ボランティアが支える 障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

ボランティアが支える 障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

ボランティア活動に支えられた、障がいのある子を対象にしたキャンプがあります。一例として、ある社会福祉法人が主催する夏休みキャンプの事例をご紹介します。

○キャンプの申し込み

夏休みに山中湖畔のYMCAセンターを宿泊所にして開催されるキャンプで、小学3年生から高校3年生までが対象になります。

ある年の夏の場合は、2泊3日コースが定員20名、4泊5日コースが定員36名、5泊6日コースが定員55名、健常児と一緒に行く4泊5日のコースが定員40名でした。

夏休みのキャンプですが、参加の募集は春に行われ、子どもの障がいの状況を記した、書くのが大変なほどのボリュームの書類で応募します。

障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

どのコースも大変人気があります。例年定員を大幅に上回る応募があり、キャンプの参加の当選確率は50%以下のようです。当落選考過程は情報公開されていません。

父母の間のもっぱらの噂では、前年参加した子は落ちる確率が高いようです。ただし、3年連続で当選した子もいますので、絶対的な条件ではないようです。

参加する子どもでグループを編成してキャンプ中は生活をします。そのためグループに組み込みにくい子、つまり同じような障がいのレベルの子が少ない子は落選する、という説があります。

男女別にグループを組みます。男女とも同じグループ数をつくるとなると、結果的に男女がほぼ同数当選します。例年、応募者は男子の方が多いので、男子の当選確率が低い、というのは本当のようです。

障がいの質によって当落がある、という説もあります。コミュニケーションが取れない子、自傷行為が激しい子はキャンプ生活が難しいということで、当選確率が低いという説です。ただそういうタイプの子が参加している事例もあるので、いちがいには言えない噂です。

障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

参加費用は、安くはありません。家庭の事情により減免措置もありますが、通常は2泊3日で3万円台、4泊や5泊だと5万円から6万円程度かかります。

ただしすべてコミコミで、一人対一人以上の数のボランティアスタッフや、医師など専門家も帯同しますので、実費としては一人あたりの費用の3倍くらいはかかります。不足分は支援企業の協賛金などから賄われています。

キャンプ参加の希望が多いのは、学齢年代の障がいのある子の夏休みの過ごし方に、多くのご家庭が悩んでいることの現れです。親としても、子としても、長い夏休み期間を24時間ずっと一緒に過ごすのは、お互い大変です。無事に「当選」すると、次は「面接」になります。

障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

○キャンプの事前面接

6月頃にキャンプに「当選」した子ども達が一堂に集められて、スタッフの面接や医師による検診を受けます。この時点で、子ども達のグループ編成は終わっています。

面接の当日、受付をすると、その子を担当する予定のスタッフが紹介され、以後一緒に行動します。キャンプコースによってメニューは変りますが、あるコースの事前面接の流れを紹介します。

同じグループの子どもが集合して顔を合わせ、リーダー格のボランティアさん、個人を担当する学生ボランティアさんなどが紹介されます。皆で歌ったり絵を書いたりと、遊びの時間があります。全体では遊びを続けながら、順番にリーダークラスのスタッフの面接を受けます。

学生スタッフは、このキャンプに参加するために、数度の研修を受けています。本番までには、更に重ねて研修を行います。

障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

面接では、キャンプ生活上での注意点について、確認が行われます。常備薬、排泄の方法、食事の注意など、家族はなるべく細かく具体的に、その子の障がいに応じて、スタッフに知っておいていただきたいことを説明します。特にキャンプ初参加の子どもは、なるべくその子の障がいの実際が理解されるように、時間をかけて話し合いをします。

スタッフとの面接が終わると、最後に医師の健康診断です。主に内科の観点からのチェックがあり、「キャンプ参加可」という診断をいただきます。キャンプに一緒に随行する医師もいます。不安な点があれば、遠慮なく相談、申告をして、万が一に備えます。これで、事前面接が終了です。

キャンプ直前には、担当スタッフから電話が入ります。その時点での体調や注意点など、再確認が行われます。

障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

○キャンプ生活

キャンプ当日は、持ち物すべてに名前を書き、体調を整えて指定場所に集合します。そしてチャーターバスで山中湖に向かいます。もう一台チャータートラックもあり、車椅子はトラックに乗せられます。

普通の観光バスなので、まったく歩けない子は、スタッフが担いで乗せて、担当のボランティアさんと並んで乗車します。いろいろな思いがよぎり、出発を泣いて見送る保護者がいます。

障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

山中湖のYMCAのお部屋は、2段ベッドになっています。下段に子ども、上段にスタッフが寝ることが多いそうです。何かあると大変なので、スタッフは交代で「寝ずの番」をするそうです。

食事は皆で一緒に楽しくとります。常食が可能なメンバーのコースでは、お昼はバーベキューや流しそうめんなど、イベント性のある食事企画になります。

その他にも湖でのカヌー体験や、夜はキャンプファイヤーなど、一般の子どものキャンプと同様の楽しいメニューが用意されています。

障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

お風呂も入れていただけます。慣れないボランティアスタッフにとって、障がいのある子をお風呂に入れるのは大変だと思いますが、事故に気を付けながら、世話をしていただけます。

キャンプ中に万が一何かあった場合は、保護者に連絡がいきます。しゃがってキャンプ中は、いつでも連絡がつくようにする義務が保護者にはあります。

キャンプ最後の日は、行きと同じくバスで帰ってきます。家族は集合場所にお迎えします。バスの窓から家族を見て、ニヤッとする子もいますし、知らん顔の子もいます。子どもの引き渡し時に、スタッフがキャンプ中の子どもの様子を教えてくれます。キャンプ中の出来事や毎日の様子などは、スタッフが日誌に書いています。家に帰って読むと、様子がよく解ります。

後日「振り返りの会」を開催するキャンプもあります。キャンプでとった写真や、製作した作品などがいただけます。最近はありませんが、以前は一緒にキャンプに行ったお子さんの名前や連絡先なども交換されていました。

障がいのある子ども対象にした夏休みキャンプ

自己表現がうまく出来ない障がいのある子の場合、キャンプが楽しかったのか、いやだったのか、家族もよくわかりません。

それでも安全にキャンプに参加して、家族以外の他者との関係を経験できたことは、きっとプラスになっています。

(本稿は2019年11月に執筆しました)

別稿で「知的な障がいのある人への学生ボランティア活動」を掲載しています。ご参照ください。