脳性麻痺の子どもと家族はどのような生活をしているのか。「公益財団法人日本医療機能評価機構」の「脳性麻痺児の看護・介護の実態把握に関する調査プロジェクトチーム」が実施した調査の報告書が2019年9月に公開されています。
その結果の多くは予想を肯定する内容ですが、改めて数値で検証することで、子どもの症状と家族の苦労が明らかになりました。報告書の中から、注目すべき数値を抜粋して紹介します。
《注意点》児の年齢は5.44歳、母は37.97歳
アンケートの対象は「産科医療補償制度の補償対象となった児のうち、2017 年 10 月から 2018 年 9 月までに補償分割金請求案内書を送付する児の保護者」です。
そのため回答が得られた子どもの年齢は、1歳から9歳までの1,510人です。
2018年時点で10歳以上の脳性麻痺児は、産科医療補償制度対象外のため、調査対象に含まれません。
○過半数の子どもは重度の知的障がいを合併
子どもの合併症では「最重度の知的障がい」がある子どもが最多で55.9%です。次に多いのは「てんかん」43.9%、「嚥下障害」43.8%。低年齢の子どもが調査の対象ですが「胃ろう」の児が29.2%います。
低年齢なのでデータは上振れしていると思われますが、「おむつの使用」は89.3%となっています。
○母の介護は1日15時間以上
母親の97.9%が介護を行い、その時間は「1日15時間以上20時間未満」が最多です。介護の主体は母親です。
ただし父親の82.9%は、時間は短いながら介護を行い、その日数は「5日以上6日未満」が最多です。また祖母の35.4%、祖父の16.7%が介護を行い、その日数は「週に1日から2日」が最多です。
脳性麻痺の幼児の介護は、母親がほぼ毎日フルタイムで行い、父親は在宅中の隙間時間で母親をサポート。祖父母が動ける場合は、週に数日サポートに入る。このような生活パターンが多数派であることが数値から読み取れます。
なおアンケートの回答者は85.5%が母親、12.5%が父親です。
○4人に1人がショートステイを利用
1歳児で26.3%、4歳児で28.7%、8歳児で28.1%と、全年齢で約4人1人はショートステイを利用しています。1か月間の平均利用回数は「5回未満」が最多です。
逆に見れば約75%の家族は、一日の休みもなく毎晩子どもの介護をしています。
○母親の半分は就労を断念
脳性麻痺の子どもが生まれてから、就労自体を辞めた父親はほとんどいませんが、母親の就労率は61.3%から32.7%に低下しています。つまり、それまで働いていた母親の半分は就労を諦めています。
就労を継続している親で、出生後に転職した母親は33.0%で、転職後の就労日数及び就労時間は減少しています。大雑把なイメージですが、就労を継続した全体の半分の母親の内、3人に1人はフルタイム勤務からパートタイム勤務に転職しています。
父親の20%が出生後に転職していますが、就労日数及び就労時間はほぼ変わっていません。父親はフルタイムからフルタイムへ転職しています。
○重度脳性麻痺児の社会的年間介護費用は約1,000万円
アンケート結果からプロジェクトチームが推定した理論値ですが、障害福祉サービス等の費用と家族ケアの費用を、その時間数と全労働者の平均賃金を掛けた中央値でみると「重度脳性麻痺児の看護・介護にかかる社会的費用は年間で約 900~1,210 万円」と報告されています。
この報告書の目的の一つは「産科医療補償制度」で保障される金額の検証です。現在は総額3,000万円が保障されますが、このような調査分析を重ねて補償金額の修正が検討されます。
このアンケートは、10歳未満の脳性麻痺児の家族が対象で、児の平均年齢は5.44歳、母は37.97歳です。別の年齢層を対象にした調査を行えば、相当異なる結果がでることが予想されます。あくまで若い家族層を対象にした調査結果だと理解して下さい。
(本稿は2020年8月に執筆しました)