各種の調査結果からみる 重度障がい児の父親が心がけるべきこと

重度障がい児の父親が心がけるべきこと

障がいと共に生きる家族に関する調査研究が多数行われ、その成果が公表されています。重度で重複した障がいのある人に関する調査対象は「母親」であることが多く、また近年では「きょうだい児」を対象とした調査も増えてきています。しかし「父親」を対象とした大規模な調査はほとんどありません。

数多く公表されている「母親」や「きょうだい児」の調査結果から、重度障がい児の「父親」が心がけるべきことをまとめます。

《母親の不満》

母親を対象にした調査で不満の上位になるのは「自分ひとりで介護をしている」「自分の時間がない」「仕事に就けない」「社会との接点がもてない」などです。

医療的ケア児の母親になると「睡眠不足」が最上位になります。

また「ひとり親世帯」の場合は「貧困」が大きな問題になります。

障がいのある子どもがある程度の年齢になると「将来の不安」が上位にあがります。不安の主な要因は「介護(自分の健康)」と「お金」です。

このような結果になる多数の調査が公表されています。

《きょうだい児の想い》

母親の調査に比べれば、調査件数は多くはありません。それでもおおよその傾向はあります。

幼少期の記憶は「親がかまってくれなかった」「遊びに連れていってもらえなかった」「面倒を看させられてたいへんだった」などです。知的障がい児の「きょうだい」の場合は「暴れてたいへんだった」が上位にきます。

成年期の不安は「親亡き後に面倒をみること」です。

以上を踏まえて、重度障がい児の父親が、家族のために心がけるべきことをまとめます。

○子どもの介護を分業制にしない

母親が介護に専念する場合、家族が不自由なく生活できる収入を父親一人で稼ぐのはたいへんです。全力で仕事に取り組まなければなりません。それでも「介護は妻の仕事」と分業する意識を持つことは避けなければなりません。

正確なデータはありませんが、障がい児がいる夫婦の離婚率、別居率は、平均よりもかなり高いといわれています。

○母親のフリータイムをつくる

睡眠時間も含めて、自分の時間がもてないことが、母親の大きな不満です。子どもの障がいが重度で、全く目が離せないなど、介護の負荷が高い場合は、父親、親族、ヘルパーなどで介護をする時間をつくり、母親による365日24時間介護状態だけは、何としてでも避ける必要があります。

○話をよく聞く、会話をする

介護に専念しなければならない母親の不満を分析し「話し相手や相談相手、悩みを共有する人がいない」と考察する論文があります。障がい児に関することは、医療機関など専門家との相談が重要なのは勿論ですが、家庭での日常的なコミュニケーションも同じく必要です。

特に父親は、子どもの介護について、母親から話をよく聞くことが大切です。

○子どもの進路などは母親の判断を優先する

この年齢で障害者手帳を申請するべきか、進路先は特別支援学校か普通校か、夏休みキャンプに参加させるかなど、様々なレベルのテーマにおいて、両親の間で意見が異なるケースがあります。「自分ひとりで介護をしている」意識が強い母親ほど、父親との意見の相違はストレスが強くなるという調査結果があります。

このような対立が直接的なトリガーになり、家庭内不和が生じるケースがあるそうです。介護の負荷と、ご夫婦の関係によりますが、状況によっては母親を立てる配慮が必要です。

○母親から介護方法を教わる

病院、学校、施設などに関わるのが母親であることが多い場合、彼女はそこで専門的な技能や知識を身につけます。PTで体操の方法を学ぶ、STで歯磨きの方法を学ぶ、あるいは病院で医療的ケアの方法を学ぶ。しかし、技能や知識を身につけても、それを人に教えることが上手な人は稀です。

ある調査によると、自分が正しいと思う方法とは違う行為を父親が行うことは、母親にとっては大きなストレスになるようです。母親が全力で学んだ技能や知識は、父親が努力して共有するように意識することが重要です。

○子どもの教室やイベントに参加する

様々な調査の「考察」に「自分の子どもの障がいに、父親は正面から向き合えない」と総括されます。

重度障がい児の親になるまで、障がいの世界と縁のなかった父親にとっては、そういう指摘も一概に否定できません。

世の中には数多くの障がい児・者がいて、その親がいます。障がい児の親へのアンケート結果で多い回答は「多くの障がいのある人と家族に、出会えたことがよかった」です。

リトミックの教室に一緒に行く、運動会に参加するなど、他の障がい児と家族に出会える機会を積極的につくることが大切です。

○連絡帳を読んで子どもの日常を知る

幼児教室、特別支援学校、そして大人になってからの通所施設まで、障がいのある子どもが、どこかに通うようになった場合、連絡帳が利用されます。

主な介護者が母親の場合、彼女が家庭での様子を書き、先生や支援員が出先での様子を書きます。ある調査によると、連絡帳のやり取りの必要性は認めながら、負担に感じている母親がいるそうです。

父親は自ら書く必要がなくても、出来る限り毎日、連絡帳に目を通して、子どもの状況を知ることは、母親との関係においても有意義です。

○きょうだい児に同じ時間をつかう

障がいのある子どもの他に「きょうだい児」がいる家庭では、父親は意識をして障がい児と同じ時間を「きょうだい児」に使うことが重要です。

母親が日常的に主な介護者になっている場合、どうしても母親は障がい児に使う時間が多くなります。特に幼年期は、母親から生まれるやむを得ない「きょうだい」ギャップを、父親が埋める意識が必要です。

○節制による健康の維持

母親の不満で多い「仕事に就けない」は、第一次的には経済面での不安が理由です。多くの母親は、父親だけの家計収入に不安を感じています。「きょうだい児」のためにも、健康で長く元気に仕事が続けられなくてはなりません。

余命を自分でコントロールすることはできませんが、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足など、一般的なレベルの健康管理は特に留意して、家族に心配をかけない配慮が必要です。

なによりも基本的なことは、家族に高いレベルの愛情を注ぐことです。障がいのある子どもがいるために、より一層絆が強まる家族は少なくありません。父親が愛情を注ぐことが、家族の幸せの前提条件です。

(本稿は2020年8月に執筆しました)

別稿で「重度障がいのある家族との生活とフルタイム勤務の両立は難しい」を掲載しています。ご参照ください。