多くの重度障がいのある人が、障がい者支援施設、福祉型障がい児入所施設、グループホームなどに入所しています。入所者の体調が悪くなった場合、入所施設のスタッフが医療機関に連絡をして、重度障がい者を医療機関に受診させてなくてはなりません。
このような場面で、どのような問題がおこっているのか。「令和2年度障害者総合福祉推進事業」として、「障害者支援施設等と医療機関における連携状況に関する実態調査」が行われました。報告された内容から抜粋して、支援施設と医療機関が直面している問題を紹介します。
なお本調査は「三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社」が、1,183件の障がい者支援施設と、230件の医療機関からアンケートを回収し、5件の医療機関からヒアリングを実施した集計結果に基づいています。
〇本人が症状を自己申告できない
半分以上の支援施設からあがった問題点です。受診させるべきか、救急搬送を要請すべきかなどを、施設が判断しなくてはなりません。アンケートでは約半数の入所施設が「症状を自己申告できない入所者は、受診の判断が困難」と回答しています。
〇夜間や休日は嘱託医や看護師が不在
次に多かった問題点は、受診が必要と判断しても、嘱託医にお願いできれば安心ですが、不在の場合は診ていただける医療機関を探さなくてはなりません。そしてスタッフが医師に患者の様態を伝えなければなりません。アンケートでは重複回答ありで「入所者が急変した際の対応について主に判断する人」は90%程度が「自施設の看護職員」、重複して50%が「自施設の職員」と回答しています。
〇重度障がいの急患を受け入れる医療機関が少ない
施設側の不安事項として「夜間・休日の対応が可能な医療機関が少ない」が50%、「急変時の受入れができる医療機関が少ない」が45%、「入院できる医療機関が少ない」が 55%などの回答状況です。エリアや施設によって状況は異なることが想像されますが、全体的に夜間や休日、急変時、入院時の対応に入所施設は不安を抱えています。
〇病院での待機が困難
重度の知的障がい者が入所する施設の8割からあがった問題点です。予約ができていても待つのが病院。おとなしく受診を待つことが出来ない人に同行する施設スタッフは大変です。
〇医療機関から対応を断られる
アンケートによると断られた絶対的な件数は少なく、平均で1施設あたり年間1件未満の発生状況です。
医療機関側の対応を断る理由は「治療が困難」が57%と多く、治療が困難な理由としては「コミュニケーションが取れない」、「診療を抵抗・拒否する」、「攻撃的な行動等がある」、「強度行動障害」という回答でした。
「救急指定病院でも受診拒否があった」「利用者の特性によっては、検査をしてもらえないことも多い」と回答した入所施設があります。
〇入院時に付き添いが必要
重度障がい児者が入院することになった場合、医療機関側から付き添いを求められることが多く、その場合は約半数のケースで施設スタッフが対応せざるを得ない状況です。入院付き添いによって、施設の日常業務が人手不足で回らなくなる問題があげられています。
また関連して施設側からは「付添いが必要な場合、個室料がかかる」、「利用者が重度の場合短期間で退院させられてしまう」という回答がありました。
〇入退院時の医療情報が本人と家族にだけ伝えられる
入院中の注意事項、退院後の薬の服用、生活上の注意事項、今後の検査スケジュールなどが、入所先ではなく家族だけに伝えられるケースがあり、入院中の付き添いや退院後の入所生活に支障がでるという問題です。
家族の伝達能力の問題もありますが、医療機関側が、入所施設がどのような情報を必要としているのか理解していないという問題でもあります。
〇治療に同意書が必要
入所施設から「保護者の同意が必要となるケースが増えてきており、保護者がいない場合や後見人の判断が出来ない場合の対応等が難しい」「身元引受人や、家族のいない利用者の手術や入院同意書が提出できない」という問題が提起されています。命に係わる深刻な問題です。
〇医療機関からみた問題点
医療機関からも多くの意見が回答されています。「意思疎通ができないことで、治療の必要性を理解できず、受け入れてもらえない」、「本人が訴えられない時、施設職員がきっちり代弁、説明をしてほしい」、「施設の負担感やスキル不足(新人職員が多い)から入院を希望するケースが多い」など。また「医療行為を行うに当たっての採算が合わない」というストレートな問題があげられています。
障がい者入所施設と医療機関は、大きな問題に日々直面しています。
(本稿は2021年10月に執筆しました)