国が目指す福祉行政の姿 障害者基本計画 2022年度までの成果目標

国の障害者福祉施策の基本となる計画は「障害者基本計画」です。現在は2018年度から2022年度までの5カ年を対象にした「第四次計画」の期間中。計画では主な障害者福祉施策の成果目標を設定しています。その中から、一般的にはあまり知られていない施策を中心に、成果目標を紹介します。

「障害者基本計画」とは何か

障害者基本法に基づき、国に策定義務がある計画です。対象期間の法的な定めはなく任意です。策定した計画は政府(内閣府)から国会に報告義務があります。

この基本計画に基づいて、各都道府県が「都道府県障害者計画」を策定します。この策定も法律で義務付けられています。

そして「都道府県障害者計画」に基づいて、市町村が「市町村障害者計画」を策定します。これも策定が義務づけられています。

第一次計画は1993年度~2002年度、第二次計画は2003年度~2012年度、第三次計画は2013年度~2017年度、そして現在の第四次障害者基本計画が2018年度~2022年度です。

以下に、第四次障害者基本計画の2022年度までの成果目標について、抜粋して紹介します。なお内容を分かりやすくするために、計画原文から一部表現を変更しています。ご承知おきください。

〇障害者の住宅の確保

・要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録戸数を増加させ続ける

〇施設等のバリアフリー化

・主要な駅、道路は100%バリアフリー化する

・列車、バス、タクシー、旅客機、旅客船のバリアフリー化を大幅に高める

・不特定多数が利用する建物、公園などのバリアフリー化を大幅に高める

〇新技術による意思疎通支援

・自立支援促進事業への助成により、機器やサービスの実用化を促進する

〇障害者のための防災強化

・聴覚及び言語障害者が119番通報できる仕組みをすべての消防本部に導入する

〇消費者トラブルの防止と救済

・消費生活上特に配慮が必要な障害者のために「消費者安全確保地域協議会」を、人口5万人以上の全市町村に設置する

〇障害者差別の解消推進

・すべての市町村で障害者差別解消法に基づく対応要領を策定する

〇相談支援体制の構築

・相談支援者研修修了者数を増やし、各種相談支援事業の利用者数を増加させる

〇福祉施設から地域生活への移行

・在宅サービスなどを強化拡充して、福祉施設入居者を地域生活に移行する支援を行う

・全市町村に地域生活支援拠点を整備する

〇障害のある子どもに対する支援の充実

・重症心身障害児も対象に含めて、各地域の児童発達支援事業所数を増加させる

・全都道府県で支援センターの複数設置や地域支援マネジャーの配置を進める

・保育士等に障害児保育の研修を実施する

〇精神障害者への支援強化

・長期入院患者の減少、早期退院者の増加を目指す

・地域生活への移行支援サービス、定着サービスを充実させる

〇歯科検診の拡充

・障害者施設での定期的な歯科検診の実施率を2022年までに90%にする

〇福祉用具の開発実用化

・開発支援助成事業により新しい福祉用具の製品化を進める

〇選挙での配慮

・国政選挙では「選挙のお知らせ」の点字版、音声版を配布する

・国政選挙のすべての投票所の段差を解消する

〇障害者の就労支援

・様々な障害者福祉施策をおこない、一般就労者数を増加させる

・企業および公共機関の障害者雇用義務数値の達成率を向上させる

・B型事業所の仕事を増やす施策を行い、月額平均工賃額を引き上げる

〇児童生徒及び障害学生への支援

・幼小中高において、必要な児童生徒には個別指導計画の作成を行う

・教員の育成、必要な設備の導入など特別支援教育の体制を整備する

・すべての大学で在籍する障害学生への必要な支援を行う

・卒業後も、学習、スポーツ、文化等の活動が身近に確保されている障害者を増やす

〇障害者の文化、芸術、スポーツ

・障害者の芸術文化活動を支援する団体を増やす

・特別支援学校での舞台芸術鑑賞の機会を増やす

・障害者スポーツの実施団体、指導者、参加者を増やす

〇国際社会への貢献

・国際協力機構(JICA)において、障害者を対象にした研修員、専門家、ボランティアを増やし、障害者のためのプロジェクト件数を増加させる

・国際交流などを担う民間団体への助成件数を増やす

以上、第四次障害者基本計画の成果目標の一部です。国を挙げて2022年度末までの実現を目指しています。

(本稿は2020年5月に執筆しました)

