医療的ケア児に関する、障がい者福祉を規定する法律の歴史は驚くほど短く、2016年がその始まりです。2021年6月に成立した「医療的ケア児支援法」の概要と、そこに至る歴史のポイントを紹介します。
〇2021年6月新法が成立
2021年6月11日に「医療的ケア児支援法」が衆院本会議で可決成立しました。同年9月に施行される見込みです。
成立した正式名称「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」は、あくまで理念法であり、施行令、施行規則、そして今後の予算や事業者への報酬改定などはこれから検討されます。
「医療的ケア児支援法」が定めるポイントは、改正障害者総合支援法で各省庁および地方自治体の「努力義務」とされてきた医療的ケア児への支援が、「責務」に変わったことです。
自治体が支援の責務を負う施設は「保育所」「認定こども園」「家庭的こども園」、「幼稚園」、「小学校」「中学校」「高等学校」、もちろん「特別支援学校」、そして「放課後等デイサービス」。今後新しい制度による新支援組織ができれば、それも支援の対象になります。
また医療的ケア児に関するワンストップの相談機関「医療的ケア児支援センター」が、各都道府県に設立されます。
「医療的ケア児支援法」成立に至るまでの歴史を、以下簡潔に紹介します。
〇大島分類による初めての定義
戦後すぐに、近江学園など、重度の障がいのある子どもをケアする民間の動きが始まりましたが、日本で最初に重度で重複した障がいのある子どもを定義したのは、1968年に発表された「大島分類」とされています。それまでは社会的な意味で、重度重複障がい児の存在が、科学的に定義されることはありませんでした。
その後、障がい児・者福祉に関する法律は、様々な展開がありましたが、医療的ケア児問題に対する政治行政の動きが本格化するのは、2015年からです。
〇児童福祉法の改正
法律の中に医療的ケア児に関する文言が初めて明記されたのは、2016年に改正された児童福祉法です。ここまで長い年月がかかりました。
この2016年の改正法で、「医療的ケア児支援法」で「責務」と変わる前の、各省庁および地方自治体の「努力義務」が規定されました。
この法改正を契機に、自治体によっては、特別支援学校の看護職員を増員するなど、医療的ケア児に対する取り組みが始まりました。しかし自治体間の格差はあり、また取り組み始めた自治体でも、家族の介護負担が実際に大きく変わるほどの成果は、すぐにはありませんでした。
〇福祉サービスの報酬改定
医療的ケア児への努力義務が課せられた後の、2018年の障害福祉サービス報酬改定で、医療的ケア児への福祉サービスが拡充されることが期待されましたが、それほど大きな変化は起こりませんでした。
全体的な財源不足、縦割り行政の弊害などが指摘され、その結果として医療的ケア児を支援する新たな法整備が必要であることが議論されました。2016年の改正法では上手く進まなかったことが、2021年の新法成立につながったといえます。
行政サービスを加速させるために、もう一つ問題になったのは、医療的ケア児の定義です。
〇新判定基準の導入
その後厚生労働省による医療的ケア児の定義に関する調査研究が進み、2020年に「新判定スコア」が定まり、2021年度の報酬改定における医療的ケア児に係る報酬に適用されています。
この判定基準は14項目の医療的ケア行為の有無と、その行為の「見守りスコア」を組み合わせて、医療的ケア児の重度を定量化して評価するものです。
例えば「人工呼吸器」を使用していると「10点」。その見守りレベルが「直ちに対応」なら「プラス2点」、おおむね15分以内なら「プラス1点」、それ以外なら加点なしとスコア化されます。
大島分類から半世紀以上を経て、福祉行政サービスに医療的ケア児の定義が導入されました。
「医療的ケア児支援法」により、2021年度の下半期以降、新しい医療的ケア児への障がい福祉サービスが総合的に展開され、重度の障がいと共に生きる家族の人生が、良い方向に向かうことが期待されています。
(本稿は2021年6月に執筆しました)