withコロナ時代の障がい者と仕事「みなし雇用制度」は是か非か

障がい者と仕事「みなし雇用制度」

障害者雇用促進法によって、企業に雇用率の達成が義務化されています。そして目標を達成した企業には報償があり、未達成の企業にはペナルティがあります。

現行制度の基本方針は「福祉的な就労から積極的な雇用の促進」へのシフトと、「事業主が雇用の場を用意する」ことです。

一方、フランスやドイツでは、一定の要件を満たした障がい者就労施設への業務発注を「雇用とみなす」制度があります。

withコロナ時代のあるべき障がい者雇用政策は何か。現行制度と「みなし雇用制度」に関わる主な意見を紹介します。

○納付金制度への批判

法定雇用率の達成を基準にした、現行の「報償」と「ペナルティ」の制度には以下の批判があります。

雇用率を達成できるのは経営に余裕がある大企業で、達成できないのは余裕がない中小企業が多い。その結果、中小企業から納付金を徴収し、その資金が調整金として大企業に支給される。

直接雇用を強制するための制度設計に問題があります。ここから、中小企業でも対応できる、負担が少ない間接雇用制度の必要性が論じられます。

○特例子会社の功罪

大企業が利用できる「特例子会社」制度。実際に多くの企業グループで活用されています。

大手企業に就職できる、障がいの状況にあった仕事に就ける、企業側から様々な合理的配慮の提供をうけることが出来る、このような点は良いことだといわれています。

一方、職種、給料、その他待遇面で、他のグループ企業とは格差があるケースも少なくありません。また特例子会社が東京に集中していることも問題です。

その人の障がいの状況によっては、特例子会社ではなく、地域の「就労継続支援事業所」での就労を促進する意見があります。

○企業からみた障がい者採用の限界

2018年には国の行政機関の多くで、障がい者雇用数の水増し申告が明らかになりました。多くの企業は障害者雇用促進法の理念を理解し、障がい者の採用に努力していますが、行政機関が難しかったように、企業も障がい者雇用の限界を訴えています。将来にわたる障害者雇用率の引き上げに、企業がどこまで対応できるかは不透明です。

○「みなし雇用」の概念

以上のような現状から、直接雇用主義からの転換を図るべきという意見があります。

企業の目標を、障がい者の「雇用数」から「仕事量」に制度を変える提案です。具体的には「就労継続支援A型事業所」や「就労継続支援B型事業所」に企業が仕事を発注した場合、その業務量を雇用率に変換する制度です。

地域の事業所で働くことで、テレワーク、在宅勤務、時短勤務など、多様な働き方が実現できる期待があり、地域間の就労格差の解消と、withコロナ時代の障がい者の働き方として注目されています。

○みなし雇用の制度設計上の課題

障がい者雇用政策を「みなし雇用」に大きく変更した場合、企業が直接雇用に消極的になることも想定されます。そのようなマイナスを発生させないために、考慮すべき課題が議論されています。

現状でも直接雇用が出来ている大企業と、中小企業の制度上の扱いを区分けするべきで、何らかの基準を設け、大企業には直接雇用数の高いノルマを課すべきという意見があります。ただし具体的な線引き基準は難しい問題です。

地域の事業所の問題として、一般的に就労継続支援A型事業所は小規模な事業所が多く、受託可能な仕事は質量ともに限定的です。ましてや就労継続支援B型事業所が請け負える仕事はさらに限られます。みなし雇用制度の仕事の受け皿として機能するには、別の支援政策が先に必要という意見があります。

就労移行支援事業所からみると、一般就労への移行を妨げる制度になる可能性があります。

「みなし雇用」を制度化するには、様々な配慮と調整が不可欠です。

○研究会からの提案

2020年3月に、就労継続支援A型事業所全国協議会の「障害者みなし雇用研究会」から報告書が公表されました。

提案内容のポイントを簡単に紹介します。

・現行制度の骨子は残して名称を「障害者就労促進発注制度」と変更し、障害者就労施設への発注に基づく、企業への納付金の減額及び調整金と報奨金の増額制度を導入する

・発注側は、既に法定雇用率を達成した企業に限定する

・受注側は、法定雇用率の対象とならない小規模事業所と就労継続支援 A 型事業所で実施する

・効果を検証した上で、段階的に発注側と受注側を拡大する

長文になりますが、同報告書の「おわりに」から一部原文を引用させていただきます。

「研究会が発足した当初の考えと大きく路線変更をしたことが、2 つある。一つは、発注金額を納付金額に換算し、納付金額に相当する雇用を発注企業の雇用率に上乗せするという制度ではなく、一般雇用に努力されている企業に配慮し、当面納付金の減額、調整金・報奨金の増額だけに留める案に変更したことである。もう一つは、発注枠を一般雇用に「みなし」という言葉の印象を避けるため、障害者の多様な就労ニーズを念頭に置いた「障害者就労促進発注制度」 に名称を改めたことである。」

研究会では「激しい議論のやりとりがあった」そうです。

現行の障がい者雇用政策には課題があり、新しい「みなし雇用制度」の設計には様々な配慮と調整が必要です。

(本稿は2020年8月に執筆しました)

別稿で「大企業の特例子会社の現状と課題」を掲載しています。ご参照ください。