重度重複障がい者の看取り 家族が考えておくべきこと

障がい者の看取り

誰にも訪れる「死」。その終末期をどのように過ごすか。自分の意思をはっきり伝えられないレベルの重い障がいがある人のターミナルケアは、家族が判断することになります。

重度重複障がいを抱えながら過ごした人生を思い、家族の負担、経済的な問題などを総合的に考えて、最善の選択をしなくてはなりません。

現状の医療および行政制度、施設での看取りが増える近年の動向、関係者へのアンケート調査結果などを踏まえて、重度重複障がい者の家族が考えておくべきことを紹介します。

○最後の最後をどうするか

ターミナルケアとは、そもそも延命治療を行わずに、残された人生の時間を充実したものにすることです。終末期医療のスタート時点で判断に迷う家族は少なく、ほとんどが「無理な延命治療はしない」ターミナルケアの開始を選択しています。

しかし医療機関以外の場所、すなわち自宅あるいはグループホームなどでの看取りを希望した家族で、最後の最後に病院への緊急搬送を頼むケースは少なくありません。

大切な家族の最後を前に、心が揺れ動き、最低限の延命治療や手厚い医療的ケアを急に希望することは、自然な感情です。

終末期医療とはいっても、始まりと終わりがあります。始まり時点での迷いは一般に少ないようですが、最後の最後をどうするかは、出来る限り考えておくべきことです。とくに複数人家族がいる場合は、話し合っておくことが重要です。

○病院か、自宅か、入所施設か

戦前は自宅で看取られる人が多数でしたが、戦後は病院で最期をむかえる人が80%を超えています。そして近年は自宅での看取りが見直されています。

本人の意思が尊重されるべき選択ですが、意思が不明な場合は家族が決めなければなりません。

看取りをする家族は、心身のエネルギーを激しく消耗します。看取る側の家族が障がい者の親で高齢の場合、毎日のように病院に通うことは大変です。また病院での見舞い中は、横になるなど、くつろぐことは出来ません。そして入院費用がかかります。病院でターミナルケアを行う緩和ケア病棟、いわゆるホスピスは、癌とエイズ患者が利用できます。癌患者であれば対象になりますが、重度重複障がい者の受入や看取りの経験は、その病院によります。

自宅の場合、訪問診察医や訪問看護師、ヘルパーなど、様々なメンバーがチームになって支えてくれます。しかし一般的には、夜間は家族が見守ることになります。

近年、グループホームなど入所施設での看取りを希望する家族が現れてきました。入所していた障がい者にとっては、施設は自宅であり、支援員は家族のような存在という判断です。家族が一緒に寝泊まりできるように配慮した施設の事例もありますが、一般的には家族は入所施設にお見舞いに通います。病院とは違い、医療体制はありません。コロナ禍で面会が難しくなったケースもあります。

いずれの選択も一長一短があります。特に家族にとっての短所について、検討しておくことが重要です。

○関係者との意思疎通を図る

近年多く聞かれるのは、グループホームなど入所施設での看取りを希望する家族と、施設職員との意見の対立です。

長年にわたり施設利用者を支援してきた施設職員にとって、家族がターミナルケアを行うこと、すなわち延命治療をやめる選択をすること自体に異論があるケースがあります。

そして障害者支援施設には、一般に看取りのノウハウがありません。また報酬の「看取り介護加算」がありません。

入所施設と家族の間に十分なコミュニケーションがなく、家族が一方的にターミナルケアに移行し、さらには病院並みの介護を要求する。このような問題が起こっています。家族は関係者との意思疎通に気を配る必要があります。

自宅でターミナルケアを行う場合は、家族と支援チームとの意思疎通が大切です。65歳未満の障がい者の場合は、介護保険でいうケアマネジャーに相当するスタッフが不在で、チーム編成や共有するケアプランの作成が難しくなるケースも想定できます。その場合は、家族からお住いの市町村のワンストップ福祉窓口に相談して下さい。

○家族から希望するターミナルケアの内容

ターミナルケアには「身体的ケア」「社会的ケア」「精神的ケア」があります。この内「身体的ケア」は、食事、着替え、排せつ、入浴、移動介助など一般的なケアなので、仮に家族が考えなくても、支援者などが機能します。

「社会的ケア」は、仕事に対する責任、家族への責任などに対する緩和ケアです。重度重複障がいのある人の場合、一般的にはあまり問題はありません。

家族が考えるべきケアは「精神的ケア」です。重度重複障がいのある当事者にとって、終末期にどのようなケアがあると、安らかで穏やかな日々を過ごすことが出来るのか。家族が考えておくべきことです。

例えば、多くの重度重複障がい者は、幼少の頃から音楽療法を受けています。音楽に反応がある人なら、ターミナルケアで音楽療法士のケアを依頼するのも良いかもしれません。音楽療法士は日本では民間の資格で、ターミナルケアでの活躍事例はまだ少ないようですが、欧米のホスピスでは活躍しています。その人にあった「精神的ケア」の提供は、ターミナルケアの重要なポイントです。

以上4つの観点から、重度重複障がい者の看取りに関して、家族が考えておくべきことをまとめました。

(本稿は2020年10月に執筆しました)

別稿で「重度の障がいをもって生まれた子の早すぎる死と向き合う家族」を掲載しています。ご参照ください。