東京都は2004年に「東京都特別支援教育推進計画(第一期)」を策定し、2007年までを第一次実施計画、2010年までを第二次実施計画、そして2016年までを第三次実施計画として、計画を推進してきました。
現在は2017年から2027年までを期間とした「東京都特別支援教育推進計画(第二期)」の、2021年までを期間とした第一次実施計画を推進しています。
2016年までの「第一期計画の主な成果」、第二期計画のゴールである「2027年の主な目標」、そして現在取り組まれている「第二期第一次実施計画の主な施策」を紹介します。
「第一期計画の主な成果」
〇就業技術科の設置
卒後の就労と職場定着を目的にした職業教育を行うコースを、知的障害特別支援学校高等部に設置しました。比較的軽度の障がいの生徒向けの「就業技術科」を5校に設置。軽度から中度の生徒向けの「職能開発課」が2校に設置されました。就業技術科の卒業生の企業就職率は90%を超えています。
その一方で、高校生の教育目標が就労でよいのか、という議論はあります。
〇特別支援学校の新設と再編
障がいの種類によって分科していた養護学校を、知肢併置など複数のコースがある特別学校に再編しました。これにより第一期期間中に10校の特別支援学校が新設されました。
この再編と同期して、知的障害の生徒増に対応するために、15の既存校で普通教室が整備されました。
〇スクールバスの乗車時間の短縮
2004年度と2015年度の比較で、スクールバスの台数は114台から180台に増車され、その結果児童生徒の平均乗車時間が、72分から60分に短縮しました。
〇公立小学校に特別支援教室を設置
小学校の通常の学級には、知的発達に遅れはないものの、学習面又は行動面で著しい困難を示す発達障害の可能性があると考えられる児童が一定程度在籍しています。このような児童を対象にした特別支援教室を2016年度から設置し、初年度で全1,286校の内602校に特別支援教室が設置されました。
〇心理の専門家の学校派遣
発達障害のある生徒への有効な指導について助言等を行う目的で、2008年から心理の専門家を都立高校に派遣しています。毎年10校程度へ専門家が派遣されています。
〇特別支援教育コーディネーターの巡回相談
2007年の学校教育法の改正で「特別支援学校においては、幼稚園、小学校、中学校、高等学校又は中等教育諸学校の要請に応じて、(支援が必要な)幼児、児童又は生徒の教育に関し必要な助言を行うよう努めるものとする。」と規定されました。
特別支援学校から地域の学校への巡回相談は、2015年度には50校、7,038件行われています。
「2027年の主な目標」
※2016年実績に対する目標数値です。
・特別支援学校高等部の準ずる教育課程を履修した卒業生の大学進学率
42.9%→53%以上
・特別支援学校高等部卒業生の企業就労率
41.2%→50%以上
・知的障害特別支援学校高等部就業技術科・職能開発科の設置校数
7校→13校
・副籍制度の利用率
小学校 52.1%→80%以上 中学校 29.2%→50%以上
・特別支援教室での指導が必要と考えられる児童生徒の内、特別支援教室を利用している児童の割合
37.8%→100%
・特別支援学校教員の特別支援学校教諭免許状保有率
65.3%→100%
・教育委員会の当初の就学先の判断と保護者の意向が異なる事例の割合
9.5%→5%以下
「第二期第一次実施計画の主な施策」
・ICT教育の充実
視覚障害教育部門や聴覚障害教育部門はもちろん、肢体不自由教育部門や病院に入院しているような重度の病弱教育部門、家庭訪問教育部門でも、研究・実験・活用が進められています。
・知的障害特別支援学校における自閉症教育の充実
「学習環境の構造化」など、自閉症の児童・生徒が視覚的に分かりやすく理解できるようにするための指導の工夫に取り組んでいます。
・病院内教育の充実
病弱教育部門の再編を行い、専門性を有する教員の計画的な配置・育成、病院内訪問教育機能の拠点化、病院訪問指導時数の充実などに取り組んでいます。
・特別支援学校の施設設備の充実
特別教室及び体育館の冷房化、災害時対策も含めた老朽校舎の改築・ 大規模改修、障害者スポーツの振興に向けた施設設備の充実などを、計画的に進めています。
・児童・生徒の通学環境の改善(スクールバスの充実)
全児童・生徒 の乗車時間を60分以内にします。
・医療的ケアを必要とする幼児・児童・生徒への支援の充実
肢体不自由特別支援学校以外の特別支援学校への非常勤看護師の配置による医療的ケア実施体制の整備を行います。
・特別支援学校における宿泊防災訓練の充実
全都立特別支援学校で、東京消防庁や地域と連携した宿泊防災訓練を実施します。
・チーム学校の整備
これまでの教員を中心とした学校組織から、教職員が多様な専門家と連携・協働しながら特別な教育的支援を要する児童・生徒への対応を行う「チーム学校」の実現を目指しています。
・共生社会の実現に向けた特別支援教育の理解促進
都立特別支援学校における積極的な授業公開の実施、「障害者本人講座」や「ボランティア養成講座」の実施、障害者スポーツを介した地域交流、学校行事等における協力、防災訓練の実施などにより、地域との協力関係の構築を図ります。
学校教育法の一部改正により「特殊教育(心身障害教育)」から「特別支援教育」へ転換したのが2007年です。東京都は長期計画を立てて、特別支援教育を推進しています。
(本稿は2020年7月に執筆しました)