2022年5月施行 障がい者の情報取得と意思疎通を推進する法律の概要

障がい者に関わる法律「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」が、2022年5月25日に公布、同日施行されました。

通称は「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」で、2022年4月12日に参議院厚生労働委員会で起草、4月13日に参議院、5月19日に衆議院で可決されました。

法律の目的は「全ての障害者が、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加するため」に「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に推進」することです。

聴覚障がい者の当事者団体が中心となって、超党派の議員に働きかけて成立した法律で、障がい者が日常的な生活をおくるために必要な情報の取得に関する、基本理念、国・地方公共団体・事業者の責任、および基本的な施策の6つの方向性が定められています。以下それぞれについての概要を紹介します。

障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法

《基本理念》

・個人の障がいの状況に適した、情報取得の手段が選択できること

・情報取得に関して、地域間格差がないこと

・障がい者とそうでない者とで、情報の格差がないこと

・デジタル社会に対応した情報取得ができること

《国・地方公共団体の責任》

・障がい者の意見を尊重した、基本理念を実現する施策の策定と推進

《事業者の責任》

・国や地方公共団体が推進する施策への協力

《6つの基本的な施策》

・障がい者のための役立つ情報機器を開発し、提供し、普及させる

・障がい者へ防災、防犯、緊急情報を通報する

・医療、介護、保健、福祉、教育、労働、交通、電 気通信、放送、文化芸術、スポーツ、レクリエーション、司法手続など、障がい者の日常生活のための情報を提供する

・障がい者からの相談に応じる際に、障がい者へ十分な情報が提供されるように配慮する

・広報や啓発活動によって、障がい者の情報取得への理解を広める

・障がい者の情報取得に関する調査研究を推進し、成果を普及する

なお「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」は、衆議院において5つの付帯決議が付されています。以下に意訳して紹介します。

1.障がい者のための情報通信機器や技術の開発が優先される制度について検討を行うこと

2.今後の状況に応じて法律を見直すこと

3. 障がい者の情報取得に関する相談窓口の設置を検討すること

4.障がい者の情報取得に関する予算措置を検討すること

5.手話に関する施策を一層充実させる検討を進めること

《生きるちから舎ニュース 2022年5月26日付》

「医療的ケア児支援法」について別稿で紹介しています。ご参照ください。

家庭・施設・職場での障がい者虐待行為 令和2年度の状況

厚生労働省が全国の障がい者虐待の実績を調査し公表しています。2022年3月29日付で「令和2年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)」が公表されました。

「障害者虐待防止法」において「障害者虐待」は、「養護者による障害者虐待」「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」「使用者による障害者虐待」の3つに定義されています。公表されたデータに基づいて、家庭・施設・職場での障がい者虐待行為の状況を紹介します。

○家庭での虐待事例は増加傾向

養護者による虐待と判断された件数は1,768件で前年比106.8%、人数は1,775人で前年比106.7%と増加しました。

行政に通報された件数は6,556件で前年比113.9%と大きく進捗しています。通報者のトップは警察で全体の43.6%を占めます。

通報件数の増加は長期的な傾向で、調査が開始された平成24年度と対比すると201.1%と倍増しています。「障害者虐待防止法」施行以後、家庭内における障がい者虐待を警察が把握し、行政に通報し、調査が行われる事例が年々増加しています。

事実確認調査が行われた事例で、虐待の事実が認められた事例は26.4%です。おおよそ4分の3の事例は、虐待ではないと判断されています。

養護者の虐待者数は1,931人で被虐待者数1,775人よりも多く、状況が深刻で一時保護や一時入院により分離した被虐待者数は36.8%の654人です。

したがって全体的な傾向としては、疑わしい事例は積極的に通報され、状況が深刻化する前に調査が行われ、養護者への指導や定期的な見守りなどの対応がとられるケースが多い状況です。

○施設での虐待被害は悪化

障がい者施設で虐待と判断された件数は632件で前年比115.5%、人数は890人で前年比121.2%と悪化しました。

行政に通報された件数は2,865件で前年比103.7%。虐待が認められた632件は、全通報数の22.0%になります。

虐待の発生原因を複数回答で調査したところ、「教育・知識・介護技術等に関する問題」「職員のストレスや感情コントロールの問題」「倫理観や理念の欠如」の3つが50%超の高率で回答されています。

虐待が認められた事業所の上位5種別は、共同生活援助が21.0%、障害者支援施設が20.7%、放課後等デイサービスが14.6%、生活介護が12.5%、就労継続支援B型が10.6%でした。

