重い知的障がいのある人の口腔ケアと歯科医のかかり方

重い知的障がいのある人の口腔ケアと歯科医のかかり方

自分の意思で、おとなしく口を開けていられないタイプの重い知的障がいのある人にとって、口腔ケアと歯医者との付き合い方は大きな問題です。

重い障がいのある人の、口腔ケアと歯科治療の実際を紹介します。

重い知的障がいのある人の口腔ケア

「家庭での日常ケア」

日常的な家庭でのお口のお手入れです。

重い障がいのある人にとって「グチュグチュ、ぺ」はとても難しい行為です。これが出来ない、そして自分では歯を磨けない人の場合の日常です。

歯のお手入れは介助者である家族が行います。

電動歯ブラシの利用が便利です。歯科では最高価格帯の電動歯ブラシが推奨されます。一般的には、滅多に故障せずに長く使えます。

電動歯ブラシの基本使用方法は「3秒あて」です。歯一本に3秒、これに耐えられる人ならいいのですが、嫌がる人が多いのが実情です。

当人が協力的でないと歯磨きは大変です。毎日のことなので慣れてもらうしかありません。家庭での忍耐強い訓練が必要です。

電動歯ブラシを当てづらい箇所がある場合は、フロスと通常の手動歯ブラシを併用します。

飲み込めるタイプの歯磨き剤を使用するときも、電動歯ブラシを使うと故障の原因になるので、通常の歯ブラシを使用します。

歯ブラシも歯科専用のものがあります。歯科にかかった際に、合う歯ブラシを紹介してもらうのも良い方法です。

歯科で購入しても、歯ブラシの代金は健康保険の適用にはなりません。

一生懸命歯磨きを頑張っても「グチュグチュ、ぺ」ができない人の場合、研磨剤が入った普通の歯磨き粉が使用できません。

そうすると、どうしても歯が黄色や黒に汚れてきます。

定期的に歯科に通って、綺麗にする必要があります。

近所に重い障がいのある人を受け入れてくれる主治医がいると便利です。学区域の特別支援学校の担当歯科をしている歯科医などは、一般に理解があります。

重い知的障がいのある人の口腔ケア

「障がい者歯科での受診」

近年「○○障害者口腔保健センター」などの名称の「障害者歯科」が整備されてきました。近所の歯科医では受け入れてもらえないタイプの重い障がいのある人でも、受診できます。

2019年11月現在で、東京都区内には9カ所の「障害者歯科」が設置されています。障がい者診療のプロ病院です。

「障害者歯科」では、重い障がいのある人でも、定期的な歯科検診と口腔ケア医療を受けることができます。

日常的な口腔ケアが上手に出来ない障がいのある人の場合は、3か月に一回程度の受診が望まれます。

歯科衛生士が1時間近くの時間を使い、丁寧に口腔ケアを行います。

寝て状態でケアができる部屋や車椅子対応の診察台など、必要な設備が整っています。

最後に歯科医が検診して終了です。保険診療扱いになります。

「障害者歯科」では、必要に応じて摂食指導も行います。STの領域です。

障がい者向けのノウハウがあり、ユニバーサルデザインのスプーンやフォーク、エジソン箸など、その人の状況に合った道具を使った摂食指導を行います。

初期食の作り方、トロミ剤の選び方や使い方なども指導します。

虫歯などになり、本格的な治療が必要になった場合です。

体力が弱く、少々暴れるくらいの人なら、マウスピースの使用程度で治療をします。歯科医と衛生士の2名で、上手に押さえて治療をします。

どうしても激しく暴れてしまう人の場合は、全身麻酔をして治療します。

こういうタイプの方は、日常的な口腔ケアも難しく、多くのトラブルを抱えている場合が多いので、事前に周到な準備をして、全身麻酔をしたら複数箇所の治療をいっぺんに進めます。

一般に「障害者歯科」は混んでいます。遠方から来る患者さんも数多くいます。

人気のある病院では、診療まで月単位で待たされるので、計画的に診療予約をして下さい。

歯が折れた、などの突発的なアクシデントには、緊急対応をしていただけるはずです。

自分でケアができない重い障がいのある人にとって、歯のトラブルはつきものです。

ご家族の介助だけではなく、歯科の力を借りて健康な口腔を保ってください。

(本稿は2019年11月に執筆しました)

別稿で「眼科検診 重い障がいのために反応出来ない子供の視力検査」を掲載しています。ご参照ください。