脳性麻痺児に総額3千万円 産科医療補償制度をやさしく解説

脳性麻痺児に総額3千万円 産科医療補償制度をやさしく解説

2009年に創設された「産科医療保障制度」は、2015年の改定を経て、現在では産科がある病院のほぼ100%が加盟する保険制度になっています。

一定の要件を満たした脳性麻痺児に対し、一時金で600万円、0歳から19歳までの20年間毎年保障分割金120万円、合計で3千万円の補償金が支払われます。

一定の要件とは何か。分かり難いポイントを解説します。

○基本要件は在胎週数と出生時体重

・在胎週数が32週以上で出生時体重が1,400kg以上

極端な早産、低体重児は、補償の対象にはなりません。ただし在胎週数が28週以上であれば、分娩時に医学的なデータに基づく「低酸素」や「心拍喪失」など、一定の要件が確認できれば補償の対象になります。

○脳性麻痺の定義に合致すること

この制度が対象とする脳性麻痺の定義は「受胎から新生児期(生後4週間以内)までの間に生じた児の脳の非進行性病変に基づく、出生後の児の永続的かつ変化しうる運動又は姿勢の異常」です。

したがって遺伝子異常など「先天性の要因」や、分娩後の感染症など「新生児期の要因」がある場合は補償の対象になりません。

分かりにくいのは「脳の非進行性病変」です。脳の病変が進行している子どもは、障がいの状態が脳性麻痺と同様でも、補償されません。

○重度の障がいであること

「身体障害者福祉法施行規則に定める身体障害者障害程度等級一級又は二級に相当する脳性麻痺」児が制度の対象です。

2級以上の身体障害者手帳の交付を受けていることが条件ではなく、運営組織である「日本医療機能評価機構」が「補償対象」として認定した場合に補償金が支払われます。

認定は「総合的に判断して、身体障害者障害程度等級1級・2級相当の状態が5歳以降も継続することが明らかである」ことが条件です。幼い子どもの将来を、どのような基準で判断するのか、ガイドラインから抜粋して紹介します。

・低緊張型脳性麻痺の場合は、3歳未満では診断や障害程度の判定が困難であるため、原則として3歳以降の診断に基づき判断を行う。

・将来実用的な歩行が不可能と考えられる状態の「実用的な歩行」とは、「装具や歩行補助具(杖、歩行器)を使用しない状況で、立ち上がって、立位保持ができ、10m以上つかまらずに歩行し、さらに静止することを全てひとりでできる状態」である。

・6ヶ月から1歳未満のとき、重力に抗して頚部のコントロールが困難な場合に、基準を満たす。

・1歳から1歳6ヶ月未満のとき、寝返りを含めて、体幹を動かすことが困難な場合に、基準を満たす。

・1歳6ヶ月から2歳未満のとき、肘這いが困難、床に手をつけた状態であっても介助なしでは坐位姿勢保持が困難な場合に、基準を満たす。

・2歳から3歳未満のとき、寝ている状態から介助なしに坐位に起き上がることが困難な場合に、基準を満 たす。

・3歳から4歳未満のとき、つかまり立ち、交互性の四つ這い、伝い歩き、歩行補助具での移動(介助あり)の全ての動作が困難な場合に、基準を満たす。

・4歳から5歳未満のとき、下肢装具や歩行補助具を使用しないと、安定した歩行、速やかな停止、スムーズな方向転換が困難な場合に、基準を満たす。

・上肢のみの障害は、障害側の基本的な機能が全廃している場合に、基準を満たす。

・両上肢の障害は、脳性麻痺による運動機能障害により、食事摂取動作が一人では困難で、かなりの介助を要する状態の場合に、基準を満たす。

・片麻痺があり総合的な判断となるときには、障害側の一上肢に著しい障害があり、かつ、障害側の一下肢 に著しい障害がある場合に、基準を満たす。

なお、認定が何歳であろうと遡及するので、補償される金額の総額は3千万円で変わりません。

極端な早産や低体重ではなく、脳性麻痺の定義に合致した症状で、かつ運営組織が重度であることを認定すると、脳性麻痺児に総額3千万円が補償されます。

※同制度の対象基準が2022年から改定されます。詳しくは別稿脳性麻痺児のための産科医療補償制度 対象基準の改定を参照してください。

(本稿は2020年7月に執筆しました)