2020年の障がい者雇用 法定雇用率 目標未達成の状況

厚生労働省から2021年1月15日付で「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」が公表されました。これは「障害者雇用促進法」に基づいて毎年6月1日付で実施する、事業主からの雇用状況報告の集計結果です。

「民間企業」「公的機関」「独立行政法人等」の3部門とも、全体としては前年よりも障害者雇用者数、実雇用率ともに向上しています。集計された雇用されている障がい者の総人数は、約65万人になります。

しかしながら、障害者雇用促進法の対象となる、全ての企業や機関が法廷雇用率目標を達成しているわけではありません。公表された主な目標未達成事項をまとめます。なお「人数」は、ダブルカウント制度があるので必ずしも正確ではありません。ご了承ください。

○民間企業の過半数が目標未達成

法定雇用率達成企業が48.6%。未達成企業がまだ過半を占めます。前年2019年6月の達成企業は48.0%だったので、このペースでの雇用状況の好転が今後も進むと、2022年頃には法定雇用率達成企業が50%を超えるかもしれません。

○「0人雇用」企業が約3万社

法定雇用率未達成の企業は52,742社になります。その中で、障がい者を1人も雇用していない「0人雇用」企業が、30,542社あり、目標未達成企業の57.9%を占めます。

また雇用目標の不足人員数が1人以下である「1人不足企業」が、「0人雇用」企業を含めて、目標未達成企業の65.6%を占めます。

最初の1人、あと1人の障がい者雇用ができない企業が多数あるのが、2020年の現状です。

○特例子会社で働く人は約6%

2020年6月時点での特例子会社の総数は542社で、前年よりも25社増加しています。そこで雇用されている人の総数は約3万8千人。1社平均で約70人です。

集計された民間企業での雇用総人数約57万人のなかでは、特例子会社で働く人は少数です。民間企業で働いている障がい者の9割以上は、一般企業での雇用です。

○国の機関は実質100%達成

民間よりも高い法定雇用率目標が設定されている公的機関の中で、「国の機関」は45機関中44機関で目標を達成しています。

未達成だったのは「地方裁判所」で、不足雇用人数は「2名」。ただし2020年10月1日時点で解消されたと報告されています。

国の機関に在籍している障がい者総数は9,336人。絶対人数としては、少数です。

○他の「公的機関」「独立行政法人等」の未達成状況

「国の機関」以外の「公的機関」及び「独立行政法人など」の状況です。実績の悪い順に並べます。

「都道府県等の教育委員会」は、47機関中32機関が未達成。未達成率は68.1%。

「市町村教育委員会」は、54機関中30機 関が未達成。未達成率は55.6%。

「市町村の機関」は、2,465機関中742機関が未達成。未達成率は29.4%。

「地方独立行政法人等」は、174法人中47法人が未達成。未達成率は27.0%。

「国立大学法人等」は、89法人中19法人が未達成。未達成率は21.3%。

「都道府県の機関」は、「知事部局」は47機関中5機関が未達成、「知事部局以外」は112機関中12機関が未達成。合計で未達成率は10.7%。

「独立行政法人等」は、91法人中9法人が未達成。未達成率は1.0%。

「国の機関」以外の公的機関は、雇用率目標は達成できていません。

○行政指導および企業名公表の実績はゼロ

障害者雇用促進法では、この毎年6月の状況報告に基づき、実施状況が悪い企業に対して、順に以下のような行政指導等を行うことが定められています。

・公共職業安定所長による「障害者雇入れ2か年計画作成命令」

・計画1年目の12月に「障害者雇入れ計画の適正実施勧告」

・計画期間終了後に9か月間の「特別指導」

・「企業名の公表」

公表された2019年度の実績は、いずれも0社でした。つまり、障害者法定雇用率は未達成であっても、障がい者雇用の努力をしない、悪質な企業は1社もありませんでした。

全体では障がい者の雇用目標は達成できていません。しかしながら2020年も、社会全体では一歩前に進みました。

(本稿は2021年1月に執筆しました)

別稿で「障害者雇用不正計上対策 公務機関での障害者活躍推進計画の策定」を掲載しています。ご参照ください。

障がい者と仕事 農福連携事業 表彰審査基準からみる成果目標

農業、林業、水産業と障がい者福祉が連携。農林水産省と厚生労働省が中心になって進めている政策事業です。人手が足りない農業分野と、仕事が少ない障がい分野が連携して、双方にメリットをもたらすことが大目標です。

具体的にはどのような成果が期待されているのか。公表されている「ノウフク・アワード2020」審査基準から、農福連携事業で期待されている主な成果を抜粋して紹介します。なお審査基準の原文は、分かりやすさを優先して順番や表現をかえています。ご承知おきください。

