災害は障がいの世界にも多くの課題を示します。障がいのある人の避難所生活の困難さなど、東日本大震災であらためて浮き彫りになった問題です。
近年災害による長時間停電が、現実に発生しています。なかでも最も緊急性の高い課題は、生命を維持するために、人工呼吸器や吸引が必要な重い身体障がいのある人の救助です。現在、どのような備えがあるのか、概略を紹介します。
以前から全国的に重度障がいの人がいる家庭は、消防署に自主登録する制度があります。これは大災害発生時以外でも、例えば近隣で火災が発生した場合などでも、優先的に消防が救助を行うためです。
東日本大震災以後に法令が整備され、避難行動要支援者の個別計画の策定が行政に義務付けられました。そのこともあり、自治体で災害時の緊急支援を行うために、人工呼吸器が必要な患者の状況を把握するようになっています。
吸引レベルの障がいのある人も、徐々に行政個別対応の対象に広がっています。各電力会社には、人工呼吸器使用者の登録制度があります。東日本大震災の時は、東北電力のスタッフが非常用発電機や補充燃料を持って、人工呼吸器使用患者のいる家庭を回り、多くの命を守りました。
家庭での備えです。非常用自家発電機はメンテナンスが大変です。燃料を入れ替えたり、定期的にオイル交換をしたりと、なかなか素人には面倒な作業が必要です。非常用のバッテリーも、常時最高の充電状態を維持するのは大変です。
家庭で発電機とバッテリーを備える場合は、メンテナンスに高い意識をもたなければなりません。
人工呼吸の場合、手動式人工呼吸器、通称「蘇生バック」を用意しておくのも方法です。ただしこれは素人には扱いが難しく、下手なことをするとむしろ危険があります。使用方法について、日頃から専門医の指導を受けて練習しておく必要があります。
定期的な吸引が必要な障がいがある人の場合、手動式または足踏み式の吸引器があります。このタイプの吸引器は、介助者にかなりの体力を要求します。これも日頃からの使用訓練が欠かせない道具です。
車のある家庭なら、シガーライターケーブルを用意しておきます。12V直流から変電するケーブルです。車のバッテリーがもつ限り、電力を利用できます。東日本大震災以後、用意する家庭が急増しています。
近年注目されているのは、電気自動車(EV)の活用です。フル充電状態のEVを、停電時に障がいのある人のいるところに配備し、電力供給を行う検討が行政サイドで進んでいます。人工呼吸器レベルの消費電力なら、数十時間のレベルでバッテリーがもつ可能性があります。まだまだ運用レベルではありませんが、将来構想としては有望です。
電源喪失が命に直結する重い障がいのある家族のために、行政と家庭で、万が一に備えた準備が進んでいます。
(本稿は2019年12月に執筆しました)