別稿で「障害者政策委員会の見解による5年間の進展」を掲載しています。ご参照ください。

解説 障害者総合支援法に基づく基本指針と2020年度末の数値目標

障害者総合支援法は、2016年に成立し、2018年4月から全面的に施行されました。2017年3月に国の「基本指針」が示され、2018年度から2020年度の3か年を対象に「第5期障害福祉計画」が立案され、「2020年度末の成果目標」が定められています。

障害者総合支援法が目指していることと、2020年度末の数値目標について、ポイントを解説します。

ポイント①「施設入所者の地域生活への移行」

障害者総合支援法の目的は「障害者自らが望む地域生活ができる」ことです。そのために総合的な福祉政策が組み合わされています。

「施設入所者の地域生活への移行」は、同法を象徴する目標です。

2016年度末実績を基準にして

・施設入所者の9%以上を地域生活に移行する

・施設入所者数を2%以上削減する

この2点が2020年度末の数値目標です。

ポイント②「精神障害にも対応した地域ケアシステムの構築」

「支援費制度」から2010年の「障害者自立支援法」の改正までは、精神障害者は明確には地域支援の対象ではありませんでした。多くの地域で、身体障害、知的障害に比べて、精神障害は地域でのケア体制が不十分な状況です。

「第5期福祉障害計画」では、原則としてすべての市町村と都道府県に「保健、医療、福祉関係者による協議会」を設置して、精神障害に対する地域包括ケアシステムの構築を進めています。

精神障害の2020年度末の数値目標は都道府県単位で以下の数値が設定されています。

・精神病床の1年以上長期入院者の減少(概ね全国で15万人以内程度、2014年度末に比べて概ね全国で3万人程度の減少)

・退院率の改善(入院後3か月退院が69%以上、6か月まで退院が84%以上、1年以内退院が90%以上)

長期入院患者の絶対数の減少と、入院患者の早期退院が目標値に設定されています。

ポイント③「全市町村に地域生活支援拠点を整備」

原則としてすべて市町村に少なくとも1つ、障害のある人の地域での生活を支援する拠点を整備することが政策であり、数値目標です。これにより障害者福祉の空白エリアをゼロにします。

ポイント④「福祉施設から一般就労への移行」

就労支援サービスの拡大充実により、2020年度末に以下の4つの数値目標が設定されています。なお、B型事業所は一般就労の対象になりません。

・支援事業を通じた一般就労移行者数を2016年度実績の1.5倍以上にする

・就労移行支援事業の利用者数を2016年度実績から20%以上増加させる

・就労移行率30%以上の事業所数を全体の5割以上に引き上げる

・就労者の1年後職場定着率を80%以上とする

ポイント⑤「障害児支援体制の全国整備」

障害児への支援体制の強化が最後のポイントです。

2018年度末までに、各都道府県および市町村に、医療的ケア児支援の協議の場を設置し、そして2020年度末は以下の3点が目標として設定されています。

・全国の市町村に1カ所以上の「児童発達支援センター」を設置する

・全国の市町村に保育所等訪問支援を利用できる体制を構築する

・重症心身障害児を支援する児童発達支援事業所及び放課後等デイサービス事業所を、各市町村に1カ所以上確保する

障害者総合支援法が全面施行されて3年目の2020年。年度末の主な数値目標は以上です。

(本稿は2020年5月に執筆しました)

