福祉と雇用の連携施策「重度障害者等就労支援特別事業」をやさしく解説

福祉と雇用の連携施策「重度障害者等就労支援特別事業」

2020年10月より、各市町村がそれぞれの任意判断で「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」が出来るようになり、その特別事業を実施した市町村に住む働く障がい者は「重度訪問介護サービス利用者等職場介助助成金」や「重度訪問介護サービス利用者等通勤援助助成金」を利用することが出来るようになりました。

その内容と申請方法を紹介します。解りやすさを優先して、制度の詳細説明は省略させていただきます。ご承知おきください。

○行政側からみた事業の新規性

厚生労働大臣が本部長である「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」の「横断的課題に関するプロジェクトチーム」で検討された事業です。

内容は、自営や企業で働く重度障がい者に対する通勤時や職場での公的支援。従来は認めなかった、福祉施策の予算を経済活動への支援に使う、福祉施策と雇用施策が明確に連携する事業です。旧厚生省と旧労働省の縦割りを超えた「横断的」な取り組みです。

○働く重度障がい者への支援内容

民間の中小企業で、通勤して働く、サラリーマン重度障がい者への支援内容のイメージです。もちろん助成を受けるには、行政に申請して認可される必要があります。

公共の交通機関を利用する通勤に限りますが、ヘルパーをお願いした場合、月額84,000円まで助成されます。

出社後に職場で、文書の作成・朗読、機器の操作・入力等の職場介助をお願いした場合、月額150,000円まで助成されます。

これに加えて、喀痰吸引や姿勢の調整等の職場等における支援費用が上乗せして助成されます。

そして重度障がいがある自営業者も、同様の助成を受けることができます。

○お金の出どころ

雇用の予算と福祉の予算が組み合わされた事業です。支援内容の予算の出どころを紹介します。

サラリーマンの通勤支援にかかる助成は、当初3か月間は「雇用側」の「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」です。4か月目以後は「福祉側」の予算と両方面から拠出されます。

サラリーマンの出社後の職場支援にかかる助成は、文書の作成などは「雇用側」の「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」です。喀痰吸引などは「福祉側」の予算から拠出されます。

そして自営業者への助成は、すべて「福祉側」の予算から拠出されます。

○予算の出どころ別の申請者と申請先

サラリーマン重度障がい者への支援の場合、「雇用側」の予算から拠出される「通勤支援にかかる助成」と「職場支援にかかる助成」は、重度障がい者を雇用する「企業」が、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」へ申請します。

サラリーマン重度障がい者への支援の内、喀痰吸引などは「福祉側」の予算分は、障がい者が居住する市町村へ申請します。

そして自営業者の助成は、すべて障がい者が居住する市町村へ申請します。

○市町村が任意で実施していることが助成の前提

「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」の同制度「ごあんない」には、表紙に「この助成金は、雇用する障害者の方が居住する市町村等が、雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業を実施している場合に利用できます。まずは、当該居住する市町村等に、当該特別事業の実施の有無についてお問い合わせください。」と記載されています。

「特別事業」を実施している市町村に居住する「サラリーマン重度障がい者」と、その人を雇用する企業、および重度障がいがある自営業者が、利用できる助成です。

厚生労働省が2020年8月に公表した資料では「10月からの開始に向けて準備中」の市町村が「13市町村」と記載されています。具体的には「千歳市、さいたま市、我孫子市、長野市、南箕輪村、豊橋市、豊川市、 四日市市、松江市、備前市、宇部市、三木町、外1市」で、「8月14日時点における事業実施予定であり、事業実施が確定しているものではない」と注釈されています。

したがって事業が始まった2020年10月現在では、この助成を利用できる働く重度障がい者は、限られます。厚労省では「実施を検討中の市町村に対して、雇用部局とともに説明会に出向くなど、事業実施に向けた個別対応を実施」するとしています。

○利用できる重度障がい者の定義

以下の3点が基本的な利用者の定義です。

・重度訪問介護サービス(重度訪問介護、同行援護、行動援護)の支給決定を受けている

・身体障害者、知的障害者、精神障害者

・サラリーマンの場合、週所定労働時間10時間以上、ただし就労継続支援A型事業の利用者は対象外

○助成される金額の考え方

サラリーマン重度障がい者の場合は、2020年10月より拡充される「障害者雇用納付金制度に基づく助成金を活用した支援内容ではまかないきれない」と認められた部分について支援が受けられます。

重度障がいのある自営業者の場合は、「職場や通勤の場面で就労に必要と認められる支援が対象」となります。

そしてこの制度は「サービスを利用した場合の本人負担の在り方」は、「市町村ごとの判断」となるように設計されています。まだ事例がないこともありますが、どのような状況であれば、いくらの助成とは、明確に解説できない制度です。

○支援計画書の内容

助成をうけるためには「関係者間で支援計画書を作成」する必要があります。関係者とは、本人、サービス事業者、雇用企業、そして市町村の窓口です。

支援計画書の内容は、本人の状況、仕事の内容、勤務の状況などを記入し、一日のスケジュールの中で、何時に、どれくらいの時間、どのような支援が必要かを計画します。

例えば、「9時にメールチェック」をするための「PC立ち上げ支援」に「10分」、というイメージです。「12時から13時が休憩時間」で、「食事とトイレの介助」に「60分」など、助成金の対象となる支援時間の目安を計画します。

この計画書を市町村と「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」が確認します。もちろん助成を受けるには、支援計画書とは別に「申請書」の提出が必要です。

重度障がいのある国会議員が誕生して問題になった、仕事と福祉助成の在り方に対する一つの取り組みです。「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」は、以上のような助成をうけることができる可能性がある事業です。

(本稿は2020年10月に執筆しました)

別稿で「障がい者雇用問題 働く障がい者の仕事と収入をやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。