだけでも、本人にとっては充分に刺激であると思う。

・オンライン学習をして、時々自宅に来てくれる活動をしているボランティア団体があると嬉しい。

・通所施設で週1度でも学校授業のようなプログラムがあるとうれしい

・定期的に出身校へ訪問し、特別支援学校在学中にしていた取り組みをさせてほしい。学校で卒業生が集まって授業を受けられるとよい。

・学校で積み重ねてきたものの抜け落ちに気がついた時に、通所施設でプリント学習などの活動をお願いしたい。

・興味が広がるような体験の機会があればうれしい。障がい者にとってのキッザニアのようなものがあったら楽しい。

・同い年か少し上ぐらいの、同性の健常の人と触れあう機会が欲しい。同年代の支援者と一緒に出掛けられる機会があると、もっと好きなことが見つかる気がする。

・日常生活では金銭感覚が身につかない。生涯をかけて教えてもらえるところが欲しい。

・在学中に体験したボッチャを生活に取り入れたい。練習環境を作りたい。

・地域の人々と交流ができて、本人がここにいて良いと思える、楽しめる場がほしい

・本人にとって何が一番良いのか、家族を中心に生活相談できる場がほしい

現状を肯定する気持ち、子供の能力が今後も成長する希望があります。

障がい者本人に代わりアンケートに回答した50代60代の親は、社会的に現役で、体力的にもまだ頑張れる人が多いようです。子供へのかわらぬ愛情、子供への想いと現実のギャップ、未来への意志と不安を抱え、大人になった子供と共に生活しています。

(本稿は2022年6月に執筆しました)

別稿で「障がい者通所施設で重度重複障がいがある人は何をしているか」を掲載しています。ご参照ください。

「ケアラー支援条例」がある埼玉県の実態調査をやさしく解説

埼玉県は2020年3月31日に、全国初の「埼玉県ケアラー支援条例」を公布・施行しました。その埼玉県で2020年に、一般市民を対象にしたケアラーの認知度に関する調査と、ケアラーを対象にした実態調査が実施され、その結果が公表されています。ケアラー実態調査結果のポイントを紹介します。

一般市民を対象にしたケアラー認知度調査の結果です。

○「ケアラー」という言葉の認知度は17.8%

県政サポーター2,239人からの回答結果です。

「ケアラー」という言葉を「よく知っている」人は3.3%、「ある程度知っている」人が14.5%、ここまでの累計で17.8%です。

「全く知らない」人は65.4%、「聞いたことはあるがよく知らない」人が16.9%でした。

現時点では「ケアラー支援条例」がある唯一の県の市民でも、8割以上の人はケアラーを知りません。

○「ヤングケアラー」を知っているのは2.8%

「埼玉県ケアラー支援条例」は、特にヤングケアラーの支援に力を入れた内容になっています。しかしながら「ヤングケアラー」の認知度は当然「ケアラー」よりも低く、「全く知らない」人が70.8%を占めます。

○「手助けしたい」人は80.2%

ケアラーの認知度は今一つですが「自分の回りに家族等のケアで困っている人がいたら、できることがあれば手助けしたいと思いますか。」という設問に対しては、「思う」人は32.3%、「やや思う」人が47.9%と大多数を占めます。

○知り合いのケアラーから相談を受けた人は39.4%

「あなたの周りに、ケアラー及びヤングケアラーと思われる人はいます(いました)か。」という設問に、「いる」と回答した人は16.6%です。

この「いる」と回答した人を対象に「あなたはケアラー及びヤングケアラーから相談を受けたことがありますか。 」を聞くと、「ある」の人が39.4%でした。

そして「ある」と回答した134人に、複数回答ありで「その方へどのような対応をしましたか。」を問うと、「上手く対応できなかった」人が6.7%でした。もっとも多い対応は「話を聞いた」の76.9%です。