別稿で「地域生活支援拠点整備の状況と課題をやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。

車両の非課税、有料道路割引など、車に関する障害者減免制度

障害者が運転または利用する車には、税金の減免制度や有料道路の減免制度などがあります。

2019年12月現在の制度の状況と、知っていると役立つ情報を紹介します。

車に関する障害者減免制度

○車両購入時の非課税制度、減免制度

・消費税の非課税制度

福祉車両を購入すると、消費税が非課税になります。障害者手帳とは関係のない非課税制度です。

非課税対象の車両の定義は、車椅子などを昇降する装置と車内に固定する装置を整備した車両です。

具体的には、座席が電動シートまたはリフト式の車は、消費税が非課税になります。

回転シートなど手動の座席の場合は、これだけでは課税対象になります。トランクルームやカーゴスペースに、車椅子を引き上げる電動のクレーンが付いていると非課税になります。

メーカーカタログ車両の場合は販売店に確認すれば確実ですが、自分でオーダーメイドする場合は、消費税非課税適用になるか、慎重に確認してください。

また車両により無条件で非課税になる場合と、非課税申請が必要な車両があるので、詳しくは販売店で確認してください。

なお上記の定義に当てはまる装置の後付での装備、あるいは故障修理費用は、消費税非課税になります。

車に関する障害者減免制度

・自動車税環境性能割

身体障害者の利用が前提で、新車の場合は取得価格が300万円までの車両は無料に減免されます。300万円を超える場合は、超過価格分が課税されます。

中古車の場合は45,000円まで減免、グリーン化税制の対象車は51,700円まで減免されます。

自動車検査場や都道府県の税事務所などで手続きが必要です。

車に関する障害者減免制度

○維持費としての自動車税環境性能割

毎年4月1日に自動車を所有していると課税される税金です。

一般車両の場合は、上記の取得時の自動車税環境性能割の基準に準じます。

消費税非課税対象の福祉車両の場合は全額減免されます。

なお自動車税環境性能割は地方税です。都道府県によって詳細な適用基準や申請ルールが異なります。

○有料道路の通行料金障害者割引

全国の高速道路、首都高速など都市高速道路は、障害者減免登録された車両のみが料金割引の対象になります。

またETCカードを使用する場合、該当車両と登録されたETCカードの組み合わせで割引が適用されます。

また現時点のルールでは、割引適用になる障害者が20歳になると、本人名義のETCカードで登録する必要があります。重度の障がいがある人でも、本人名義のETCカードを用意します。一般的なカード会社であれば、家族カードを作りETCカードを付帯させることができます。

車両の障害者減免登録の有無に関わらず、障害者手帳を提示すると通行料金が割引される有料道路もあります。レンタカーでも障害者が乗車していれば、料金が割引されます。

この有料道路による車両登録の必要性の有無のおおよその目安は、ETCゲートの有無です。ETCが使用できない有料道路は、ほとんどの場合、障害者手帳だけで料金割引になります。

道路の他にカーフェリーの料金は、障害者割引になることがあります。

車に関する障害者減免制度

○助成金制度

障害者が自動車免許を取得する際の助成金。

自動車を購入する際の助成金または貸付金。

身体障害者が自動車を改造するための助成金。

市区町村が窓口になる、上記の助成金制度があります。

適用範囲、所得制限などがあるので、詳しくは窓口に問い合わせてください。

○有料駐車場の障害者減免制度

特に公営の有料駐車場では、駐車料金の障害者減免制度がよくあります。ほとんどの場合、車両登録は不要で、障害者本人の利用と障害者手帳の提示で減免されます。

知や精神の手帳では不可で、身体障害者手帳に限って減免する駐車場もあります。

車に関する障害者減免制度

車に関わる障害者制度は多々あります。制度は変更される可能性があるので、最新情報を必ず確認してください。

別稿で「福祉車両の快適装備 消費税が非課税になる純正オプション」を掲載しています。ご参照ください。