発達障害など脳にダメージがある人に多い「感覚過敏」。当人にしか分からない苦しい症状です。それでも言葉にして自分の症状を説明できれば、他者も感覚過敏の実際をイメージできます。
言語によるコミュニケーションが困難な重度障がいがある人の多くには、感覚過敏を思わせる行為や動作があります。家族や支援者は、重度知的障がい者の感覚過敏を正しく推定して、その要因を取り除いてあげたいものです。
どのような感覚過敏があるのか。実際に経験したことがある実例を紹介します。
○幼児の泣き声を聞くとパニックになる
典型的な聴覚過敏の例です。激しい自傷行為、ときには周りにいる人への攻撃がおきます。またこの人は自分で歩けるので、道路への飛び出しなどのリスクも想定されます。公園に外出するときは子ども広場を避けるなど、なるべく幼児と遭遇しない生活をしています。
○他者のクシャミに激しく反応する
突然の大きな音に対する聴覚過敏です。なかでもクシャミに対する反応が激しく、体が硬直して数秒ですが呼吸が止まります。同居家族はクシャミが出そうになると、すぐになるべく離れて、口を押えて音を小さくする努力をしています。
○握り寿司をネタとシャリに分解して食べる
普通食で問題のない人です。おそらく味や触感が交じり合うのが嫌いな味覚過敏です。刺身も酢飯も好きなのですが、握り寿司を分解します。サンドイッチやハンバーガーも同様で、そのままガブリとは食べられません。食べ方が汚いと叱ることはできません。
○ゼリーが食べられない
やわらかい食材、ゼリーのような食感が苦手な味覚過敏です。お粥や豆腐、フルーツではブドウなども嫌います。そういう食感の食材をなるべく避けた食事を提供するのも、やってみるとなかなか大変ということです。
○バナナが大嫌い
ゼリー嫌いの人が激しく嫌うのはバナナです。味覚過敏によりバナナを口にしないのはもちろん、バナナの匂いを嗅ぐと嘔吐反応がでます。嗅覚過敏です。またスーパーマーケットなどで、遠目でバナナを見ただけで嘔吐反応がでることもあります。こうなると視覚過敏ともいえます。バナナと出会わない生活をこころがけるしかありません。
○衣服は匂いを嗅いで選ぶ
知的と下肢不自由の重複障がいがある人で、上肢は動かすことができ、視力はあります。今日着る服を選んでもらうと、匂いを嗅いで選びます。好む衣服は、体に密着感のない、ゆったりたっぷりした服です。したがって嗅覚過敏の行為ですが、触覚過敏があり、体を締め付けるような衣服は苦手なのだと推定されます。同時に、なんでも匂いで確認したがる、またそれにより確認ができることは、嗅覚過敏でもあるはずです。
強度行動障害につながるような深刻なことから、比較的軽いことまで、感覚過敏は様々な行為や動作から推定できます。コミュニケーションが難しい重度の障がいがある人でも、周囲の努力で、当人にとっては辛い感覚過敏への配慮ができます。
(本稿は2020年11月に執筆しました)