埼玉県は2020年3月31日に、全国初の「埼玉県ケアラー支援条例」を公布・施行しました。その埼玉県で2020年に、一般市民を対象にしたケアラーの認知度に関する調査と、ケアラーを対象にした実態調査が実施され、その結果が公表されています。ケアラー実態調査結果のポイントを紹介します。
一般市民を対象にしたケアラー認知度調査の結果です。
○「ケアラー」という言葉の認知度は17.8%
県政サポーター2,239人からの回答結果です。
「ケアラー」という言葉を「よく知っている」人は3.3%、「ある程度知っている」人が14.5%、ここまでの累計で17.8%です。
「全く知らない」人は65.4%、「聞いたことはあるがよく知らない」人が16.9%でした。
現時点では「ケアラー支援条例」がある唯一の県の市民でも、8割以上の人はケアラーを知りません。
○「ヤングケアラー」を知っているのは2.8%
「埼玉県ケアラー支援条例」は、特にヤングケアラーの支援に力を入れた内容になっています。しかしながら「ヤングケアラー」の認知度は当然「ケアラー」よりも低く、「全く知らない」人が70.8%を占めます。
○「手助けしたい」人は80.2%
ケアラーの認知度は今一つですが「自分の回りに家族等のケアで困っている人がいたら、できることがあれば手助けしたいと思いますか。」という設問に対しては、「思う」人は32.3%、「やや思う」人が47.9%と大多数を占めます。
○知り合いのケアラーから相談を受けた人は39.4%
「あなたの周りに、ケアラー及びヤングケアラーと思われる人はいます(いました)か。」という設問に、「いる」と回答した人は16.6%です。
この「いる」と回答した人を対象に「あなたはケアラー及びヤングケアラーから相談を受けたことがありますか。 」を聞くと、「ある」の人が39.4%でした。
そして「ある」と回答した134人に、複数回答ありで「その方へどのような対応をしましたか。」を問うと、「上手く対応できなかった」人が6.7%でした。もっとも多い対応は「話を聞いた」の76.9%です。
ケアラーという言葉はまだ浸透していませんが、その一方でケアラーへの支援の必要性は広く認識され、実際に相談をうけた人の多くは前向きに対応しています。
次にケアラー実態調査の結果です。
○女性が84.8%
ケアラー448人からの回答で、その被介護者の総数は530人です。
ケアラーの性別は、やはり女性が圧倒的多数でした。
○正規雇用の就労者は18.3%
ケアラーの就労状況です。「正規雇用者」が18.3%、「自営業」が3.1%、ここまでで21.4%。
「非正規雇用者」が29.0%、ここまでの累計で50.4%。ケアラーの半数は、就労しています。
一方で「主婦(夫)」が28.6%、「無職」が17.2%となっています。
○被介護者が複数のケアラーが16.5%
ケアしている人数は、「1人」が82.1%、そして「2人」が13.4%、「3人」が3.1%です。
○被介護者は子供が64.7%
この調査では、「父・母」が14.5%、「義母・義父」が2.8%で、あわせて17.3%でした。
圧倒的多数は「息子・娘」です。
被介護者の年齢は、0歳から60代までで73.6%になります。70代以上は15.6%にすぎません。
○ケアラーの年代は「50代」が23.4%で中心層
ケアラーの年代は50代を中心に、40代から60代で60.5%を占めます。
ここまでのデータで、中高年の母親が、正規の就労ができずに、障がいのある一人の子供のケアをしている現実が見えてきます。
○被介護者の状態で最多は「知的障害」
重複障がいを想定した複数回答ありの設問です。回答の上位3つは「知的障害」が49.8%、「身体障害」が36.0%、「発達障害」が19.8%です。そのような障がいのある子供を、母親がケアしています。
「ケアの頻度」は「毎日」が81.0%と圧倒的多数。
「ケアにかける時間」は、「8時間以上」が37.5%で最多。
「ケアの期間」は「20年以上」が43.5%で最多。
そして「ケアラーが必要と考える支援」の複数回答では「親や家族が亡くなった後の被介護者のケアと生活の継続」が61.8%でトップです。
○ケアラーのレスパイトの状況
複数回答ありで「利用しているサービス」を問うと、トップ3は「通所サービス」が73.4%、「居宅サービス」が36.4%、「ショートステイ」が32.1%でした。
同じく複数回答ありで「ケアに協力してくれる人」では、「医療者やサービス事業所の人」が56.7%で圧倒的なトップです。
また複数回答ありの「ケアラーの悩み」では、「心身の健康」が68.8%、「将来への見通しが持てない」が60.6%と目立ちます。この2つ以外の悩みは40%未満です。
2020年に実施された埼玉県の調査におけるケアラーの典型は、障がいのある子供がいる母親で、正規の就労が出来ずに、20年以上の長期間、毎日、8時間以上のケアを続け、十分なレスパイトはなく心身の健康に不安があり、自分の老いに子供の将来を案じて生活している人です。
(本稿は2020年12月に執筆しました)