新型コロナだけではない、障がい者と家族が気を付けたい様々な感染症

特別支援学校、通所・入所・訪問など障がい者福祉サービスの現場、そして各家庭で、新型コロナウィルス感染防止対策が取り組まれています。しかしながら、各施設や家庭で気を付けたい感染症は、コロナウィルスだけではありません。2020年10月1日付で厚生労働省から公開された「介護現場における感染対策の手引き(第1版)」から、8種の怖い感染症を紹介します。

○インフルエンザ

前回新型インフルエンザのパンデミックが発生したのは2009年です。標準的な感染予防対策とともに、今回の「手引き」でも推奨されているのは、ワクチン接種です。国の高齢者研究では、ワクチン接種は「65 歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については、34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があった」とされています。

○感染性胃腸炎

主として「ノロウイルス」が病原体です。感染力が強く、100 個以下少量のウイルスでも感染し、集団感染を起こすことがあります。

ノロウイルスは調理の過程において、85℃以上で 1分間以上の加熱を行えば感染性はなくなるとされています。

また感染者を介したヒトからヒトへの感染の例が多く報告され、特におむつや嘔吐物の処理には注意が必要とされています。嘔吐物が乾燥すると空気感染する可能性があります。

症状がおさまってからも最大4 週間程度は排便内に多くのウイルスが見つかることがあります。

○結核

現在日本では、1日約40人の新しい患者が発生し、6人が命を落としている感染症です。咳が 2 週間以上続く場合は要注意です。

感染性の患者からの空気感染が主な経路です。治療薬は一定期間、確実に内服することが必要で、服薬を途中で止めてしまうと、薬の効かない耐性菌ができてしまいます。

○腸管出血性大腸菌

病原体はO157などです。腸内でベロ毒素と呼ばれる毒素を産生させ、腹痛や血便、最悪は死に至ることもあります。ワクチン、特効薬はありません。

接触感染、経口および糞口感染、生肉などの飲食物から感染します。少量の菌量で感染するため、消毒、手洗いの徹底などで、二次感染を防ぐことが重要です。

○レジオネラ菌

循環式浴槽水、加湿器の水、給水・給湯水などが感染源になります。急激に重症となって死亡する場合もあるレジオネラ肺炎を起こすことがあり、抗菌薬の治療が必要です。

レジオネラが増殖しないように、入浴設備、空気調和設備の冷却塔および給湯設備などの点検・清掃・消毒を徹底することが重要です。家庭用加湿器も、毎日水の交換とタンクの清掃を行うことが推奨されています。

○疥癬

ヒゼンダニが皮膚に寄生することで発生する皮膚病です。腹部、胸部、大腿内側等に紅斑、丘疹、鱗屑を生じ、激しいかゆみを伴います。

直接的な接触感染の他に、衣類やリネン類等から間接的に感染する例もあります。ヒゼンダニは皮膚から離れると比較的短時間で死滅します。

治療を開始すれば感染性はほとんどなくなります。発症者の早期治療と、二次感染の防止が重要です。

○ウイルス性肝炎

B型肝炎ウイルスが病原体です。全身倦怠感、食欲不振から、慢性肝炎、肝硬変、肝がんへ進行するケースもあります。

血液・だ液・精液から感染し、主に母子感染、性感染、注射針を介して感染します。血液などの体液に触れる場合は、手袋を着用し、歯ブラシ、カミソリなどの共有は避けます。

ワクチン接種は有効で、B型肝炎ワクチンは約 90%以上の人が免疫を獲得します。

○薬剤耐性菌感染症

MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や MDRP(多剤耐性緑膿菌)など、誰でも体内に持っている黄色ブドウ球菌や大腸菌に薬が効かなくなり、いったん感染症を起こすと治療が難しくなります。

薬剤耐性菌は主に分泌物や排泄物等に含まれます。おむつの交換など排泄物を扱う作業は菌を伝播するきっかけとなりやすいため、手袋やエプロン等の装着が必要です。

標準的な予防策の徹底を中心に、怖い感染症から障がいのある家族を守りましょう。

(本稿は2020年10月に執筆しました)

障がい者福祉施設での「やむを得ない」身体拘束の実態

障がい者を身体拘束することは違法行為です。しかしながら「やむを得ない」ケースはあり、一定のルールに従えば違法性は問われません。

2019年度に厚労省の事業として実施された「障害福祉サービス事業所等における身体拘束等に関する実態調査」から、2019年10月時点での「やむを得ない」身体拘束の状況を紹介します。

○違法性が問われないルールとは

調査結果を紹介する前に、障がい者の身体拘束に関するルールを簡単に説明します。

認められる場合の3原則は「切迫性」「非代替性」「一時性」です。そして「組織による決定」と「個別支援計画への記載」が必要です。更に「本人・家族への十分な説明」を行い、「必用な事項の記録」を残します。

以上のことを正しく行うことで「障害者総合支援法」や「児童福祉法」違反に問われることなく、また「身体拘束廃止未実施減算」の適用を受けません。

では、障がい者福祉施設での、身体拘束の実態をアンケート調査から抜粋して紹介します。

○3分の1の施設で身体拘束行為がある

調査に回答があった事業所数は521事業所です。その32.8%の事業所がルールに則って「身体拘束を行うことがある」と回答しました。

○最大数は「車椅子」への固定

実施した身体拘束の対象者人数が最も多いのは「車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける」です。

