日本は2007年9月に「障害者権利条約」に署名しました。2011年には「障害者基本法の改正」、2012年「障害者総合支援法の成立」、2013年「障害者差別解消法の成立」など、2010年代は障がいの者を取り巻く社会環境が大きく変わった10年間です。
2010年代、障がい児教育ではどのような変化があったのか。特別支援教育に関わるデータと政策を中心に、経緯と現在の状況を紹介します。
○特別支援教育を受ける児童生徒の増加
2010年代は日本全体では出生児数の減少が続き、児童生徒の全体人数は約10%減少しています。
・義務教育段階の全児童生徒数
2009年度 1,074万人 → 2019年度 973万人
その中で特別支援教育を受ける児童生徒数は、ほぼ倍増しました。
・特別支援学校等の(小中)在校生数
2009年度 25.1万人 → 2019年度 48.6万人
その結果、2020年には、全児童生徒の20人に1人は特別支援教育を受けています。
・特別支援学校等の(小中)在校生の占有比
2009年度 2.3% → 2019年度 5.0%
特別支援教育48.6万人の内訳をみると「特別支援学校」の在籍者は約20%増加しました。
・特別支援学校 2009年度 6.2万人 → 2019年度 7.5万人
「特別支援学級」の児童生徒は2倍超の増加。
・特別支援学級 2009年度 13.5万人 → 2019年度 27.8万人
そして、いわゆる「通級」を利用している児童生徒が2.5倍になりました。
・通常学級からの通級 2009年度 5.4万人 → 2019年度 13.3万人
以上は小中学校の実績です。
2018年度からは高等学校段階における通級による指導が開始され、2019年度からは全都道府県において実施されています。
○医療的ケア児への対応
2011年には、研修を受けた教員が一定の条件下で医療的ケアを行える制度が始まりました。
文部科学省の調査によると、特別支援学校の通学級に在籍している児童生徒の中で、医療的ケア児は10年間で約15%増加しています。
・特別支援学校の在籍者数 2010年 7,306人 → 2019年 8,392人
これに対し、特別支援学校に在籍する看護師は、約2.3倍になりました。
・特別支援学校の看護師数 2010年 1,049人 → 2019年 2,430人
この他に訪問級に在籍する児童生徒がいます。
・2019年5月1日現在、小学部1,247人、中学部754人、高等部822人
医療的ケア児の特別支援学校への通学には2つの問題があります。
・スクールバスを利用できない=保護者による登下校通学
・校内での医療的ケアが保護者しか出来ない=保護者の校内待機
この2点については、2020年現在道半ばの状況です。医療的ケアの体制が用意できた一部の都道府県の一部の学校、その運用ガイドラインに該当する一部の児童生徒が、スクールバスで登校して、教員あるいは看護師から医療的ケアを受けています。
○教科書のバリアフリー化の推進
2017年4月に新特別支援学校小学部・中学部学習指導要領、2019年2月に新特別支援学校高等部学習指導要領が公示されました。ポイントは以下の3点とされています。
・重複障害者である子供や知的障害者である子供の学びの連続性
・障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実
・キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育等の充実
これに連動して教科書が新しくなります。
・拡大教科書の発行
2019年度に使用された検定教科書では、弱視の児童生徒向けの拡大教科書が、ほぼ全点で発行されました。
・デジタル教科書への移行
2018年に「学校教育法」の改正が行われ、2019年度より、障がいにより紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒には、教育課程の全部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用することができるようになりました。
○クラス編成と教員配置数の改善
教員数と児童生徒数に関する改正の歴史です。
2011年4月に「義務標準法」が一部改正され、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を対象とした通級による指導の充実など特別支援教育に関する加配事由が拡大されました。
2017年3月の「義務標準法」改正で、2017年度から公立小・中学校における通級による指導など特別な指導への対応のため、10年間で対象児童生徒数に応じた定数措置(基礎定数化)を行うこととしました。この他に、特別支援学校のセンター的機能強化のための教員配置など、特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置が行われました。
2018年3月に「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律施行令」が改正され、公立高等学校における通級による指導のための加配定数措置が可能になりました。
このような改正により、2020年現在の1学級の児童生徒数の標準は、公立特別支援学校では、小・中学部6人、高等部8人(いわゆる重複障害学級にあってはいずれも3人)、 公立小・中学校の特別支援学級では8人となっています。
○特別支援教育に関わる教員の専門化
2007年度より、従来、盲学校・聾学校・養護学校ごとに分けられていた教諭の免許状が、 特別支援学校の教諭の免許状に一本化されています。
2017 年11月に「教育職員免許法施行規則」が改正され、教職課程において「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」に関する科目が必修化されました。
2019年4月からは、中央教育審議会の審査に基づき、文部科学大臣の認定を受けた大学において新しい教職課程が始まっています。
・特別支援学校の教師の特別支援学校教諭等免許状の保有率
2018年5 月1日現在のデータで、全体では79.8%です。
○地域連携と個別の教育支援計画の策定
2012年7月の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進報告」で、「教育委員会や学校等は、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要であり、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークを形成することが有効である」ことが示されています。
これをうけて文部科学省では、特別な支援が必要な子供が就学前から卒業後にわたる「切れ目ない支援」を受けられる体制整備への取組みを推進しています。
2016年6月に「発達障害者支援法の一部を改正する法律」が公布され、「発達障害児がその年齢・能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるよう、可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮すること」や、「支援体制の整備として個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成推進、いじめの防止等のための対策の推進等」が規定されました。
2018年8月には「学校教育法施行規則」が改正され、「個別の教育支援計画の作成に当たっては、児童生徒等又はその保護者の意向を踏まえつつ、医療、福祉、保健、労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならない」とされました。
2019年度からは、学校と放課後等デイサービス事業所などとの連携方法のマニュアルを作成するモデル事業が開始されています。
・特別支援学校高等部の進路
2019年5月1日現在のデータでは、特別支援学校高等部卒業者の進路は、福祉施設等入所が約60.6%、就職が約32.3%です。
2010年代の10年間で、障がい児の教育環境は大きく変わりました。よりよい教育の実現を目指して、2020年代は始まっています。
(本稿は2020年8月に執筆しました)