重い障がいがある人でも、小学校と中学校は義務教育なので、必ず学校に所属して授業を受けます。高校は特別支援学校への進学を希望すれば、実質的には無条件で全員が入学できます。
18歳で高校を卒業すると、障がいのある人も社会人としてどのような生活をするかは各人の自由ですが、多くの人は障がい者通所施設に通います。
障がい者通所施設のタイプと選び方、そして通所施設で行われている活動を紹介します。
○3タイプの通所施設
身体、知的、コミュニケーション面などに重複した重い障がいがある人の場合、高校卒業後に利用できる施設は3種類あります。
最重度の障がいがある人は「生活介護施設」です。生活介護施設に入所するには、行政のスタッフによる判定が必要です。
一般的な仕事は難しいが、簡単な作業などなら出来る人は「就労継続支援B型」施設です。仕事で利益を残して、通所者に賃金を支払います。最低賃金制度は適用されませんが、B型施設は月額3000円以上の賃金を支払う義務があります。
働いて最低賃金以上の賃金をもらうのが「就労継続支援A型」の施設です。A型はパンの製造、清掃・ゴミ処理、おしぼり作り、PC作業、DM発送などが仕事です。地域の行政関連施設や協力的な企業と契約して、業務を受託します。
重複した重い障がいがある人の場合、仕事が出来て「就労継続支援A型」に進める人は少数です。大多数の人は「生活介護施設」か「就労継続支援B型」へ進みます。
○通所施設の選択
特別支援学校の高等部には、一般に進路担当の先生が配置されています。高校に入学したらすぐに、進路についての基本的な説明があります。国の制度、自治体の制度、施設のタイプや特徴、施設で何をするのか、今後の流れなどが、保護者に説明されます。卒業生からの情報も流れます。
進路担当の先生を中心に、保護者と学校が一緒になって、進路の問題の検討が始まります。早ければ高校1年生の時から、遅くても高校2年生の時には、興味のある通所施設に体験参加する機会が設けられます。学校が希望を取りまとめて、各施設に連絡し、日程やプログラムを調整します。
施設体験は、通常は学校の先生と保護者が同行します。高校3年生になると、複数の施設が選択可能なエリアであれば、それぞれ体験して、通所施設の希望先を決めていきます。高校3年生の11月から12月には希望を決定して、学校を通じて行政に申請し、1月までには内定するスケジュールが一般的です。
○就労継続支援B型の通所施設での日常
B型の仕事は、A型と同様に、清掃や軽作業、アクセサリなど工芸品の製作などが主流です。
A型との違いは、障がいのある人が単独で出来ることが少ないため、スタッフが一緒に仕事をすること、1日の内仕事は2時間だけなど、限定的な活動になることです。
どんな簡単な仕事でも、重度重複障がいがある人にとっては、難しいのが一般的です。その人の障がいの状況に応じて、質量ともに無理のない仕事が用意されます。
○生活介護施設の日常
ほとんどの通所施設は、平日の日中の営業です。生活介護施設の多くは、所定のエリア内であればバスの送迎があります。
朝は遅めの開始で夕方は早めの終了、施設での滞在時間は10時から15時くらいまでの運営が一般的です。その場合、バスでの移動時間が片道1時間なら、9時にバスが来て、16時に帰ってくることになります。
施設にいる5時間、重度重複障がいがある人は何をしているのか。
寝たきりに近い、重度身体障がいの人の利用が多い施設だと、食事とトイレ以外はほぼ寝ているだけ、という施設も多くあります。気候の良い日は、近所に車椅子でお散歩に行きます。
障がいのレベルが、寝たきりほど重度ではない人の活動として人気なのは「紙すき」です。スタッフの方と一緒に紙をすきます。すいた紙をまた溶かすこともします。多くの施設で行われている人気メニューです。
知的な障がいのレベルが重くない人の活動では、パソコン操作の練習が人気です。簡単スイッチなど福祉器具もあるので、多くの施設で活動プログラムに取り入れています
そして時々、バリアフリーな施設へ日帰りでお出かけをします。施設によっては、年に1回は泊りがけの旅行に行きます。
生活介護施設の利用者の多くは、家族との言葉によるコミュニケーションが難しい重い障がいがあります。そのため、毎日の様子を施設と家族で伝え合う連絡帳が活用されます。
また保護者会など、施設と家庭の集まりが定期的に開催され、施設の状況や課題の共有が行われます。
○施設との利用契約
障がい者通所施設を利用する場合は、障がいのある人は利用者として施設と「契約」します。したがって通所施設に通う障がいのある人は「利用者」になります。
多くの地域で施設の運営は民間委託が進んでいます。通所施設に通う人を、民間事業者が、利用者として迎える構図になります。
○何歳まで通所施設に通えるか
障がいのある人でも、65歳以上になると介護保険の枠に組み込まれます。したがって18歳から64歳までの人が障がい者通所施設の利用者です。
グループホームを利用出来るレベルの障がい者なら別ですが、自宅で重い重複障がいがある子供の介助を行う生活を親が続けられるのは、現在の平均的な親の年齢としては70歳程度が限界のようです。もちろん様々なケースがありますが、一般に親の体力的な問題によって、多くの重度障がい者は、40代になると通所施設から入所施設に利用先が変わっています。
多くの重度重複障がいのある人は、障がい者通所施設で、18歳から40歳くらいまでの毎日の生活を積み重ねています。
(本稿は2019年12月に執筆しました)