○障がい者の工賃向上

A型B型就労継続支援事業所の賃金または工賃の向上が、農福連携事業の大きな目標です。

作業者の収入が上がるためには「障害者等の適性や能力が発揮できるよう、作業を選定したり、作業に工夫を行」う必要があり、収入が上がることによって「障害者等の働く場所や生きがいを創出し、社会参画につな」がります。

農福連携は、障がい者の自助による所得の向上を目指しています。

○第一次産業の労働力不足対策

農業従事者の高齢化、後継者不在などによる休耕地の増加、生産力競争力の低下、職業自給率の低下などの問題が顕在化しています。漁業林業でも同様です。

「地域の農業労働力となって、農業経営の維持や規模拡大に貢献」する人材として、「障害者等を労働力として活用」し、結果として農業の「生産性が高まり、収益が向上」し、「高齢農家の農地の借り受けや耕作放棄地の活用などを通じて、農地の維持・耕作放棄地の発生防止に貢献」することが期待されています。

○障がい者と住民の共生

地域共生社会の実現が目標です。農業、林業、水産業などの従事者と地域の障がい者が一緒に働くことで、「認め合う雰囲気が生まれ」「能力を認め合い、能力を生かすための工夫」があり、「地域社会に良い変化が起」こり、「障害者等に対する理解が深まり、多様な人が暮らしていける社会へとつなが」るとしています。

また障がい者施設側が「地域の祭りや行事の共催・参加を通じて地域の活性化に貢献」することが期待され、さらには「直売所やレストランを開設するなどにより、地域内外からの交流を創出」することまでが、期待される成果の範囲になっています。

○国民的運動への発展

農林水産省と厚生労働省は、農福連携を「官民挙げて国民的な運動」に発展させることを目標にしています。そのためには、成功事例の創出と水平展開が必要です。

農福連携事業の成功事例として期待されている取組みが、目標としては抽象的に表現されています。「先進性、独創性、話題性がある取組」みで、「人の心を動かすノウフク・ストーリー」がある、「これから農福連携に取り組みたい事業所等の模範となる取組」みです。そのような取組みを成功事例として早期に創出し、「国民的運動」として拡大展開されることが期待されています。

農福連携は、障がい者の工賃を増やし、第一次産業の労働力不足を解消し、地域共生社会を実現する、国民的運動になることが期待されている政策です。

(本稿は2020年10月に執筆しました)

令和3年度の農福連携事業については、別稿「農林水産業で働く障がい者のための令和3年度農福連携施策」を参照してください。

障がい者雇用問題 働く障がい者の仕事と収入をやさしく解説

2020年4月に障害者雇用促進法が改正され、企業の障がい者雇用率は2.2%になりました。従業員数46名以上の会社には、最低でも1名の障がい者を雇用する義務があります。

しかしながら2019年の推計値で、障がい者雇用率を達成している企業は48%とされ、まだ過半数の企業は雇用率目標に届いていません。2021年3月には、雇用率の0.1%引き上げが予定されています。

そして2020年のコロナ禍、それによる不況が障がい者の雇用情勢に与える影響が心配されます。

働く障がい者の推計人数、仕事と報酬、助成金制度など「働く障がい者」に関する現状を、ポイントを絞って紹介します。

○働く障がい者は56万人

厚生労働省によると、2019年6月時点で民間企業に一般就労している障がい者総数の推計は56.1万人です。

厚生労働省が5年毎に実施している「障害者雇用実態調査結果」の「平成 30年度」版では、障がい種別による民間企業での雇用者数が推定されています。それによると身体障がい者は42.3万人、知的障がい者は18.9万人、精神障がい者は20万人、発達障がい者が3.9万人です。この数値は重複障がい者を該当する障がい種別に重複して推計した人数です。

民間企業の障がい者雇用数は16年連続で過去最高を更新中で、働く障がい者はこの20年間で2倍以上増加しています。

○働く人の障がい傾向

「平成 30年度障害者雇用実態調査結果」で公表されたデータからポイントを紹介します。

障がい種別に、どのような障がい者がある人が働いているのか、の割合です。

「身体」では「肢体不自由」が42%、「内部障害」が28%、「聴覚言語障害」が12%です。「視覚障害」は5%で、目が見えない人の就労の難しさが数値に出ています。また「重複障害」も6%と低く、知的障害を伴う人も就労に苦戦しています。中途障がいで、知的やコミュニケーション面であまり問題の無い身体障がい者が、就労者の7割程度を占めると推定されます。