ケアラーという言葉はまだ浸透していませんが、その一方でケアラーへの支援の必要性は広く認識され、実際に相談をうけた人の多くは前向きに対応しています。

次にケアラー実態調査の結果です。

○女性が84.8%

ケアラー448人からの回答で、その被介護者の総数は530人です。

ケアラーの性別は、やはり女性が圧倒的多数でした。

○正規雇用の就労者は18.3%

ケアラーの就労状況です。「正規雇用者」が18.3%、「自営業」が3.1%、ここまでで21.4%。

「非正規雇用者」が29.0%、ここまでの累計で50.4%。ケアラーの半数は、就労しています。

一方で「主婦(夫)」が28.6%、「無職」が17.2%となっています。

○被介護者が複数のケアラーが16.5%

ケアしている人数は、「1人」が82.1%、そして「2人」が13.4%、「3人」が3.1%です。

○被介護者は子供が64.7%

この調査では、「父・母」が14.5%、「義母・義父」が2.8%で、あわせて17.3%でした。

圧倒的多数は「息子・娘」です。

被介護者の年齢は、0歳から60代までで73.6%になります。70代以上は15.6%にすぎません。

○ケアラーの年代は「50代」が23.4%で中心層

ケアラーの年代は50代を中心に、40代から60代で60.5%を占めます。

ここまでのデータで、中高年の母親が、正規の就労ができずに、障がいのある一人の子供のケアをしている現実が見えてきます。

○被介護者の状態で最多は「知的障害」

重複障がいを想定した複数回答ありの設問です。回答の上位3つは「知的障害」が49.8%、「身体障害」が36.0%、「発達障害」が19.8%です。そのような障がいのある子供を、母親がケアしています。

「ケアの頻度」は「毎日」が81.0%と圧倒的多数。

「ケアにかける時間」は、「8時間以上」が37.5%で最多。

「ケアの期間」は「20年以上」が43.5%で最多。

そして「ケアラーが必要と考える支援」の複数回答では「親や家族が亡くなった後の被介護者のケアと生活の継続」が61.8%でトップです。

○ケアラーのレスパイトの状況

複数回答ありで「利用しているサービス」を問うと、トップ3は「通所サービス」が73.4%、「居宅サービス」が36.4%、「ショートステイ」が32.1%でした。

同じく複数回答ありで「ケアに協力してくれる人」では、「医療者やサービス事業所の人」が56.7%で圧倒的なトップです。

また複数回答ありの「ケアラーの悩み」では、「心身の健康」が68.8%、「将来への見通しが持てない」が60.6%と目立ちます。この2つ以外の悩みは40%未満です。

2020年に実施された埼玉県の調査におけるケアラーの典型は、障がいのある子供がいる母親で、正規の就労が出来ずに、20年以上の長期間、毎日、8時間以上のケアを続け、十分なレスパイトはなく心身の健康に不安があり、自分の老いに子供の将来を案じて生活している人です。

(本稿は2020年12月に執筆しました)

別稿で「大人になった重度重複障がい者と共に生きる親の想い・悩み・希望」を掲載しています。ご参照ください。

重度重複障がい者の看取り 家族が考えておくべきこと

誰にも訪れる「死」。その終末期をどのように過ごすか。自分の意思をはっきり伝えられないレベルの重い障がいがある人のターミナルケアは、家族が判断することになります。

重度重複障がいを抱えながら過ごした人生を思い、家族の負担、経済的な問題などを総合的に考えて、最善の選択をしなくてはなりません。

現状の医療および行政制度、施設での看取りが増える近年の動向、関係者へのアンケート調査結果などを踏まえて、重度重複障がい者の家族が考えておくべきことを紹介します。

○最後の最後をどうするか

ターミナルケアとは、そもそも延命治療を行わずに、残された人生の時間を充実したものにすることです。終末期医療のスタート時点で判断に迷う家族は少なく、ほとんどが「無理な延命治療はしない」ターミナルケアの開始を選択しています。

しかし医療機関以外の場所、すなわち自宅あるいはグループホームなどでの看取りを希望した家族で、最後の最後に病院への緊急搬送を頼むケースは少なくありません。

大切な家族の最後を前に、心が揺れ動き、最低限の延命治療や手厚い医療的ケアを急に希望することは、自然な感情です。

終末期医療とはいっても、始まりと終わりがあります。始まり時点での迷いは一般に少ないようですが、最後の最後をどうするかは、出来る限り考えておくべきことです。とくに複数人家族がいる場合は、話し合っておくことが重要です。

