戦後日本で発生した数々の薬害 悲劇の原因と被害者の状況

サリドマイド薬害が発生したのが1958年から1962年。被害者は2021年現在、還暦前後の年齢になり、様々な障がいに苦しんでいます。MMRワクチン接種による薬害は、1993年まで被害が続きました。日本における薬害の事実と、被害者の障がいの状況です。

○ジフテリア予防接種(1948年~1949年)

京都と島根で、ジフテリア毒素が不活化されていないジフテリアワクチンが予防接種に用いられ,多くの乳幼児が被害にあった事件です。被害者 854 人、死者は 84 人、生存した被害者の多くは後遺症が残りました。世界最大の予防接種事故といわれています。ワクチン製造と検定の両面で、問題があったとされています。

ジフテリア患者の届け出数は,1945 年には 約 8 万 6 千人で、その約 10% が死亡しています。1948 年に予防接種法が制定され,国民の義務として予防接種が行われるようになりました。その直後に発生した薬害です。

1981 年から現行の DPTワクチンが接種取され、現在ではジフテリアの発症者はほとんど報告されていません。

○キノホルム剤によるスモン(1953年頃~1970年)

スモン(SMON)とは,亜急性脊髄・視神経・末梢神経症(亜急性脊髄視神経症)(Subacute Myelo-Optico-Neuropathy)の略称です。キノホルム整腸剤の副作用で、約半数の患者が運動機能障がいになり、下肢の筋力低下による歩行障がい、重症の場合には上肢にも障がいが及びます。

また20~30%の患者は視力障がいとなり、約5%の患者が全盲であるというデータがあります。

その他に、自律神経障がいによる足の冷感、尿失禁、便秘や下痢などがみられます。

キノホルムは明治時代からある薬品で、1955年頃からスモンが散発するようになりました。キノホルム剤は、外用殺菌剤として開発され、それが内服となり,更に効能も次第に拡がり、短期間でなく長期連用されるような使い方に変化した薬です。昔から使っている薬が,使い方、量、目的が変化し、薬害を起こしました。

スモンは1967年~1968 年頃に大量発生しました。しかしスモンの原因はわからずに、原因不明の奇病とされ、1970 年にはウイルス感染説が提唱され、患者に対する差別がおこり、自殺する患者もでました。

しかし同年にはキノホルムとの関連が疑われたため、厚生省はキノホルム剤の販売や使用の中止措置を講じました。薬害によるスモン患者の総数は約 11,000 人とされています。

その後全国でスモン訴訟が起こされ、1979年に原告と被告である国・製薬会社との全面的な和解が成立しました。

1979 年「医薬品副作用被害救済基金」が設立。同年、再発を防止するために、薬事法が大幅に改正されました。

被害者の平均年齢は、2021年で85歳になります。

○サリドマイド胎芽症(1958年~1962年頃)

1958 年から販売された、ドイツの製薬会社の新薬、サリドマイド製剤による薬害です。妊娠中につわりなどで悩む人が服用し、上肢や聴覚などに障がいのある子供が次々と生まれました。

当時、厚生省が認定した患者は309人ですが、死産や軽障がい児などを加えると、実際には約1,000人の被害者が生まれた薬害です。全世界で5,800人程度の被害者が生まれたと推定されています。

西ドイツの医師がサリドマイドの危険性を警告した後、欧州各国ではすぐに薬剤の販売中止と回収が行われましたが、日本では警告から10か月後まで販売が続きました。製薬会社と行政当局の姿勢が批判されます。薬剤の回収不徹底により、日本では1969年まで、サリドマイド胎芽症の新患の発生が確認されています。

日本の被害者は1961年に国と製薬会社を相手として告訴し、1974 年に和解しました。

多くのサリドマイド被害者は、身体機能の障がいに加えて、外見の奇形などによる社会的な偏見や差別に苦しんでいます。また近年は、加齢に伴う二次障がいを訴える被害者が増えています。

○クロロキンによる網膜症(1959年頃~1975年頃)

抗マラリア薬として開発されたクロロキンの適応が拡大され、失明など視覚障がいを引き起こした薬害です。

クロロキンは1955 年に抗マラリア薬として承認されました。マラリアの特効薬として短期間の投与に限って使用される劇薬です。クロロキンは抗マラリア薬としては、WHO の必須医薬品リストに掲載されています。

1958 年にはクロロキンの適応を腎炎、慢性関節リウマチ、気管支喘息、てんかんに拡大 。1961 年には慢性腎炎の特効薬として大量販売されました。そしてクロロキン網膜症が顕在化。その症状の特性上、被害者数は正確には把握されていませんが、1,000人から2,000人程度と推定されています。1972 年に被害者の会が結成され、1973 年より各地でクロロキン訴訟が提起されました。