「知的」では、「重度」が18%、「重度以外」が74%です。知的障がいの判定を客観的に行うことは難しいので、各企業が恣意的に判断したアンケートの回答結果にすぎませんが、知的障がいが「重度」の人が18%なのは、想像よりも多い印象をうけます。おそらくは「中度」程度の人が、「重度」と回答されていると推定されます。

「精神」では、「2級」が47%、「3級」が36%で、「1級」は1%です。病名では「統合失調症」が31%、「そううつ病」が26%で、この2種で過半数になります。

「発達障害」者の精神障害手帳の等級も同様の傾向で、「2級」が14%、「3級」が49%です。

「精神」及び「発達障害」者では、2級と3級相当の人が就労者の中心です。

○100人未満の事業所で事務や生産を担当

これ以後も「平成 30年度障害者雇用実態調査結果」からのデータです。

障がいのある人が働いている場所は中小規模の事業所が多く、30人未満で約50%、100人未満までで80%ほどになります。

「製造業」「卸・小売業」「医療・福祉」の3業種での就労が多く、「身体」は「事務」、「知的」は「生産」業務への従事者が多くなります。そして「精神」では「サービスの職業」がこれに加わります。

○フルタイム勤務が少なくない

週に30時間以上の勤務を行うフルタイム勤務者が少なくありません。

「身体」は80%、「知的」は66%、「精神」が47%、「発達障害」は60%です。

○月収は20万円前後

週に30時間以上働く障がい者の月収入です。

「身体」は平均勤続年数が10年2カ月で248千円、「知的」が平均勤続年数7年5カ月で137千円、「精神」は平均勤続年数が3年2カ月で189千円です。

「知的」の平均値では、賞与が年間で2か月分あったとして、年収は200万円程度です。

○企業の悩みは「適当な仕事」があるか

「平成 30年度障害者雇用実態調査結果」から、障がい者を雇用する企業側の悩みを紹介します。

障害種別に関わらず、課題として挙げられた最も多い回答は「会社内に適当な仕事があるか」です。おおよそ8割の企業が課題として認識しています。

また「職場の安全面の配慮が適切にできるか」を、3割以上の企業が課題に挙げています。

○8割の企業がハローワークを利用

募集や採用では、約8割の企業が「公共職業安定所」を利用または協力を求めています。更に雇用の継続についても、半数近い企業が「公共職業安定所」に協力を求めています。

そして障がい者を雇用する企業が「関係機関に期待する取組み」のトップ項目は、「障害者雇用支援設備・施設・機器の設置のための助成・援助」です。

○障がい者雇用への助成金

障がい者など就職困難者の雇用に取り組む企業を対象とした「特定求職者雇用開発助成金」があります。適用条件は様々ありますが、本稿では助成金の概要を紹介します。

・特定就職困難者コース

65歳以上になるまで、継続して2年以上雇用する事が確実な場合

・生涯現役コース

65歳以上の離職者を雇用保険の高年齢被保険者として雇い入れ、一年以上継続して雇用する事が確実な場合

・発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース

発達障害者や難治性疾患患者を65歳以上になるまで継続して2年以上雇用する事が確実な場合

・障害者初回雇用コース

障害者雇用の経験のない中小企業が障害者を初めて雇用し、雇入れにより法定雇用率を達成する場合

・生活保護受給者等雇用開発コース

3ヶ月を超えて支援を受けている生活保護受給者や生活困窮者を雇用し、65歳以上になるまで継続して2年以上雇用する事が確実な場合

また以上の「特定求職者雇用開発助成金」は、コロナ対策として、「コロナの影響で労働時間が減少した場合、支給額を減額しない特例」が設けられています。

雇用した障がい者を対象にした「障害者雇用安定助成金」には「障害者職場定着支援コース」と「障害者職場適応援助コース」があります。この内「障害者職場適応援助コース」は、令和二年度補正二次予算のコロナ対策として、「ジョブコーチ(職場適応援助者)が職場を訪問して直接支援できない場合については、ICT等を活用した顔が見えるような支援形式による遠隔相談も助成対象」となっています。

新型コロナウィルス感染拡大により、出勤できない、仕事として集団作業が行えないなど、障がい者の仕事に負の影響がありました。一方、テレワーク、在宅勤務の一般化により、障がい者の新しい働き方が注目されています。働きたい障がい者に適した仕事を増やし、そして平均収入を増やすことが課題です。

(本稿は2020年10月に執筆しました)

別稿で「障がい者と仕事 みなし雇用制度は是か非か」を掲載しています。ご参照ください。