国の事情と障がい者の希望「障害者総合支援法」の大きな論点

障害者総合支援法」の大きな論点

福祉の充実はお金がかかります。障害者福祉サービスの基本となる法律「障害者総合支援法」で、大きな論点となっているポイントを紹介します。

○サービスの費用負担

介護保険制度は利用者負担が原則です。一般的に「応益負担」または「定率負担」と呼ばれる考え方です。

障がい者側が求めているのは、サービスを無料で利用できることです。ただし高額所得者は、障がい者でも負担があってもよい、という意見が社会的には多数派です。この考え方は一般に「応能負担」と呼ばれます。現行の障害者総合支援法は応能負担である、とされています。

現行法では、様々な費用負担軽減措置がとられているため、低額所得者は実質無料、または負担金の上限があります。ただしこれらの負担軽減措置は、障害者総合支援法で「政令で定める」とされているので、「高額所得者」の定義や「応能負担」の金額は、政府によって簡単に改訂できます。

障害者福祉サービスの費用負担の考え方は、制度設計上の大きな論点です。

○65歳からは介護保険

障害者総合支援法では、障がい者が65歳になると「介護保険制度」のサービスに移行します。したがって利用者負担の原則が適用されます。この65歳問題対策として、2018年の障害者総合支援法改正で、65歳で費用負担が増えない政策が盛り込まれました。したがって現状では65歳になって、サービス利用料の負担が増えることはありません。

しかし、制度としては65歳からは「介護保険制度」に移行します。障害者総合支援法で規定するサービスは社会「保障」です。それが65歳になると「保険」に変わります。

障害者福祉は「保障」か「保険」か。基本的な考え方が、大きな論点です。

○個人ではなく世帯収入

「応能負担」の「応能」の定義に関する論点です。

障害者総合支援法では、18歳未満と18歳以上で障害児と障害者が区分けされ、規定が変わります。18歳未満の障害児の収入は「世帯収入」が適用されます。

18歳以上の障害者は、同居していても親の収入は対象から外れますが、配偶者の収入は対象になる「世帯収入」が適用されます。したがって就労していない、あるいは低収入の本人と親が生活している場合などは、実質的には個人収入と変わりません。世帯をもち、本人は無収入または低収入で、配偶者が高収入の場合は、「応能負担」の「応能」が増加します。

障害者の収入はあくまで「個人」で規定すべきという意見があります。「個人収入」基準か「世帯収入」基準か。「応能」の定義はどうあるべきかが、大きな論点です。

○障がいの等級制度

障害者総合支援法では、個々の障がい者に「障害支援区分」が判定されて付与されます。その等級によって、受けられる福祉サービスと、その上限時間や回数などが規定されます。

元々、障害の程度で等級を判定する制度はありました。これは「障害の医療モデル」からくる制度で、障害者総合支援法における「障害の社会モデル」とは思想が違います。そのため、障害の程度ではなく必要な支援による区分、ということで等級の名称が「障害支援区分」に変わりました。

等級制度については2段階の論点があります。

一つは、そもそも障がいに等級は必要がない、という意見です。それによって、サービスの質や量が変わる必要はない、という主張です。「公平理論」であり「差別不要論」です。

もう一つの論点は、等級を判定するのは人間です。その人が負っている障がいを、他者が公平で客観的な判定することなど出来ない、という「技術論」です。

「差別不要論」と「技術論」の2段階で、「障がいの等級制度」は、その是非が大きな論点になっています。

○先送りした重要課題

障害者総合支援法は2012年に成立しました。その時点で解決できなかった5つの重要課題を「3年後の検討課題」として整理しています。

1.常時介護を要する障害者等に対する支援、障害者等の移動の支援、障害者の就労の支援その他の障害福祉サービスの在り方

2.障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方

3.障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方

4.手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方

5.精神障害者及び高齢の障害者に対する支援の在り方

2018年の法改正で、病院への重度訪問介護、障害児への補装具の貸与など、いくつかの改正が行われましたが、2012年の宿題は終わっていません。

先送りした重要課題はすべて、大きな論点として現存しています。

他にも多数の論点はありますが、特に大きな論点を抜粋して紹介しました。

(本稿は2020年6月に執筆しました)

別稿で「障がい者福祉 世界の歴史と日本の現状をやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。