理学療法士PTによる 障がい者リハビリテーションの世界

理学療法士PTによる 障がい者リハビリテーションの世界

身体障がいのある人なら必ずお世話になる、PTの世界を紹介します。

PTとはPhysical Therapistの略、訳語では理学療法士です。一般に「PTの○○先生」という呼び方をします。

「次のPTは来月の○日の○時から」という言い方にもなり、リハビリの一つの科目の名称としても使われます。

基本動作の能力の回復、維持が主目的の医療行為です。この行為を「PT訓練」と表現することもあります。

理学療法士PTによる 障がい者リハビリテーションの世界

障がいのある人がかかる専門の総合病院の場合、主治医となる内科や整形の医師の診断を受け、PTが必要と判断されて、PTの先生に連絡が回る、という手順になります。OT、STも同様です。

あくまで医療行為として医師が必要を認めてからのスタートになります。

リハビリという言葉は、元々あった機能を回復する意味ですが、脳性麻痺など生まれつきの身体障がいの人の訓練にも使われます。

患者さんを大別すると、脳性麻痺や染色体異常など生まれつき障がいがある人、事故などで運動機能を失われた青年壮年の人、病気や体力低下などで運動機能が劣化した高齢の人に分かれ、専門とする病院も変わります。

本稿では主に「生まれつきの障がいのある人」が関わるPTの世界について紹介します。

理学療法士PTによる 障がい者リハビリテーションの世界

幼児期に運動機能の障がいが認められた場合、最初に始まるのがPT訓練です。早い人はゼロ歳からPT訓練が始まります。

乳幼児ですから、PTの先生の指示に従って自分で動くわけではありません。例えば股関節の動きが悪いのなら、動きをよくするための運動をPTの先生が実践して、家族がそれを覚えて家庭でも取り組む、ということになります。

「生まれつきの障がいのある人」の場合、成長しても自分の意思でリハビリをする状況にはならないケースが多く、家族が覚えて家庭で取り組むという行為がずっと続きます。

そういう病院に行くと、もはや成人になった障がいのある子を、高齢になったお母さんがストレッチャーに乗せてPTに通う姿がよくみられます。

一般にPTはとても混んでいます。需要と供給のバランスがとれていません。

担当のPTの先生のスケジュールは、ずっと先まで埋まっているのが普通です。平均して月に一回予約ができれば良い方です。そして、日々新しい障がいのある乳幼児が患者に加わってきます。

その一方、障がいが回復してPTが不要になる人は、ほとんどいません。

すべての病院や医師がそうだとはいいませんが、混みあう中で優先されるのは、新患の人や、将来の機能回復可能性が残る、低年齢の人になります。

ある程度の年齢になり、運動機能障害の回復が見込まれない患者の優先度は下がります。

中学生の年代になると「次の3か月間○○さんはPTお休みで、次は4か月後」という扱いになってきます。

特別支援学校や通所施設などでもPTの先生の指導を受けることが出来るケースも多いので、皆さんそれぞれに工夫して、障がいのある家族の運動機能向上への努力を続けます。

理学療法士PTによる 障がい者リハビリテーションの世界

医療の世界は医師と患者が一対一で結びつくのが一般的です。PTの世界も同じで、担当のPTの先生がつくと、転勤などがないかぎり、通常はずっと同じ先生にかかります。

健常者が交通事故などに逢い、一定期間のリハビリによって機能回復ができた、という場合PT訓練は短期間ですが、「生まれつきの障がいのある人」の場合、ほとんどの人はPTとは長く付き合います。

PTの先生とは10年来のお付き合い、になることも稀ではありません。

PTのプログラムはまさに個別です。PTの先生が患者の実際をみて、知識と経験でプログラムを組み立てます。

動かない体を動かす訓練なので、PTは体力勝負の力技になることも多くなります。

患者の性格も考慮します。無理をして痛い訓練をすると、プログラムを拒否するタイプなら、そうならないように上手なやり方を考案します。

運動機能の訓練ですが、知的障がい・コミュニケーション障がいを併発している患者が多いので、PTの先生も簡単ではありません。

理学療法士PTによる 障がい者リハビリテーションの世界

赤ちゃん期はともかく、年齢が上がり患者の自我が強くなるほど、患者の個性を見極めた個別のPT訓練プログラムの企画が重要になります。

そのためには、PTの先生との長い付き合いというのは有効です。生まれつきの障がい者の場合、付き合いが浅いと、どういう人なのかわかり難い場合が多いので、長いお付き合いによる深い理解が必要です。

こうなってくると、一般の主治医と患者の関係ではない、ちょっと違う関係が成立してきます。

同じ病院、同じ先生に通う別の患者さんやそのご家族との交流も芽生えます。

「○○先生とその患者の親の飲み会」が開かれるケースもあります。そういう付き合いになるPTの世界です。

理学療法士PTによる 障がい者リハビリテーションの世界

出来る病院は限られますが、プールを利用した水中訓練のPTもあります。

重度の運動障がいのある人でも、水中であれば多少の運動ができるケースは多々あります。患者自身が「水好き」というケースも少なくありません。

水中訓練の場合、PTの先生一人に複数の患者が入水するやり方も珍しくありません。したがって、家族が水着に着替えて一緒に入ります。若いころから継続して何十年、高齢のお母さんで頑張っている人が大勢います。

重度障がいの人の場合、水着の着替えも重労働です。重く深い人間模様が刻まれるPTプールです。

生活圏に、通いやすくて良いPT訓練が受けられる病院がある人は恵まれています。通院が大変な人が多いのが実際です。

大きな病院の駐車場には、遠くのナンバーをつけたミニバンが数多く停まっています。重度の身体障がいや知的障がい、コミュニケーション障がいが伴っている患者は、最近増えている高齢者向けのリハビリセンターでは、一般に受け入れていただけません。

理学療法士PTによる 障がい者リハビリテーションの世界

患者が大人になり、支えてきた家族が高齢になってからがいよいよ大変です。大人になった重度重複障がい者の、通所または入所施設でのPT受診機会は、一般に多くはありません。

「生まれつきの障がいのある人」と家族は、長くPTに関わります。

(本稿は2019年12月に執筆しました)

別稿で「言語聴覚士 STによる障がい者リハビリテーションの実際」を掲載しています。ご参照ください。