障がい者差別・合理的配慮 交通事業者を悩ます障がい者の言動

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」の改定に向けて、関係団体からヒアリングした結果が、2021年11月15日に開催された「障害者政策委員会」で報告されました。その中から、交通事業者を悩ます障がい者の言動事例を抜粋して紹介します。なお分かりやすさを優先し、ヒアリング結果の原文は、部分的に修正しています。ご承知おきください。

事業者側からみると、暴力的な障がい者の事例です。

・車椅子利用者が駅員に介助申出をせずに改札口を通過し、ホームの構造の問題で単独で乗車できなかったことに立腹し、駅員に暴力を振るい、警察へ連絡することとなった。

・終電を待つ車椅子利用者がホーム上に虫を見つけ立腹し「始末するまで乗車しない」と言い出し、さらに駅員に対して降車駅まで同乗するように要求し、終電車の出発が遅れた。降車駅において乗車駅で対応した駅員へ降車駅に来るように要求。さらに自宅までのタクシー代を要求した。対応した職員に対して暴言を吐き退駅を拒み、警察へ連絡することとなった。

次は事業者からみると、合理的配慮の枠を超えた支援を要求する障がい者の事例です。

・朝のラッシュ時間帯の駅内で、白杖を持つお客様に、車椅子でタクシー乗り場まで送るよう依頼された。駅事務室の係員が1名だったためにお断りしたが、理由を説明しても納得していただけなかった。

・駅にて、他鉄道に乗換えるお客様から、バッテリーがもったいないとの理由で、電動車椅子の電源を切った状態で乗換え先の改札口まで押すよう要望された。

・駅にて、視覚に障がいのあるお客さまをホームに誘導する際に、お客さまよりホーム上の売店でジュース、サンドイッチ等を購入するよう依頼をされる。係員は対応をしたが、悩ましいという声が上がっている。

・駅にて、歩行障がいのあるお客さまが降車された際に、他社線への乗り換え改札口に行くため、駅備付の車椅子貸し出しによる介助の申し出があった。乗り換えまでの間に店舗での買物(約20分間)への介助支援を強要された。

・駅構外へのお客様の荷物の運搬を強要された。

トイレの支援は難しい判断です。

・車椅子利用の旅客より、駅構内のバリアフリートイレを利用する際に、駅係員へトイレ内での排泄の手伝いを頼まれ、判断に悩み苦慮した。

電車が好きな障がい児の事例です。

・障がいのある子供が、ホームで電車を何本も見ていた。子供が安全に電車を見られるように、係員が付き添うしかなかった。

設備に対する要望です。

・出入口が複数ある駅において、各出入口にエレベーターを設置するよう要望された。

その場での対応が出来ないことに対するクレームです。

・ハンドル型車椅子のお客様に利用不可能な特急列車について、ご理解を得るのに苦慮した。

「時間」に関するクレームは、数多くあるようです。

・車椅子をご利用のお客様から、列車の発車直前に乗車の申し出があり、「乗車前に事前の降車駅への連絡が必要である」ため、次の列車(15分後)への乗車を案内したが、理解していただけず、「障害者差別解消法違反ではないのか」 と苦情を受けた。

・車椅子でバスに乗車されるお客様に対して、乗車場所と時間を予め電話でお知らせいただくことに協力を求めていることに対し、差別的であるとの意見をいただいた。

・介助者の同行や空港への早めの到着を求めること、諸手続きに時間がかかることへの不満の声を頂く。

交通事業者にとって、何よりも優先すべきことは安全。安全と合理的配慮、あるいは差別との線引きは、複雑な問題です。

・JPN タクシーで横向き乗車しか選択肢がない場合、その危険性について説明したが理解されず「とにかくサッサと走れ」と言われた。また説明行為自体が乗車拒絶と受け取られた。

・固定困難な車椅子でバス乗車を希望されても、運行の安全確認ができないため利用をお断りしているが、 お客様の理解を得られない。

・電動車椅子のバッテリーの種類や医療機器など、航空輸送の安全に関わる情報をお客様 ご自身が把握されていないケースが見受けられる。

性的な問題がからむ事例です。

・視覚障害のお客さま介助において、介助職員が女性と判明すると明らかに触ってくる場所がおかしくなった。

・車椅子のお客さま介助において、毎回特定の職員を指定し、「車いすの座り位置を抱きか かえてずらしてほしい」と頼んでくる。

介助者や家族からのクレーム事例もあります。

・車椅子利用のお客さまの身内の方から「本人を車で駅前ロータリーまで送るので、迎えに来てほしい」と言われたが、「我々のお手伝いは電車を安全にご利用頂くためのお手伝いですので、改札口まではお付き添いの方でお願いできますか」と伝えたところ、「仕事で忙しくて改札口まで行けないから頼んでいる」と納得されずに対応に苦慮した。

