厚生労働省が全国の障がい者虐待の実績を調査し公表しています。2022年3月29日付で「令和2年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)」が公表されました。
「障害者虐待防止法」において「障害者虐待」は、「養護者による障害者虐待」「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」「使用者による障害者虐待」の3つに定義されています。公表されたデータに基づいて、家庭・施設・職場での障がい者虐待行為の状況を紹介します。
○家庭での虐待事例は増加傾向
養護者による虐待と判断された件数は1,768件で前年比106.8%、人数は1,775人で前年比106.7%と増加しました。
行政に通報された件数は6,556件で前年比113.9%と大きく進捗しています。通報者のトップは警察で全体の43.6%を占めます。
通報件数の増加は長期的な傾向で、調査が開始された平成24年度と対比すると201.1%と倍増しています。「障害者虐待防止法」施行以後、家庭内における障がい者虐待を警察が把握し、行政に通報し、調査が行われる事例が年々増加しています。
事実確認調査が行われた事例で、虐待の事実が認められた事例は26.4%です。おおよそ4分の3の事例は、虐待ではないと判断されています。
養護者の虐待者数は1,931人で被虐待者数1,775人よりも多く、状況が深刻で一時保護や一時入院により分離した被虐待者数は36.8%の654人です。
したがって全体的な傾向としては、疑わしい事例は積極的に通報され、状況が深刻化する前に調査が行われ、養護者への指導や定期的な見守りなどの対応がとられるケースが多い状況です。
○施設での虐待被害は悪化
障がい者施設で虐待と判断された件数は632件で前年比115.5%、人数は890人で前年比121.2%と悪化しました。
行政に通報された件数は2,865件で前年比103.7%。虐待が認められた632件は、全通報数の22.0%になります。
虐待の発生原因を複数回答で調査したところ、「教育・知識・介護技術等に関する問題」「職員のストレスや感情コントロールの問題」「倫理観や理念の欠如」の3つが50%超の高率で回答されています。
虐待が認められた事業所の上位5種別は、共同生活援助が21.0%、障害者支援施設が20.7%、放課後等デイサービスが14.6%、生活介護が12.5%、就労継続支援B型が10.6%でした。
被虐待者890人の障がい種別は、重複障がいありで、知的障がいが71.6%と圧倒的多数です。
虐待行為の上位3類型は、身体的虐待が52.8%、心理的虐待が42.1%、性的虐待が16.1%です。
特に悪質な事業者に対する立入検査は 125件行われ、指定取消5件、指定の全部または一部停止 8件、改善命令4件、改善勧告 38件などの処置が行われました。
相談通報者分類の第一位は被害者本人です。自分で通報できる知的な障がいが軽度な障がい者への虐待は明るみになりますが、まだ水面下に隠れている虐待が多いことが推定されます。
○職場での虐待は改善傾向
虐待疑いの通報があった事業所数は1,277件で、前年よりも12.4%減少しました。
虐待が認められた事業所数は401件で、前年よりも25%減少しています。
虐待が認められた障がい者数は498人で、前年よりも35.4%減少です。
虐待が認められた障がい者数の減少は中期的な傾向で、調査初年度の平成28年は993人、翌平成29年度が1,320人で最大数となり、平成30年以後は3年連続で減少しています。
虐待が認められた障がい者498人の受けた虐待の種別は、経済的虐待が419人で80.1%、と最も多く、次いで心理的虐待が56人で10.7%、身体的虐待が24人で4.6%です。
職場での虐待は経済的虐待を中心に無くなってはいませんが、はっきりとした改善傾向があります。
障害者虐待防止法は平成24年10月1日に施行されました。令和2年度においては、まだ虐待は無くなっていません。
《生きるちから舎ニュース 2022年3月30日付》