日本が2014年に批准書を国連に寄託した「障害者の権利に関する条約」は、障害者に関する初めての国際条約です。条約は「前文」から「第50条」で構成されます。各条項で定められているポイントだけを分かりやすく紹介します。
「前文」
A項からY項まで25項目あり、条約締約国が協定する基本的な認識を網羅的に整理しています。
ポイントは3点に集約されます。
・障害者を含めすべての人は大切な存在で平等である
・しかしその原則は、しばしば危険にさらされる
・したがって条約国は、権利の保護に全力を尽くす
第1条「目的」
障害者の人権と自由を守る条約であることが明言されています。
第2条「定義」
条約上の以下の5つの用語の定義が記載されています。
・意思疎通
・言語
・障害に基づく差別
・合理的配慮
・ユニバーサルデザイン
「合理的配慮」の概念的な定義は、この第2条で定められています。
第3条「一般原則」
条約の8原則が定められています。一部簡略して紹介します。
・人の尊厳、自律、自立の尊重
・無差別
・社会への参加と包容
・障害者の受け入れ
・機会均等
・アクセスビリティ(施設やサービスを容易に利用できること)
・男女平等
・障害児の尊重
第4条「一般的義務」
締約国は、立法的、行政的、その他あらゆる措置を行い、条約の実現を図ることがうたわれています。
またその実行過程で、障害当事者に関与させることが定められています。
第5条「平等及び無差別」
障害による差別の禁止、法律上の平等、合理的配慮の提供を義務付けています。
第6条「障害のある女子」
特に女子に対する差別の禁止と、能力開発の措置を強く定めています。
第7条「障害のある児童」
特に児童の人権、権利の平等、児童にとって最善の利益がある措置の実施を定めています。
第8条「意識の向上」
障害者に対する社会の意識の向上を求めています。「心のバリアフリー」施策などに通じる条項です。また障害者の能力や貢献に対する社会の意識向上も求めています。
第9条「施設及びサービス等の利用の容易さ」
バリアフリー推進を定めた条項です。段差解消、点字、手話、情報化など、その内容は多岐にわたります。
第10条「生命に対する権利」
障害者の生きる権利を守るすべての必要な措置をとることを定めています。
第11条「危険な状況及び人道上の緊急事態」
戦争や災害において、障害者の保護、安全確保を行うことが義務付けられています。
第12条「法律の前にひとしく認められる権利」
障害者が法律上平等であり、法的能力があることを絶対的な条件として、特に権利や利益の平等、財産の保証などを強く求めています。
第13条「司法手続の利用の機会」
障害者が平等に司法的な手続きを行えること。そして特に警察官と刑務官など司法に係る人に対して、適切な研修を行うことを求めています。
第14条「身体の自由及び安全」
障害者の不当な自由のはく奪が行われないことを特に明記しています。
第15条「拷問又は残虐な、非人間的な若しくは品位を傷つける取り扱い若しくは刑罰からの自由」
障害者が標記の行為を受けないこと。また「自由な同意なしに医学的または科学的実験を受けない」ことを定めています。
第16条「搾取、暴力及び虐待からの自由」
標記の通りの概要です。第3項において「障害者に役立つことを意図した全ての施設及び計画が独立した当局により効果的に監視されることを確保する」としています。
第17条「個人をそのままの状態で保護すること」
障害者は「その心身がそのままの状態で尊重される権利を有する」と定めています。短い条文ですが、人類の暗い過去の歴史に基づく深い意味がある定めです。
第18条「移動の自由及び国籍についての権利」
障害者の移動、居住、国籍の権利を認める条文です。
その中で障害児について、出生後すぐに登録されて氏名を有する権利と国籍を取得する権利、そして父母を知る権利、その父母によって養育される権利があることが明記されています。
第19条「自立した生活及び地域社会への包容」
施設から地域への移行を定めた条項です。この中で、障害者の生活の場の自由な選択、必要なサービスを受ける権利、そして一般向けのサービスにおける合理的な配慮の提供が明記されています。
第20条「個人の移動を容易にすること」
バリアフリー関連の条項です。ここでは費用負担をなるべく減らすこと、そして移動を支援するスタッフの育成、補助具の生産奨励を求めています。
第21条「表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会」
手話や点字など障害者が利用しやすい意思疎通の手段を提供することを定めて、マスメディアなど民間にも奨励することを求めています。
第22条「プライバシーの尊重」
障害者も平等にプライバシーに関して法律の保護を受けることを定めています。
第23条「家庭及び家族の尊重」
婚姻、家族、親子関係などにおいて、障害者の差別をなくすことを定めています。具体的には以下の事項です。
・自由意思で結婚が出来て、子供を出生出来て、家族が形成できることを認める
・障害者が子供を養育するにあたっては、適切な援助を与える
・障害のある児童と家族に対して、必要な支援を提供する
・障害を理由に家族を分離してはならない、ただし家族が障害のある児童を監護できない場合は、最善の代替監護を提供する
第24条「教育」
教育の機会均等を定めた長文の条項です。以下の事項の記載があります。
・障害のある児童が初等、中等の義務教育から排除されないこと
・一般的な教育制度に基づきながら、個別化された指導措置と、個人に必要とされる合理的な配慮が提供されること
・障害者教育の専門知識、手話点字など専門技能をもった教員を育成すること