○病院か、自宅か、入所施設か

戦前は自宅で看取られる人が多数でしたが、戦後は病院で最期をむかえる人が80%を超えています。そして近年は自宅での看取りが見直されています。

本人の意思が尊重されるべき選択ですが、意思が不明な場合は家族が決めなければなりません。

看取りをする家族は、心身のエネルギーを激しく消耗します。看取る側の家族が障がい者の親で高齢の場合、毎日のように病院に通うことは大変です。また病院での見舞い中は、横になるなど、くつろぐことは出来ません。そして入院費用がかかります。病院でターミナルケアを行う緩和ケア病棟、いわゆるホスピスは、癌とエイズ患者が利用できます。癌患者であれば対象になりますが、重度重複障がい者の受入や看取りの経験は、その病院によります。

自宅の場合、訪問診察医や訪問看護師、ヘルパーなど、様々なメンバーがチームになって支えてくれます。しかし一般的には、夜間は家族が見守ることになります。

近年、グループホームなど入所施設での看取りを希望する家族が現れてきました。入所していた障がい者にとっては、施設は自宅であり、支援員は家族のような存在という判断です。家族が一緒に寝泊まりできるように配慮した施設の事例もありますが、一般的には家族は入所施設にお見舞いに通います。病院とは違い、医療体制はありません。コロナ禍で面会が難しくなったケースもあります。

いずれの選択も一長一短があります。特に家族にとっての短所について、検討しておくことが重要です。

○関係者との意思疎通を図る

近年多く聞かれるのは、グループホームなど入所施設での看取りを希望する家族と、施設職員との意見の対立です。

長年にわたり施設利用者を支援してきた施設職員にとって、家族がターミナルケアを行うこと、すなわち延命治療をやめる選択をすること自体に異論があるケースがあります。

そして障害者支援施設には、一般に看取りのノウハウがありません。また報酬の「看取り介護加算」がありません。

入所施設と家族の間に十分なコミュニケーションがなく、家族が一方的にターミナルケアに移行し、さらには病院並みの介護を要求する。このような問題が起こっています。家族は関係者との意思疎通に気を配る必要があります。

自宅でターミナルケアを行う場合は、家族と支援チームとの意思疎通が大切です。65歳未満の障がい者の場合は、介護保険でいうケアマネジャーに相当するスタッフが不在で、チーム編成や共有するケアプランの作成が難しくなるケースも想定できます。その場合は、家族からお住いの市町村のワンストップ福祉窓口に相談して下さい。

○家族から希望するターミナルケアの内容

ターミナルケアには「身体的ケア」「社会的ケア」「精神的ケア」があります。この内「身体的ケア」は、食事、着替え、排せつ、入浴、移動介助など一般的なケアなので、仮に家族が考えなくても、支援者などが機能します。

「社会的ケア」は、仕事に対する責任、家族への責任などに対する緩和ケアです。重度重複障がいのある人の場合、一般的にはあまり問題はありません。

家族が考えるべきケアは「精神的ケア」です。重度重複障がいのある当事者にとって、終末期にどのようなケアがあると、安らかで穏やかな日々を過ごすことが出来るのか。家族が考えておくべきことです。

例えば、多くの重度重複障がい者は、幼少の頃から音楽療法を受けています。音楽に反応がある人なら、ターミナルケアで音楽療法士のケアを依頼するのも良いかもしれません。音楽療法士は日本では民間の資格で、ターミナルケアでの活躍事例はまだ少ないようですが、欧米のホスピスでは活躍しています。その人にあった「精神的ケア」の提供は、ターミナルケアの重要なポイントです。

以上4つの観点から、重度重複障がい者の看取りに関して、家族が考えておくべきことをまとめました。

(本稿は2020年10月に執筆しました)

別稿で「重度の障がいをもって生まれた子の早すぎる死と向き合う家族」を掲載しています。ご参照ください。