1974 年になって製薬企業はクロロキンの製造を中止、1976 年には再評価結果で腎炎に対して有効性なしと判定されました。当時の非科学的な薬剤承認プロセスと、厚生省が米国よりクロロキンの危険性に関する情報を入手したのに何もしなかったことが問題です。

○筋肉注射による小児の筋拘縮症(1962年頃~1973年)

医薬品の使用方法が不適切であったため、病院で風邪の治療を受けた小児が、肢体不自由になった薬害です。

当時は風邪をひいた小児に対して、筋肉注射で大量の抗生物質や解熱剤を投与する治療法が行われていました。そのような治療法をおこなっていた病院がある地域にだけ見られた薬害のため、初期には地域的な奇病かと疑われました。当時被害者は、原因が伝染や遺伝ではないかと疑われ、社会的な偏見差別を受けています。

1973年に、患者の集積状態や注射の既往歴から、原因が筋肉注射であることが推定され、この薬害が発覚しました。

1974年には風邪の治療に大量の抗生物質や解熱剤を注射する治療は行われなくなり、新患発生は激減しました。

1975年の調査で、重症児1,552名、軽症児1,177名とされています。1977年の厚生省の発表では、大腿四頭筋短縮症8,833人、三角筋短縮症656人、殿筋短縮症168人、被害者は全国で数万人はいると推定されました。

この薬害を契機に、小児への注射は必要最低限とする医療に変わりました。医薬品の正しい使用方法を厳格に検査し、その結果を医療現場に伝える。当たり前のことが行われずに発生した薬害です。

○MMRワクチンによる無菌性髄膜炎(1989年~1993年)

はしか、おたふくかぜ、風疹を予防する新三種混合ワクチンの副反応により、重い脳症になり、死亡または重い後遺症が残る幼児が発生した薬剤です。

接種を開始した初年度から、重度の副反応が報告され始め、その後その発生頻度が増加したにも関わらず、1993年までワクチン接種が継続されました。副反応の要因は、製薬会社が製造方法を変えたこととされています。

1994年に混合ワクチンは禁止され、以後は単独ワクチンの接種になりましたが、MMRワクチンの悪印象は強く残り、ワクチンの接種率が落ち、その後にはしかの流行を招くことになりました。

1991年には、無菌性髄膜炎の発生率は1,200人に1人とされています。被害者総数は約1,800人。絶対的な発生率は低くても、重篤な副反応が起きるワクチン接種は、もっと慎重に判断されるべきでした。

○ヒト乾燥硬膜移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病(~1997年)

クロイツフェルト・ヤコブ病(以下CJD)は、歩けなくなり、動けなくなり、話せなくなり、思考できなくなり、無言無動状態になって、命を奪われてしまう疾患です。

脳外科手術の際に、ヒトの死体から採取したヒト乾燥硬膜(商品名ライオデュラ)の移植によってクロイツフェルト・ヤコブ病に感染した薬害です。ヤコブ病の病原体に汚染された硬膜が製品の原材料に使用されたことが原因です。

1987年には米国で患者発生が報告され、この商品の輸入禁止措置がとられました。日本が使用禁止にしたのは、10年後の1997年です。この対応の遅れの真の原因や責任の所在は明確にされていません。

厚生労働省の調査では、硬膜移植後のCJD発症者は152人、1996年以後に、訴訟の対象になった患者は136人で、その後全員が死亡しています。訴訟では2002年に国と製薬会社が薬害発生の責任を認めました。訴訟136件の最後の和解が成立したのは2017年です。薬害は過去のことではありません。

この他にも、血液製剤によるHIV感染で1,400人以上、血液製剤によるC型肝炎ウイルス感染で約1万人の薬害被害者がいます。薬害被害者は生命の危機、心身の障がい、そして多くのケースで差別や偏見を受けてきました。

(本稿は2021年2月に執筆しました)

別稿で「障害者基本法が定めていることをやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。

2019年度の給与実績からみる福祉従事者待遇改善の状況

障がい福祉サービス従事者の低賃金が問題になっています。厚生労働省の2020年2月調査による、給与の状況が公表されました。2019年度の職員待遇改善の状況を紹介します。

○対前年比5%増

平均給与の増加率は、5%台になりました。

引き上げ方法のアンケート調査結果は、「定期昇給」が57%、「各種手当の増加新設」が39%、「賞与の増加」が38%、「定期昇給以外の賃上げ」が22%となっています。

約半分の障がい福祉サービス事業所で、職員に対して定期昇給が実施されました。

○平均月収は30万円台

常勤者の月額平均給与金額です。調査では「経験・技能を有する職員」と「一般職員」に区分けして金額を算出しています。

※「経験・技能を有する職員」=介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士又は保育士の資格を有する者、心理指導担当職員(公認心理師を含む)、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、サービス提供責任者