・重度の障がいがある入院中の預金者のカード再発行のために、銀行窓口に当該預金者の親が来店したが、預金者本人の意思確認のためご事情をお伺いしたところ「言い辛いことを何度も説明させて配慮が足りない」と指摘された。

事業者は何をどこまで対応するべきか、障がい者が要求できる合理的な配慮と、拒否できる差別とは何か。画一的な基準や、明確な線引きができない、難しい検討が続いています。

(本稿は2021年11月に執筆しました)

別稿で「電車・バスなど交通機関の車椅子「接遇ガイドライン」をやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。

電車・バスなど交通機関の車椅子「接遇ガイドライン」をやさしく解説

電車、バス、タクシー、旅客機、客船など公共交通機関で働く人たちは、車椅子利用者への対応について、どのような教育研修を受けているのか。

2018年5月に国土交通省が「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン」を公開しています。このガイドラインを「交通事業者各社が自社のマニュアルを作成・改訂する際」の指針とすることが望まれるとされています。

接遇ガイドラインから、車椅子利用者向けの対応指針を抜粋して紹介します。

○車椅子利用者本人の意向を確認する

ガイドラインは、主に一人で交通機関を利用する車椅子利用者への接遇を想定しています。そのため、困っている様子の車椅子利用者をみかけたら、同じ目線の高さに腰を落とし、車椅子利用者に声をかけることとされています。

そして利用者本人から支援の申し出があった場合に速やかに対応するとしています。

またどのような支援を望むのか、よく本人に確認すること、としています。

○声をかけながら支援する

車椅子を押す支援行為をするときは、「動きます」など必ず本人に声をかけながら支援を行うことが推奨されています。

そしてなるべくゆっくり慎重に動き、衝撃を与えないように気を配ります。

上り坂は前向きか後ろ向きか希望を聞くこと、下り坂や溝越えをする場合は、後ろ向きにすることとされています。

○エレベーターは直角に乗降

床とエレベーターのかごの間の溝に車椅子のキャスターが落ちないように、エレベーターに対して直角に出入りすることが推奨されています。

○階段は4人以上で対応

階段しかなく、車椅子を人力で持ち上げて移動する際には、4人以上で対応することとしています。その際、「せーの」などの掛け声は、荷物運びを連想させるので好ましくないと注意しています。

○身体に触れる介助は特に気を付ける

車椅子の移乗など、身体が密着する支援を行う場合は、必ず事前に了解をえること、また触れられたくない場所があるか確認をすること、とされています。

○ユニバーサルデザイン 2020と心のバリアフリー

「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン」は、平成 29 年 2 月に決定された政府の「ユニバーサルデザイン 2020 行動計画」に基づいて作成されました。その中ですべての支援にとって重要なのは「心のバリアフリー」とされています。

そして「心のバリアフリー」を体現するためのポイントとして以下の3点が挙げられています。

(1) 障害者への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」 を理解すること。

(2) 障害者(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。

(3) 自分とは異なる条件を持つ多様な他者とのコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し、共感する力を培うこと。

この3点を座学と実践研修を通じて学ぶことが、接遇ガイドラインの基本です。

公共交通機関で働く多くの人たちは、以上のようなガイドラインに従った教育研修を受けています。

(本稿は2020年11月に執筆しました)

別稿で「障がい者差別・合理的配慮 交通事業者を悩ます障がい者の言動」を掲載しています。ご参照ください。

乗り物や駐車場 車椅子のためにバリアフリー法が規定する目標値

電車、バス、航空機、客船、UDタクシー、そして駐車場まで、バリアフリー法とそのガイドラインでは、様々な数値的目標が挙げられています。その中から、一般的には知られていない、具体的な数値目標を抜粋して紹介します。

なお、通路幅やスロープ角度の数値は、別稿「バリアフリー法が推奨する通路幅やスロープ角度の具体的な数値」を参照してください。

《電車》

・客室には1列車ごとに2以上の車椅子スペースを設ける。ただし3両編成以下の車両で組成する列車にあっては 1 以上とすることができる。

・車椅子スペースの長さは、1,300mm 以上とする。ただし、車椅子使用者が同じ向きの状態で利用する車椅子スペースを2以上縦列して設ける場合にあっては、2台目以降の車椅子スペースの長さは、1,100mm 以上とすることができるものとする。

