いつも一緒、医療的ケアが必要な障がいのある人と家族の悩み

医療的ケアが必要な障がいのある人と家族の悩み

医療的ケアは、障がいの世界では通称「医ケア」と呼ばれています。

「痰の吸引」や「経管栄養の注入」など、医療行為ではあるのですが、注射を打つ、手術をするなどとはレベルが違う、医療行為を意味します。

日常的に医療的ケアが必要な障がいのある人を「医ケアの人」などと表現することもあります。

近年では文部科学省の文書で「医療的ケア児」という表現が使われるようになりました。

医療的ケアが必要な障がいのある人

医ケアは、医師、看護師、そして家族にしか出来ない行為とされ、特別支援学校の先生や福祉施設の職員は一切やってはいけないことでした。

そのため 医ケアがある障がい者、障がい児は、常に家族が一緒にいて医ケアをしてきました。

例えば、医ケアがある人は、医師や看護師がいない施設でのショートステイは出来ません。

医ケアがある人と家族は、一時も離れることができません。医療的ケアが必要な障がいのある人と家族の大きな悩みです。

特別支援学校に通う医療的ケア児の家族は、生徒児童がスクールバスに乗車させてもらえないので、何らかの手段で家族が学校に連れて行きます。

そして定期的に行う医ケアのために、そのまま下校時間まで学校に残ります。

地域によって状況は異なりますが、一般に18歳以上の「医ケアの人」を受け入れる障害者通所施設は限定的です。

また宿泊や外出など、施設のイベントへの参加は医ケアがあると制限があります。

いつも一緒、医療的ケアが必要な障がいのある人と家族の悩み

医ケアとは何か。

代表的なものが「痰の吸引」です。障がいのために自分で痰の排出が出来ない人は、何もしないと最後には息が出来なくなります。管(カテーテル)を入れて、吸引器を使って痰を吸い上げる医療行為です。

もう一つの代表例が「経管栄養の注入」です。

口や鼻からチューブを使って栄養物を注入する行為です。胃に直接入れるのは「胃ろう」と呼ばれます。こちらも医ケアです。

これ以外に、薬などを注入する「吸入」、尿を出す「導尿」、人工呼吸器や酸素を管理する行為などが医ケアに該当します。

医療的ケアが必要な障がいのある人

医ケアとはどのような行為なのか。代表的な医ケアである「吸引」の実際について、詳しく紹介します。

鼻や口から管(カテーテル)を入れられて、空気圧で痰や鼻水、唾液などを吸い上げるのですから、障がいのある本人にとっては苦しくて辛い医療行為です。

従って必ずしも本人の協力が得られるわけではありません。嫌がるのを無理やり吸引することが実際にはあり、これも吸引の難しさを助長します。

吸引の手順です。

何よりも清潔なことが一番大切です。使用する器具と医ケアをする人は、しっかり清潔にします。

カテーテルをもち本人によく説明して解ってもらい、鼻または口から入れていきます。吸引箇所までカテーテルが届いたら吸引開始。ただし、一回の吸引は10秒以内が原則です。本人の様子を見ながら、手際よく吸引します。

1回吸引しても、まだ痰が絡んでいる場合は2回目に進みます。

少し間をおいて、カテーテルを新しいもの取り替えて、再吸引です。必要であればこれを繰り返します。終わったら吸引器も綺麗にします。吸い取った淡などは、こまめに捨てて清潔を保ちます。

失敗した場合を紹介します。

鼻から吸引する場合、カテーテルを下手に入れると、粘膜を傷つけて出血させてしまいます。ゆっくりと、角度を変えたり、右がだめなら左の鼻から入れたり、注意してカテーテルを入れます。口からの場合は、喉の奥をつつくと吐き気を催します。

吸引している間、本人は呼吸が出来ません。絶対に長時間の連続吸引はいけません。最大でも15秒といわれています。特に体力が弱い人には、短時間(10秒以内)にしないと危険です。

菌に感染させてしまうリスクがあります。医ケアをする人の手洗い、使用する器具の水洗いは完璧にします。下手をすると、感染によって命取りの肺炎に進む可能性があります。

慣れないと、見ているだけでも怖いのが吸引です。

呼吸が詰まるまえにしっかり吸引する必要があるので、障がいのある人の状態によっては、時間を決めてなどと悠長な対応では済まないことが多いのが吸引です。

慣れている人は上手です。毎日何度もやっている家族は、神業を見せてくれます。

医療的ケアが必要な障がいのある人と家族の悩み

文部科学省の通知で、特別支援学校での医ケアのルールが変わってきています。

2012年からは、看護師のいる学校内で、一定の教育研修を受けた人は、医ケアを行えるようになりました。

しかし看護師の有資格者を常駐雇用できることが前提条件です。これが出来ない学校が多数でした。

また自宅から学校に行く際のスクールバス内の医ケアは出来ません。

したがって学校に家族が送り、行ったついでに慣れた家族が医ケアの面倒を見てしまうケースが多いのが現実です。

2019年には、教育委員会などで看護師を雇用し、複数の学校を担当することが認められました。またスクールバスの利用は、個々の医ケアの必要性により医師が判断できるとなりました。

特別支援学校を卒業した18歳以上の医ケアがある重度障がい者の居場所が無い、という状況を踏まえて、障がい者通所施設でも、医ケアに関するルールは緩和する傾向にあります。ただし万が一のミスが起こってはならない医ケア。自治体や施設により、その対応状況は異なります。

変わりつつありますが、医ケアが必要な人への日常的な医療行為は、家族だけで行われているケースが多いのが実情です。離れて過ごせない、いつも一緒にいるしかない障がいのある人と家族は大勢います。

(本稿は2019年12月に執筆しました)

別稿で「医療的ケア児がスクールバス通学 都立特別支援学校のガイドライン」を掲載しています。ご参照ください。