都立特別支援学校 就業100%を目指す 就業技術科

軽度の知的障がいと認定される高校生を中心に、卒業後の就職を目的にした教育訓練を行う高校があります。東京都立特別支援学校の就業技術科です。

入学希望者が多い人気の学科です。障害者雇用の義務化により、企業からは新卒の採用先として注目されています。どういう学校でどんな教育をしているのか、具体例を紹介します。

就業100%を目指す 就業技術科

就業技術科の生徒の一般的なイメージです。重い身体障がいはなく、一人で公共の交通機関を利用して通学が可能な生徒です。知的なレベルは個人でバラつきがあります。得意なこと、苦手なことは個人で違います。コミュニケーションが苦手な子、どうしても計算が出来ない子、運動が大の苦手の子、様々です。見た目で障がいがはっきりと解る生徒もいます。一見ではどこに障がいがあるの、という生徒も大勢います。日常生活では障がいを全く感じさせない生徒もいます。

学校としての目標は、就業100%です。さすがに100%は難しいようですが、97%くらいは達成している学校が多いようです。就業に向けての教育訓練は高校1年生から始まります。ある学校の事例をご紹介します。

1年生のテーマは就業のための基礎の習得。5つの職種の校内業務訓練をローテションで体験します。職種は「清掃」「物流」「事務・情報処理」「食品」「福祉」です。

「清掃」はビル清掃業務、「物流」はピッキングや梱包などの作業、「事務・情報処理」はPC業務など、「食品」は調理作業や接客業務、「福祉」は介助ヘルパーの仕事になります。

就業100%を目指す 就業技術科

そして「トライアル実習」。企業の協力を得て、実際の会社に行って実務作業を経験します。2日~3日間程度の短期日程で、年間2~3社で実習します。

この1年で、挨拶が出来る、遅刻をしない、指示された業務をよそ見をしないでやり遂げる、問題があったら報告をする、などの社会人としての基礎の習得を図ります。

2年生のテーマは発展。清掃・物流系か食品・福祉系のどちらか、自分に合った修業コースを選びます。適正が認められる生徒は事務系コースもあります。

選択したコースの校内実習を行いながら、協力企業で2週間程度の実習に2回挑戦します。2週間のうちに、指示された仕事をしっかり出来るようになることが目標です。

3年生のテーマは応用。前出の5つのコースを選択し、就職を目指します。企業研修も3週間コースを年3回行きます。希望の会社が定まっていれば、その会社の研修に行き、そのまま就職につなげるケースもあります。

就職先及び就業分野のコース別の比率はほぼ同じですが、やや「福祉」の分野の就業率が低い傾向があるようです。

教育の最終目標が就業であることについては、様々な議論があります。特別支援学校就業技術科の教育現場では、生徒たちは真剣に就業訓練に取り組んでいます。

就業100%を目指す 就業技術科

就職希望の障がいのある高校生の、実務研修を受け入れている企業側の状況を紹介します。

特別支援学校では、定期的に説明会などを開催して、研修を受け入れてくれる企業を募集しています。それに応じた企業に、研修受け入れの要請が入ります。

一般的な研修の流れをご紹介します。初めて研修を受け入れる場合、最初に学校の先生に来社していただき、想定している仕事の内容、設備などをチェックしてもらいます。また先生からは、研修をさせたい生徒の一般的な能力レベルなどの説明があります。お互いが了解出来れば、研修受け入れのスタートになります。

学校から正式な研修受け入れの要請書が企業に出されます。期間、生徒の氏名などが記載されています。企業側が正式に受け入れる旨の印を押します。

次に、研修にくる生徒を連れて、先生が挨拶にきます。生徒に企業の場所、職場の実際を教える意味もあります。

企業側からは、研修の担当者が挨拶をします。生徒には、この人に聞きなさい、という指導が行われます。

研修当日です。初日は先生も一緒に来社することが多いようです。朝礼に参加して、職場の皆さんに自己紹介をして、仕事のスタートです。

研修担当者や職場のOJTリーダーの人などから、仕事を教えてもらいます。最初は緊張する生徒が多いようです。

指定の休み時間には休憩。お昼休みは昼食です。お弁当持参、社員食堂の利用、企業の状況に応じて、生徒は昼食をとります。

そして終業まで働きます。終業後、一日の活動レポートを書き、企業の担当者に提出します。そして一人で帰宅します。二日目からは一人で出勤します。

研修受け入れに当たって、企業が気を配ることです。先ずは元気な挨拶の励行です。社会人としての基礎を学習する意味があります。社員からも、明るく元気な挨拶をします。

仕事中は、あまりにほったらかしにしないで、時々声をかけてあげます。また困った時は誰に聞け、という担当者は明確にしておきます。

そして、業務レポートを読んで確認印を押します。生徒にとっては、学校への報告書になります。

想像するよりも、普通に仕事が出来る生徒が多い、という感想が多いようです。ただ未熟な高校生ですから、中には仕事の足を引っ張るだけの生徒もいます。上手に仕事をしてもらえれば、無料のアルバイトを雇えたようなもので、企業にも実利は出ます。

なにか問題を起こしそうな生徒は、学校側でも解っているので事前に情報を提供してくれます。その子は無理と判断すれば、受け入れを断ることもできます。不慮の事故などに備えては、学校側が保険に入っています。

障がいのある生徒の就業訓練に、多くの企業が協力しています。

(本稿は2019年11月に執筆しました)

別稿で「東京都特別支援教育推進計画 過去の成果・未来の目標・現在の施策」を掲載しています。ご参照ください。