地震、水害、火災、噴火・・・。災害発生時に自宅からの非難を余儀なくされた場合、重度重複障がいのある人など、一般の避難所での生活が困難な要配慮者を受け入れるのが、各市町村で準備している福祉避難所です。運用ルールは各自治体で設定するため、全国一律ではありませんが、おおよそは共通しています。どのような施設が準備され、非常時の運用ルールはどうなっているのか。一般的な状況を紹介します。
〇地域の福祉施設と協定
福祉避難所は、耐震基準を満たすなど安全で且つバリアフリー施設であることが必要です。そのため各地域で用意されている施設の多くは、老人福祉施設、障害者支援施設、児童福祉施設、特別支援学校、保健センターなどの福祉施設です。
福祉施設だけでは要配慮者を受け入れるキャパシティーが足りない地域は、ホテルや旅館等の宿泊施設と協定しています。
また福祉避難所は、小学校区に一つ以上を用意すべきとされています。
避難者の受入が長期になると、施設入所者や通所者の処遇に支障をきたすことが想定されます。このようなケースの対応方針や費用負担のルールは、平常時に個々別々の検討が行われ、協定に盛り込まれています。
〇二次的な避難所
災害が発生し自宅が危険で避難が必要になった場合、最初に避難する先は、要配慮者であっても地域で定められている一般避難所です。多くの地域で、公立の学校、公民館などが指定されています。これら一時避難所でも、要配慮者居室やバリアフリートイレの設置など、避難困難者への配慮が進められています。
一時避難所は市町村の防災計画に則り、例えば震度5以上の地震がきたら開設など、基準に基づいて即時開設されます。一方福祉避難所は、多くの自治体で即時には開設されない計画になっています。
〇災害発生後に準備を完了させてから開設
各自治体の防災計画に基づく被害が発生すると、福祉避難所の開設準備が始まります。多くの自治体の計画では、災害発生後初日に開設が間に合わないケースが想定されています。2日目には開設、という基準を採用している自治体が多数です。
まず福祉避難所協定施設が、被災していないかが確認されます。そして要配慮者を受け入れるスタッフや必要な物資が準備されます。概ね要配慮者10人に1人の専門的な知識を有する生活相談員等を配置することが基準になっています。
用意されるスペースの基準は、1人あたり概ね2~4㎡(畳2畳程度)を確保とされています。ただしこれは、ビフォアーコロナ時代のガイドラインです。
ちなみに福祉避難所に要した経費は、災害救助法が適用されればすべて国庫負担になります。
〇自治体が調整して移動
多くの市町村では、災害が発生すると災害対策本部が設置されることになっています。
自宅からの避難が複数日以上になる要配慮者は、災害対策本部が調整して一時避難所から福祉避難所へ移送します。
福祉避難所での避難生活が困難な要配慮者については、緊急入所、緊急ショートステイ等での対応になることもあります。もちろん医療が必要な人は、病院への入院になります。
福祉避難所では要配慮者等受入リストを作成し、間違いのない避難生活の提供に努めます。
東日本大震災の時は、福祉避難所との連絡が難航し、移動も道路の寸断、車両が手配出来ない、ガソリンが無くなるなど、混乱が生じました。この経験を糧に、各地域で実情に応じた緊急時の行動計画が検討されています。
〇介助者は1名が原則
重度重複障がいのある人の場合、福祉避難所は要配慮者の家族も一緒に入所可能です。ただし介助者は1名を原則としている自治体が多数です。
福祉避難所は、その必要がなくなると閉鎖されます。多くの自治体は、最長で2週間の開設を想定した計画です。1週間想定の自治体もあります。
〇守秘義務の厳守
福祉避難所の設置運営にあたっては守秘義務が課せられています。入所者の情報を他に漏らしてはなりません。これは福祉避難所を閉鎖した後も同様とされています。
阪神淡路大震災を契機に始まった取り組みです。その後に災害対策基本法が改正され、全国で福祉避難所の整備と準備が進められてきました。しかし東日本大震災では十分に機能できず、ガイドラインの見直しなどが行われました。
そして2016年に発生した熊本地震でも、福祉避難所は計画通りには開設出来ませんでした。巨大災害に対する福祉対応は、極めて難しい問題です。
(本稿は2020年6月に執筆しました)