脳性麻痺に関わる医療用語をやさしく解説

脳性麻痺に関わる医療用語をやさしく解説

脳性麻痺(CP)は現在の医学では治すことが出来ない病気です。しかし早期の発見、適切な医療行為の継続により、可能な限り予後を良い状態にすることは出来るとされています。

脳性麻痺の子どもと共に生きる家族は、医療機関と関わり続けます。その生活の中で、一般的には聞きなれない用語に出会うことがあります。脳性麻痺に関わる難解な医学用語を、非専門家向けにやさしく解説します。分かりやすさを優先するため、専門的な意味での解説が不十分であることはご容赦ください。

○低酸素性虚血性脳症(HIE)

母胎内や分娩中に、赤ちゃんの脳への酸素供給や血流が滞ることによって引き起こされる脳障害の病名です。脳性麻痺の主な原因といわれています。

○経頭蓋エコー(US)

頭を超音波で検査します。脳卒中の検査でよく行われますが、赤ちゃんにも簡単に実施できるので、早産などハイリスクな新生児に対して行われることがあります。脳室内の出血や脳室拡大などを発見することができます。

また嚥下障害など合併症が発生した場合にも行われることがあります。

○粗大運動能力分類(GMFCS)

脳性麻痺の人の運動能力の分類基準です。6歳以後の運動能力を「制限なしに歩く」から「車椅子で移送される(動けない)」まで5分類します。

○ボバース法

「ボバースコンセプト」「ボバース概念」「ボバースアプローチ」「神経発達学的治療(NDT)」などの呼び方があります。1940年代に英国人ボバース夫妻が提唱したリハビリテーションの考え方です。

一人ひとりの潜在能力を正しく評価したきめ細やかな療育、PT、OT、STなどチームによる取り組み、最新の科学を取り入れて治療内容を変革し続けることなど、治療のための考え方を意味します。

○上田法

1988年に小児整形外科上田医師が開発した理学療法です。筋肉の硬さを解消するプログラムです。

○CI療法

上肢が片麻痺の人の動く腕を三角巾などで動きを制限して、動かない腕を動かす練習をする方法です。

○ボツリヌス治療(ボトックス注射)

食中毒の原因菌であるボツリヌス菌が作り出す天然のたんぱく質「ボツリヌストキシン」を注射して、筋肉の緊張をやわらげる治療です。

○選択的脊髄後根遮断術(SDR)

筋肉に力が入りすぎて、手足が動かしにくかったり、勝手に動いてしまったりする状態を緩和する外科的手術です。多くの場合、背中から脊髄反射弓の求心路を遮断します。一般に6歳以下の子どもに対する手術が推奨されています。

○整形外科的選択的痙性コントロール手術(松尾法)

つっぱりの強い脳性麻痺の患者の緊張をゆるめる手術です。痛みや変形のもととなる緊張の強い筋腱を選んで外科的に緩めます。

○バクロフェン持続髄注療法

緊張を和らげる飲み薬「バクロフェン」を脊髄に直接投与する療法です。少量ずつ24時間持続して脊髄腔に注入するためのポンプを、腹部に埋め込む手術を行います。

○機能的電気刺激(FES)

その名の通り、障がいのある神経や筋に電気ショックを与える療法です。世界各国で成果が報告されています。

○部分免荷トレッドミル歩行訓練

トレッドミルはウォーキングマシーンのことで、体を釣り上げるクレーン装置を使い体重の負荷を減らして行う歩行訓練です。

使用するマシンは「免荷トレッドミル」「吊り下げトレッドミル」などと呼ばれています。

○後方支持型歩行器(PCW)

体の前方で支える「U字型歩行器」に対して、体の後方を支える歩行器です。歩行中に体幹や足が伸びやすいので、脳性麻痺患者に適していると評価されています。

○座位保持装置(シーティング)

身体障がいのある人のための、その人にあわせた椅子のことです。脳性麻痺の患者の日常生活を支える必須の用具で、その設計は科学的に研究され、その理論と実践のことを「シーティング」と呼ぶこともあります。車椅子だけを指すのではなく、姿勢を保つための様々な形態の椅子全般を意味します。

○医療的ケア

法的に定義された用語ではありませんが、一般に以下のような日常的な介護行為を指します。

・経管栄養

胃まで挿入されたチューブで栄養剤を送ります。鼻からは「経鼻栄養法」、口からは「経口栄養法」、胃ろうからの「胃瘻による経管栄養法」などがあります。

・吸引

吸引機と吸引カテーテルで唾液、痰、鼻汁を吸い取ります。

・気管切開(気管カニューレ)

気管を切開して、そこからカニューレを通して呼吸を楽にします。気管カニューレを清潔に正しく管理することがケア行為です。

・酸素吸入

車椅子に搭載できる小型の吸入器もあります。

・導尿

尿道にカテーテルを入れて尿を出します。

以上、一般的には聞きなれない用語を選び紹介させていただきました。

(本稿は2020年7月に執筆しました)

別稿で「発生率は0.17% データでみる脳性麻痺児の実態」を掲載しています。ご参照ください。