・車椅子スペースの幅は、750mm 以上とする

・車椅子スペースには、車椅子使用者が握りやすい位置(高さ 800~850mm 程度)に横手すりを設置する。上記手すりの径は 30mm 程度とする。

・(特急車両などに設ける)車椅子スペースの広さは、1,400mm 以上×800mm 以上とすることが望ましい。そして車椅子が転回できるよう、周囲を含めると1,500mm 以上×1,500mm 以上の広さを確保することが望ましい。

・車椅子で単独乗降しやすいプラットホームと車両乗降口の段差・隙間に関する実証試験では、段差 3cm・隙間 7cm の組み合せであれば、車椅子自走者約 9 割の被験者が乗降可能であった。段差・隙間の縮小に向けた当面の目安値は 段差3cm × 隙間7cm以内とする。

・客室にトイレを設置する場合は、そのうち 1 列車ごとに 1 以上は、車椅子使用者の円滑な利用に適したトイレを設ける。

バリアフリー法が規定する目標値

《バス》

・乗降時における乗降口の踏み段(ステップ)高さは 270mm 以下とする。出来れば高さは 200mm 以下とすること が望ましい。

・車椅子使用者等を乗降させる際のスロープ板の角度は 7 度(約 12%勾配・約 1/8)以下とし、スロープ板の長さは 1,050mm 以下とする。出来れば、スロープ板の角度は 5 度(約 9%勾配・約 1/12)以下とすることが望ましい。

・スロープ板の耐荷重については、電動車椅子本体(80~100kg)、車椅子使用者本人、介助者の重量を勘案し、300kg 程度とする。

・乗降用リフトを設置する場合の耐荷重も、電動車椅子本体(80~100kg)、本人、介助者の重量を勘案し、300kg 程度とする

・乗り合いバスには 2 脚分以上の車椅子スペースを確保する。スペースは乗降口から 3,000mm 以内に設置する

・長時間の乗車となる場合の多い都市間バスにおいては、車内にトイレを設置する。ドアは軽い力で操作できる仕様とし、開き戸の場合は外開きとする。ドア開閉ノブ等の高さは 800~850mm 程度とする。出来れば車椅子使用者が利用可能なトイレを設けることが望ましい。

・車椅子対応トイレを設置しない車両の運行に際しては、高速道路サービスエリア等の公衆トイレを利用できるような運行計画を立てることが望ましい。

バリアフリー法が規定する目標値

《航空機》

・客席数が30以上の航空機には、通路に面する客席(構造上の理由によりひじ掛けを可動式とできないものを除く。)の半数以上について、通路側に可動式のひじ掛けを設けなければならない。

・客席数が60以上の航空機には、当該航空機内において利用できる車椅子を備えなければならず、備え付けられる車椅子を使用する者が円滑に通行することができる構造でなければならない。

・通路が2以上の航空機には、車椅子使用者の円滑な利用に適した構造を有する便所を1以上設けなければならない。

バリアフリー法が規定する目標値

《客船》

・バリアフリー客席(基準適合客席)を、旅客定員 25 人に対して 1 個以上の割合で設置する。

・車椅子スペースを、旅客定員 100 人に対し 1 個以上の割合で設置する。

・バリアフリー食堂の車椅子使用者用テーブルを、バリアフリー食堂のいすの収容数 100 人に対して 1 個以上の割合で設置する。

バリアフリー法が規定する目標値

《UDタクシー》

・乗降口のうち 1 カ所は、スロープ板その他の車椅子使用者の乗降を円滑にする設備を備える。

・車椅子のまま乗車できる乗降口を1 以上設け、その有効幅は 700mm 以上、高さは 1,300mm 以上とする。

・車椅子のまま乗車できる車両の室内高は、1,350mm 以上とする。

・停車時の乗降口地上高は、350mm 以下とする。

バリアフリー法が規定する目標値

《都市公園の駐車場》

・車いす使用者用駐車施設の設置数は、当該駐車場の全駐車台数が 200 以下の場合は、駐車台数に 1/50 を乗じて得た数以上とし、全駐車台数が 200 を越える場合は、当該駐車台数に 1/100 を乗じて得た数に2を加えた数以上の車いす使用者用駐車施設を設置する。

・車いす使用者用駐車施設の幅は 350cm 以上とする。

※(公財)東京都道路整備保全公社の「駐車場ユニバーサルデザインガイドライン」では、「障害者用駐車スペース」は幅 3.5m以上、奥行き 6m以上。「福祉車両対応の障害者用駐車スペース」は幅 3.5m以上、奥行き 8m 以上というガイドラインを示しています。

バリアフリー法およびガイドラインでは、以上の数値目標が掲げられています。

(本稿は2020年8月に執筆しました)