2020年4月に障害者雇用促進法が改正され、企業の障がい者雇用率は2.2%になりました。従業員数46名以上の会社には、最低でも1名の障がい者を雇用する義務があります。
しかしながら2019年の推計値で、障がい者雇用率を達成している企業は48%とされ、まだ過半数の企業は雇用率目標に届いていません。2021年3月には、雇用率の0.1%引き上げが予定されています。
そして2020年のコロナ禍、それによる不況が障がい者の雇用情勢に与える影響が心配されます。
働く障がい者の推計人数、仕事と報酬、助成金制度など「働く障がい者」に関する現状を、ポイントを絞って紹介します。
○働く障がい者は56万人
厚生労働省によると、2019年6月時点で民間企業に一般就労している障がい者総数の推計は56.1万人です。
厚生労働省が5年毎に実施している「障害者雇用実態調査結果」の「平成 30年度」版では、障がい種別による民間企業での雇用者数が推定されています。それによると身体障がい者は42.3万人、知的障がい者は18.9万人、精神障がい者は20万人、発達障がい者が3.9万人です。この数値は重複障がい者を該当する障がい種別に重複して推計した人数です。
民間企業の障がい者雇用数は16年連続で過去最高を更新中で、働く障がい者はこの20年間で2倍以上増加しています。
○働く人の障がい傾向
「平成 30年度障害者雇用実態調査結果」で公表されたデータからポイントを紹介します。
障がい種別に、どのような障がい者がある人が働いているのか、の割合です。
「身体」では「肢体不自由」が42%、「内部障害」が28%、「聴覚言語障害」が12%です。「視覚障害」は5%で、目が見えない人の就労の難しさが数値に出ています。また「重複障害」も6%と低く、知的障害を伴う人も就労に苦戦しています。中途障がいで、知的やコミュニケーション面であまり問題の無い身体障がい者が、就労者の7割程度を占めると推定されます。
「知的」では、「重度」が18%、「重度以外」が74%です。知的障がいの判定を客観的に行うことは難しいので、各企業が恣意的に判断したアンケートの回答結果にすぎませんが、知的障がいが「重度」の人が18%なのは、想像よりも多い印象をうけます。おそらくは「中度」程度の人が、「重度」と回答されていると推定されます。
「精神」では、「2級」が47%、「3級」が36%で、「1級」は1%です。病名では「統合失調症」が31%、「そううつ病」が26%で、この2種で過半数になります。
「発達障害」者の精神障害手帳の等級も同様の傾向で、「2級」が14%、「3級」が49%です。
「精神」及び「発達障害」者では、2級と3級相当の人が就労者の中心です。
○100人未満の事業所で事務や生産を担当
これ以後も「平成 30年度障害者雇用実態調査結果」からのデータです。
障がいのある人が働いている場所は中小規模の事業所が多く、30人未満で約50%、100人未満までで80%ほどになります。
「製造業」「卸・小売業」「医療・福祉」の3業種での就労が多く、「身体」は「事務」、「知的」は「生産」業務への従事者が多くなります。そして「精神」では「サービスの職業」がこれに加わります。
○フルタイム勤務が少なくない
週に30時間以上の勤務を行うフルタイム勤務者が少なくありません。
「身体」は80%、「知的」は66%、「精神」が47%、「発達障害」は60%です。
○月収は20万円前後
週に30時間以上働く障がい者の月収入です。
「身体」は平均勤続年数が10年2カ月で248千円、「知的」が平均勤続年数7年5カ月で137千円、「精神」は平均勤続年数が3年2カ月で189千円です。
「知的」の平均値では、賞与が年間で2か月分あったとして、年収は200万円程度です。
○企業の悩みは「適当な仕事」があるか
「平成 30年度障害者雇用実態調査結果」から、障がい者を雇用する企業側の悩みを紹介します。
障害種別に関わらず、課題として挙げられた最も多い回答は「会社内に適当な仕事があるか」です。おおよそ8割の企業が課題として認識しています。
また「職場の安全面の配慮が適切にできるか」を、3割以上の企業が課題に挙げています。
○8割の企業がハローワークを利用
募集や採用では、約8割の企業が「公共職業安定所」を利用または協力を求めています。更に雇用の継続についても、半数近い企業が「公共職業安定所」に協力を求めています。
そして障がい者を雇用する企業が「関係機関に期待する取組み」のトップ項目は、「障害者雇用支援設備・施設・機器の設置のための助成・援助」です。
○障がい者雇用への助成金
障がい者など就職困難者の雇用に取り組む企業を対象とした「特定求職者雇用開発助成金」があります。適用条件は様々ありますが、本稿では助成金の概要を紹介します。
・特定就職困難者コース
65歳以上になるまで、継続して2年以上雇用する事が確実な場合
・生涯現役コース
65歳以上の離職者を雇用保険の高年齢被保険者として雇い入れ、一年以上継続して雇用する事が確実な場合
・発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障害者や難治性疾患患者を65歳以上になるまで継続して2年以上雇用する事が確実な場合
・障害者初回雇用コース
障害者雇用の経験のない中小企業が障害者を初めて雇用し、雇入れにより法定雇用率を達成する場合
・生活保護受給者等雇用開発コース
3ヶ月を超えて支援を受けている生活保護受給者や生活困窮者を雇用し、65歳以上になるまで継続して2年以上雇用する事が確実な場合
また以上の「特定求職者雇用開発助成金」は、コロナ対策として、「コロナの影響で労働時間が減少した場合、支給額を減額しない特例」が設けられています。
雇用した障がい者を対象にした「障害者雇用安定助成金」には「障害者職場定着支援コース」と「障害者職場適応援助コース」があります。この内「障害者職場適応援助コース」は、令和二年度補正二次予算のコロナ対策として、「ジョブコーチ(職場適応援助者)が職場を訪問して直接支援できない場合については、ICT等を活用した顔が見えるような支援形式による遠隔相談も助成対象」となっています。
新型コロナウィルス感染拡大により、出勤できない、仕事として集団作業が行えないなど、障がい者の仕事に負の影響がありました。一方、テレワーク、在宅勤務の一般化により、障がい者の新しい働き方が注目されています。働きたい障がい者に適した仕事を増やし、そして平均収入を増やすことが課題です。
(本稿は2020年10月に執筆しました)