重度重複障がい者施設で大人気「スヌーズレン」をやさしく解説

重度重複障がい者施設で大人気「スヌーズレン」をやさしく解説

多くの施設で専用のスヌーズレンルームが用意され、ウォーターベッド、バブルチューブなどの機器が配備されています。知的、コミュニケーション面で重い障がいのある人に係る学校、療育センター、通所入所施設などにとって、いまやスヌーズレンルームは必要不可欠な「設備」といっても過言ではありません。

「スヌーズレン」=「設備」ではない、とよく言われます。では「スヌーズレン」とは何なのか。この説明は簡単ではありません。

〇スヌーズレンには具体的な定義がない

一般的な手法として、専用のスヌーズレンルームを用意し、照明の色を変え、音楽が流れ、香料が漂い、ベッドやボールプールなどで寛ぐ、などが一般的です。

スヌーズレンの定義は「人間の環境を最適化」して「人と人との触れ合い」・・・、など具体性はありません。スヌーズレンの概念が創設された1970年代のオランダでは、意思疎通が困難な重度重複障がいのある人は、病院のベッドに寝かされて、白衣の看護師がケアする時代でした。もっと「人間の環境を最適化」して「人と人との触れ合い」が出来るようにしたい。これがスヌーズレンの創設理念です。

〇スヌーズレンの利用方法や目的に制約がない

一般に重度重複障がいのある人のリラクゼーションのために、スヌーズレンルームは利用されています。

リラクゼーションは、スヌーズレンの利用方法や目的として間違いではありません。ただし「利用法は自由である」とされていて、セラピーや感覚の発達指導などの教育、あるいは施設職員と利用者のコミュニケーションとして利用されることもあります。「利用法は自由」なので、いずれも間違いではありません。

〇楽しくなければスヌーズレンではない

逆説的に、これはスヌーズレンではない、という定義は想定できます。スヌーズレンは一般的なコミュニケーションが難しい重度重複障がいのある人にとっての、娯楽のようなものでなければなりません。一般的な意思疎通が難しい人の反応をよく確認して、楽しいか否かを推定して、その人にとって楽しい感覚を提供するのがスヌーズレンです。

現在の多くの施設で設けられているスヌーズレンルームの内容は、これまでの活動を通じて得られた、重い障がいのある多くの人が、楽しいと感じていると推定される、色、音、匂い、触感などのノウハウが活用されています。

〇利用者にとってのスヌーズレンとは

健常な支援者からみて、障がいのある利用者が楽しいと感じ、リラクゼーション効果があると推定される状況だとして、それは利用者にとってどのような意味があるのか。

重度で重複した障がいがあり、一般的なコミュニケーションが成立しない人にとっては、健常な人が思うリラクゼーション効果以上の何かがあるのかもしれません。

外部からの感覚を受け入れて、脳や各種の神経、筋肉と同期させる。あるいは指導者や支援者と、上下ではなく横並びの関係を感じる。重い障がいのある人は、リラクゼーションよりも、もっと創造的な刺激がある時間を過ごしているのかもしれません。

〇専用室以外でのスヌーズレン

スヌーズレンに取り組む多くの入所施設では、スヌーズレンルームに限らず、施設の様々な場所での取り組みが行われています。

自室内でプラネタリウムを投影、お風呂をお花で飾る、廊下にバブルタワーを置く。スヌーズレンの理念を、各施設は設備の配置で具体化しています。

〇スヌーズレンの理念

先駆的な取り組みをしている障がい者施設で、積極的に行われているのが、職員へのスヌーズレン理念の教育です。

1970年代のオランダで、入院している重複障がい者に医療行為をおこなっていた看護師は、悪いことをしていたのではありません。

特別支援学校の先生、障がい者施設の職員も同じで、食事や排泄、入浴の介助をすることは、悪いことではありません。

一般的な意思疎通が出来ない重度障がいの人も、感じて、共感して、寛ぐことが出来る。そして感覚が研ぎ澄まされる可能性がある。スヌーズレンによる取り組みは、重度重複障がいの世界で、大きな動きになっています。

(本稿は2020年5月に執筆しました)

別稿で「身体障がいがある人のトランポリンを使った運動方法」を掲載しています。ご参照ください。