※平均給与額 = 基本給(月額)+ 手当 + 一時金(10月~3月支給金額の1/6)

「経験・技能を有する職員」が対前年増額21,540円の375,120円。

「一般職員」が対前年増加額17,250円の321,820円。

各種手当と賞与を加味した平均月額なので、この金額の12倍が年収になります。

年収を計算すると

「経験・技能を有する職員」=4,501,440円/年(前年増+258,480円)

「一般職員」=3,861,840円/年(前年増+207,000円)

政府が待遇改善の一つの目安にしているのが、年収440万円以上です。「経験・技能を有する職員」は、2019年度で450万円平均になりました。

○福祉・介護職員処遇改善加算制度の利用状況

障がい福祉サービス従事者の待遇改善のための直接的な政策として、福祉事業所を対象にした標記の加算制度があります。

定められた要件を満たした事業所が、所定の申請をすると、最大で職員一人当たり月額3万7千円が加算されます。

2019年度で8割を超える事業所が、何らかの加算を取得しています。未取得の2割弱の事業所にその理由をアンケートした結果が公表されています。

「賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」30%

「賃金改善の仕組みを設けることにより、職種間の賃金のバランスがとれなくなることが懸念されるため」30%

「賃金改善の仕組みをどのようにして定めたらよいかわからないため」29%

「賃金改善の仕組みを設けることにより、福祉・介護職員間の賃金バランスがとれなくなることが懸念されるため」22%

以上が加算未取得の主な理由です。

他業種との単純比較による安易な評価はできませんが、2019年度の福祉の仕事の給与は、昇給率は5%程度、年収は400万円前後でした。

(本稿は2020年11月に執筆しました)

施設で暮らす障がい者の人数 令和2年版厚生労働白書からの推計

様々な事情により、入所施設で生活をしている障がいのある人は何人いるのか。2020年10月に公表された「令和2年版厚生労働白書」の数値から、身体および知的障がい児・者の、施設入所状況を推計しました。

なお白書のデータは、ほとんどが2017年から2019年にかけて行われた各種の推計値に基づいています。また重複障がいの場合、身体と知的の人数は重複集計されています。

○身体障がい児は18人に1人が施設に入所

18歳未満の子どもの身体障がい児の総数は、7万2千人と推計されています。

そして「平成31年3月の国民健康保険団体連合会による支払いの実績データから、抽出・集計した」データによると、「福祉型障害児入所施設」に1,473人、「医療型障害児入所施設」に1,955人、合計で3,428人が入所しています。

この他の施設に入所している障がい児を加えて、白書では約4,000人の身体障がい児が施設に入所していると推計しています。

入所している4,000人は、身体障がい児総数の72,000人の、5.6%になります。身体障がい児の18人に1人は入所施設で暮らしています。

○大人の身体障がい者は60人に1人が施設に入所

18歳以上の大人の身体障がい者の総数は、419万5千人と推計されています。高齢者を含む18歳以上の日本の総人口の、31人に1人が身体障がい者です。

白書では大人の障がい者の入所者総数を、7万人と推計しています。身体障がい者の総数に対する比率は低く、1.7%です。入所施設で暮らすのは、身体障がい者の60人に1人です。

○知的障がい児は20人に1人が施設に入所

18歳未満の子どもの知的障がい児の総数は、22万5千人と推計されています。

白書では約1万1千人の知的障がい児が施設に入所していると推計しています。総数に対する入所者の比率は4.9%です。知的障がい児は20人に1人が施設に入所しています。身体障がい児の18人に1人と比べ、大きな差異はありません。また相当数の障がい児は、重複障がい児ではないかと推察されます。

○大人の知的障がい者は7人に1人が施設に入所

18歳以上の大人の知的障がい者の総数は、85万1千人と推計されています。

白書では約12万2千人の知的障がい者が施設に入所していると推計しています。総数に対する入所者の比率は14.3%です。大人の知的障がい者の7人に1人が施設に入所しています。

○グループホーム入居者数と夜間ケア利用者数は各13万人

白書では「平成31年3月の国民健康保険団体連合会による支払いの実績データから、抽出・集計した」数値で、グループホーム入居者数と夜間ケア利用者数を推計しています。

それによると、共同生活援助(グループホーム)利用者総数は、131,627人、障害者支援施設での夜間ケア等(施設入所支援)利用者数は、127,916人です。どちらも13万人前後の利用となり、大人の知的障がい者の推定入所者総数12万2千人の近似値になっています。

以上データに基づくと、入所施設で暮らす障がいのある人の総人数は15万人前後と、大雑把には推計されます。同白書によると、全国でグループホームの事業所数は9,111、療養介護施設数は254となっています。

(本稿は2020年10月に執筆しました)