被虐待者890人の障がい種別は、重複障がいありで、知的障がいが71.6%と圧倒的多数です。

虐待行為の上位3類型は、身体的虐待が52.8%、心理的虐待が42.1%、性的虐待が16.1%です。

特に悪質な事業者に対する立入検査は 125件行われ、指定取消5件、指定の全部または一部停止 8件、改善命令4件、改善勧告 38件などの処置が行われました。

相談通報者分類の第一位は被害者本人です。自分で通報できる知的な障がいが軽度な障がい者への虐待は明るみになりますが、まだ水面下に隠れている虐待が多いことが推定されます。

○職場での虐待は改善傾向

虐待疑いの通報があった事業所数は1,277件で、前年よりも12.4%減少しました。

虐待が認められた事業所数は401件で、前年よりも25%減少しています。

虐待が認められた障がい者数は498人で、前年よりも35.4%減少です。

虐待が認められた障がい者数の減少は中期的な傾向で、調査初年度の平成28年は993人、翌平成29年度が1,320人で最大数となり、平成30年以後は3年連続で減少しています。

虐待が認められた障がい者498人の受けた虐待の種別は、経済的虐待が419人で80.1%、と最も多く、次いで心理的虐待が56人で10.7%、身体的虐待が24人で4.6%です。

職場での虐待は経済的虐待を中心に無くなってはいませんが、はっきりとした改善傾向があります。

障害者虐待防止法は平成24年10月1日に施行されました。令和2年度においては、まだ虐待は無くなっていません。

《生きるちから舎ニュース 2022年3月30日付》

別稿で「障がい者への虐待 通報を受けてからの行政の対応マニュアル」を掲載しています。ご参照ください。

2016年度から2021年度 障害者政策委員会の見解による5年間の進展

障害者権利条約の実施状況を監視する機関「障害者政策委員会」で、2016年度から2021年度にいたる5年間を期間とした「第3次障害者基本計画」の進捗状況や今後の課題について審議が行われています。

全体として日本の現状はまだまだ課題が多く、数多くのテーマが「以下の対応を求める」、「以下の点を懸念する」と評価されています。

その中で12の課題が「顕著に取組が進んでいる」と評価する方向で議論が進んでいます。

この5年間でどのような課題の取り組みが進捗したのか、令和4年3月24日に開催された「第63回障害者政策委員会」の資料から、分かりやすく編集して紹介します。

なお本稿では原文に基づいて「障害」という漢字表記を使用いたします。

1.合理的配慮の義務化

2021年5月に、事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けることを主な内容とする法律が成立し、同年6月に公布された。

  1. 障害のある女子への支援

性犯罪、性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが2018年10 月に全都道府県に設置された。

3.バリアフリーの推進

2018年には公共交通事業者等によるハード・ソフト一体的な取組の推進を規定するバリアフリー法の改正を行い、2020年には公立小中学校等を特別特定建築物としてバリアフリー基準適合義務の対象に追加するバリアフリー法の改正を実施した。一定規模以上のホテルにおけるバリアフリー客室の1%以上の整備義務化も行われた。

4.医療的ケア児への支援

医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律が2021 年6月に公布、同年に施行され、医療的ケア児支援センターの設置及び保育所及び学校における医療的ケアの支援が規定された。

5.精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築

2017 年度より、都道府県等自治体に対する補助事業において、ピアサポートの活用やアウトリーチ支援等が実施され、都道府県等自治体の取組を支援する委託事業が実施されている。

6.聴覚障害者への支援

聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律が、2020 年に公布、同年12 月に施行され、聴覚障害者による電話の利用の円滑化を図るため、電話による意思疎通を手話等により仲介する電話リレーサービスの提供を行う事業者に、交付金を交付するための制度が創設された。

7.特別支援教育の強化

特別支援教育支援員の外部人材の配置、通級による指導の制度化や教員定数の基礎定数化等、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する支援が進んだ。

8.児童生徒への個別支援強化

小学校学習指導要領の改訂により、通級による指導を受ける児童生徒に個別の指導計画、及び個別の教育支援計画の作成が義務付けられ、通級を利用しない障害のある児童生徒に対しても個別の指導計画の作成を推奨した。

9.障害のある学生への合理的配慮の提供

障害者差別解消法の施行により、高等教育機関において障害のある学生への合理的配慮の提供が進展した。

10.働く障害者への支援

2016 年4月から事業主の障害者に対する差別禁止及び合理的配慮の提供が義務付けられ、「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」が策定され、紛争解決手続が整備された。

11.精神障害者の雇用義務

2018 年4月から精神障害者が雇用義務の対象に追加され、民間企業の実雇用率及び雇用障害者数が増加している。

12.文化芸術活動の推進

平成 30 年に障害者による文化芸術活動の推進に関する法律が成立し、これを受けて障害者による文化芸術活動の推進に関する施策が計画的に推進された。

障害者政策委員会の審議は継続しています。次回の委員会で、見解の最終案が検討される予定です。

《生きるちから舎ニュース 2022年3月25日付》

別稿で「10分で読める障害者権利条約」を掲載しています。ご参照ください。