リハビリの世界でOTという分野があります。
Occupational Therapistの略で、作業療法士と訳されます。国家資格でOTになった先生が、医療行為として障がいのある方に、食事や手芸などの「作業」によるリハビリを行います。躁鬱病や摂食障害などの患者さんも対象とします。
一般にOTは、脳梗塞の後遺症へのリハビリなど、後天的な障がいへの医療ケースが多いのですが、本稿では脳性麻痺や染色体異常など「生まれつきの障がい」がある人の場合のOTの実際について紹介します。
PTは体の機能を回復させる医療行為ですが、OTは手や体を動かして遊びながら心と体をリハビリする医療です。患者に合った楽しい訓練が工夫されます。
「生まれつきの障がい」がある人の場合、PTは早ければゼロ歳から開始されますが、OTは早くても2~3歳からが一般的です。
小児病院のOTルームは、おもちゃで一杯です。ボールプール、室内用の滑り台やブランコなど体で遊ぶ遊具もあります。
握ったり数えたりするための道具として「大量の小豆」も定番です。
これらの道具を活用して、患者に合ったリハビリメニューが考案されます。
ボタンを押すと音や音楽が流れるオモチャも立派なOT道具です。右手でボタンを押せたら、今度は不自由な左で頑張る、などその患者の課題にあった訓練が遊びながら行われます。
作業といいながら、おもちゃ遊びを通じて、遊びのルールを理解したり、ゲームに勝つ喜びを感じたり、頭や心を鍛える要素も織り込まれます。
年齢が上がり、知的・精神的な発達が進むと、OTの訓練メニューは変わります。
例えば食事に関する訓練として、上手にスプーンやフォークを使う、出来そうであればお箸を使う、などの作業が取り込まれます。
カードを使って、作業として手の動きを働きかけるとともに、カードの内容を理解する、数を数えるなどの要素を組み合わせます。患者の状態次第で訓練メニューは個別です。決まり事はありません。
OTとPTとの境界線は、それほど厳密なものではありません。理学療法と作業療法というアプローチ方法が違うだけで、患者の運動機能を高めるという目的は一緒です。
中にはかなり体を使った力技のOT訓練を行ってくれるOT先生もいます。患者に合ったプログラムを、知識と経験で取り入れていきます。
作業療法の性格上、体がほぼ動かない、あるいは呼びかけても反応がほとんど解らない、という重度の障がいの方は、一般的なOT訓練メニューは向きません。
それでも右手の人差し指がなんとか動く、など患者の状態によって、訓練の方法はあります。
主治医とよく相談して、医療効果が少しでも期待できるのであれば、重度障がいの方も積極的にOTを受診しています。
その人に合った、楽しいリハビリを考えて実行する、OTはそのような医療行為です。
(本稿は2020年1月に執筆しました)