第25条「健康」
医療、保健サービスの平等な提供を定めています。その中から3点を紹介します。
・農村であっても、サービスは障害者の近くで提供すること
・保健に従事するスタッフに障害者へのサービスに係る教育研修を行うこと
・法律で認められている場合は、生命保険の提供においても差別を禁止すること
第26条「ハビリテーション及びリハビリテーション」
条約国は障害者へのハビリテーション及びリハビリテーションに力を入れることを定めています。25条と似ていますが、以下の記載があります。
・なるべく早期に開始すること
・農村であっても、サービスは障害者の近くで提供すること
・専門家の育成と補装具や支援機器の促進を行うこと
第27条「労働及び雇用」
労働の平等な権利と障害者差別の禁止を定めた条項です。一般的なルールに加えて、以下が明記されています。
・公的部門において障害者を雇用すること
・適当な政策及び措置を通じて、民間の障害者雇用を促進すること
・職場で障害者への合理的配慮が提供されることを確保すること
・障害者が隷属状態および強制労働から保護されることを確保すること
第28条「相当な生活水準及び社会的な保障」
衣食住など生活レベルと社会保障について、障害者に差別のない権利を保障することを求めています。その中で特に、清浄な水のサービス、障害のある女子と高齢者の貧困対策、公営住宅の利用機会を求めています。
第29条「政治的及び公的活動への参加」
障害者の選挙権、公民権、公的機関での活動の権利を保障する条項です。投票所のバリアフリー化にも言及しています。そして次の記載があります。
・当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めること
第30条「文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加」
障害者がアートに接する機会、スポーツなどに参加する機会を積極的に促進することを求めています。そのための施設のバリアフリー化や鑑賞料の減免化などの方向性を抽象的に表現しています。
その中で、締約国の知的財産権保護の法律が、障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な障壁にならないことを求めています。
第31条「統計及び資料の収集」
障害者に関する事実データの収集と公開について、締約国の責任に触れています。その一方で、障害者のプライバシーへの配慮を求めています。
第32条「国際協力」
障害者を包容する国際的な開発計画を進め、各国間で情報や技術を共有し、相互に技術援助や経済援助を行うことを推奨しています。
ただしこの条項は「義務ではない」とされています。
第33条「国内における実施及び監視」
政府内に条約の実施と調整を行う組織をつくること。そして国内に監視する枠組みを整備することを求めています。その中で、障害者当事者が監視の過程に参加、関与することを定めています。
第34条「障害者の権利に関する委員会」
締約国が包括的な報告をする委員会の規定を定めた条項です。委員は18名で、地理的、文明形態や法体系的、そして男女が衡平に選出されること、障害のある専門家が参加することが定められています。
第35条「締約国による報告」
34条で定めた委員会への報告義務が定められています。初回は2年以内、以後は4年以内に報告書を提出します。
報告には条約の義務の履行が困難なことも記載できる、とされています。
第36条「報告の検討」
35条で定めた報告を34条の委員会が検討します。検討結果によっては報告国に勧告や追加要請ができること、また報告が著しく遅れている締約国には通報ができるとされています。
また35条の報告は、各国が自国内で公開すること、国連は全ての条約国が利用できるようにすることが求められています。
第37条「締約国と委員会との間の協力」
各国と34条で定める委員会が、相互に協力することを求めています。
第38条「委員会と他の機関との関係」
同委員会は、条約内容に関連する専門機関や国連の機関に、助言の要請や協議ができるとされています。
第39条「委員会の報告」
委員会は2年毎に国連などに活動を報告し、各国への勧告やその国からの意見は、報告に記載することを定めています。
第40条「締約国会議」
2年毎に締約国会議を国連事務総長が招集することが定められています。
第41条「寄託者」
条約の寄託者は国連事務総長とします。
第42条「署名」
条約は全ての国の署名のために国連本部で開放しておきます。
第43条「拘束されることについての同意」
条約は署名国によって批准されなければなりません。
第44条「地域的な統合のための機関」
特定地域の締約国によって構成される機関に、条約が規律する事項に関して権限を委譲することができます。
第45条「効力発生」
条約が有効になる日を定めました。すでに効力は発生しています。
第46条「留保」
条約に反する留保は認めません。
第47条「改正」
締約国の三分の二以上の賛成で、条約は改正できます。
第48条「廃棄」
条約を廃棄する場合は、国連事務総長に書面で通告します。その1年後に条約の締約は廃棄されます。
第49条「利用しやすい様式」
条約の本文は、利用しやすい様式で提供される、としています。
第50条「正文」
条約の正文は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語と定めています。したがって日本語は正文ではありません。
以上が「障害者権利条約」全50条項のポイントです。
(本稿は2020年6月に執筆しました)