有効回答数で590人に実施され、その内「重症心身障害」が488人、その中で「医療的を要する児者」が55人です。

車椅子のベルトやテーブルによる固定は、重度の身体障がいがある人にとって、姿勢保持や食事、移動の安全のために必要です。厚労省のマニュアルでも、医療的に必要な固定は虐待ではないとされています。ただしその状態での「長時間の放置」は、虐待にあたる場合もあるとしています。

したがって身体拘束とはいっても、姿勢が保てない、側弯がある、テーブル席に移乗して食事がとれない、などの重度障がい者への医療的に正しい身体拘束と、座位が不安定な人が車椅子で外出する際の安全確保のためのベルト固定などが多いことが推定されます。

○強度行動障がい児者への身体拘束

該当数は最大で22名と少数ですが、強度行動障がいがある人への身体拘束は、想定される行為が現実に行われています。

・周囲の人に対して殴る、噛み付く、蹴る、つばをかける、髪を引っ張る等の他害を一時的に職員の体で制止する(22名)

・自分の意思で開けることのできない居室に隔離する(14名)

・公道等に急に飛び出したとき、あるいは飛び出さないように職員の体で制止する(14名)

・頭を柱に強くぶつける、自らの体を激しく傷つけるなどの自傷を一時的に職員の体で制止する(8名)

・自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む(5名)

・脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる(4名)

他にも1~2名ですが「ミトン型の手袋等をつける」「体幹や四肢をひも等で縛る」「向精神薬を過剰に服用させる」という回答があります。

またそれらの身体拘束を1週間で何日実施しているか、という質問には、多くの行為が「5日間」程度です。強度行動障がいがある人への身体拘束は、毎日のように「やむを得なく」行われています。

○身体拘束の廃止・適正化の取組み

身体拘束問題に関する、障がい者福祉施設での取り組み状況です。

「職員に対し、身体拘束の弊害の周知や、身体拘束をしない支援等についての研修会等を行っている」45.3%。

「利用者のアセスメントを十分に行い、身体拘束をしないための支援の質を高める工夫を行っている」 39.7%。

一方、身体拘束を廃止する場合の課題は、

「本人を事故から守る安全対策として、身体拘束以外に方法のない場合がある」 50.1%。「他の利用者を事故から守る安全対策として、身体拘束以外に方法のない場合がある」 47.8%。

支援現場での切実な悩みが回答されています。障がい者福祉施設では、以上のような「やむを得ない」身体拘束が行われています。

(本稿は2020年9月に執筆しました)

別稿で「障がい者への虐待 通報を受けてからの行政の対応マニュアル」を掲載しています。ご参照ください。

自傷、攻撃、こだわり 行動障がい児者支援の現状をやさしく解説

重度の知的障がいがある人の中に、強度行動障害と定義される人がいます。自傷行為、他者や物への攻撃、強いこだわり行動などがあり、家族や施設での支援が重要になります。行動障がい児者に対して、現状では主にどのような支援が行われているのかを簡潔に紹介します。

○国の支援は資格と報酬

主に福祉施設の責任者と支援員を対象に、各都道府県で「強度行動障害支援者養成研修」が行われています。レベル別に基礎研修と実践研修があり、それぞれ講義と演習で12時間のカリキュラムが組まれています。

そして研修を受講し、資格のあるスタッフが支援する施設は、報酬単価が上がります。

○研修の主な内容

行動障がい児者の行動を観察し、その真の原因を探る手法を学びます。表面に現れるごく一部の減少から、問題の全体を推定するので「氷山モデル」とよばれます。

行動の状況をチェックシートに示し、そこからアセスメントシートへ転換していく手法などが学習の中心です。

行動の真相を突き詰めた上での現状分析支援策の中心的な概念は「構造化」と呼ばれます。行動障害がある人が「今何をするのか」「次にどうなるのか」を予測できるようにします。

部屋の配置などを工夫する物理的構造化、スケジュールを視覚的に工夫する構造化、絵やリストなどを使ったワークシステムの構造化、いつも同じ手順を行うルーティンの構造化などの手法や実例を学びます。

これらの手法は「予防的な施策」です。問題のある行動の発生を予防するのが目的です。

○支援高度化のためのフォローアップ施策

現状では都道府県単位で、行動障がい児者支援のフォローアップ施策が行われています。

「一般社団法人全日本自閉症支援者協会」による「強度行動障害児者に携わる者に対する 体系的な支援スキルの向上及びスーパーバイズ等に関する研究」では、以下の事例が紹介されています。

千葉県では、民間施設での中核的人材16名に対して、断続的に年間30日以上の研修を実施し、支援レベルアップの核人材を育成しています。講義や実践、そしてメンバーや講師が現場で意見を交換してアセスメントからのPDCAを事例検討します。

横浜市では「発達障害者地域支援マネジャー」を4人専任常勤し、横浜市内の事業所を対象とした強度行動障害支援者養成研修の企画・実施ならびにコンサルテーション事業を一体的に運営しています。

福岡市では、支援が困難な強度行動障害者を、支援拠点において 24 時間体制で原則3 ヶ月の集中支援を行い、行動問題の軽減を図ると同時に障害特性に応じた今後の支援のあり方を検討し、集中支援後の新しい支援チームに引き継ぐ取り組みを行っています。

行動の分析、そして構造化による予防、支援内容の高度化。行動障がい児者への福祉支援は、以上のような取り組みが行われています。

関連する記事として「重度知的障がい者の行為や動作から推定される感覚過敏の実例」を別稿で掲載しています。ご参照ください。

(本稿は2020年9月に執筆しました)