障がいのある子の保護者からみた 特別支援学校スクールバスの実際

特別支援学校、特に肢体不自由児が通う学校は、スクールバスの運行があるのが一般的です。東京都のある区は、スクールバスを運行するより安くつくという理由で、タクシー通学を認めて費用を負担しています。そういう例外的な行政エリアもありますが、一般的にはバスで通学します。

○バススタッフの苦労

近年ではほとんどの場合、バスは民営委託されます。入札が行われ、原則安いところが採用されます。バス運営会社は価格競争させられるので、コスト管理には厳しくなり、勤務しているスタッフの皆さんも苦労が多いようです。

運転手さんは多くは現役世代の方です。運転とともに、車椅子乗降の世話も運転手さんの仕事です。バスの昇降機を降ろして、車椅子をセットして、車内で車椅子を固定させるところまでが責任業務です。

もう一名、乗車中の児童生徒の世話をする、乗車スタッフがいます。乗車スタッフは定年後の世代の方、パート的な勤務契約の方が多いようです。乗車中に何か起こらないかを見守るのが仕事で、医療的ケアは行いません。

勤務の拘束時間は長い仕事です。東京都区部にある特別支援学校の、あるバスコースの場合の例ですが、バスの基地は八王子のはずれで、毎朝5時台に出発し、中央高速経由で都内のコースに入り、9時前に学校に到着します。

昼過ぎまでは休憩タイム、午後になると1便2便の2回帰宅のコースを廻り、最終の生徒を降ろすのが都内で17時過ぎ、そこから八王子に戻ります。乗車スタッフの方は、自宅に都合の良い途中で乗降します。

障がいのある児童生徒を乗せているので、いろいろな事件が起こります。よくあるのは、おう吐や排泄のトラブル。深刻な状況でなければ、学校や自宅まで送り届けます。

深刻なのは、大きな発作などです。状況によっては、バスから救急車の出動を要請することがあります。

コミュニケーションが容易に成立する児童生徒だけではありません。バスのスタッフから見れば全く解らない表現しかできない児童生徒が利用します。

学校の先生や保護者との関係も、ストレスになることが多いそうです。時間が遅れたり早かったり、児童生徒への対応が気に入らないなど、保護者から苦情を言われることもあります。特にセクハラ疑惑をかけられると、とても辛いそうです。

バス車両は、学校がお休みの日は別の仕事に使用されます。そのために学校名などのシールは、簡単に外せるようになっています。夏休みなどは運転手さんは別の仕事をするそうです。

スタッフさんは、基本的に子ども好きで障がい福祉に関心のある人が多いようですが、長続きせずに、すぐにスタッフが変わるバスもよくあります。

○保護者の悩み

児童生徒をスクールバスで通学させる保護者にとって、最初の問題は乗降する場所、通称「バス停」がどこになるかです。

自宅の目の前であれば最もよいのですが、道が狭くてバスが入れない、乗降の為の停車が人迷惑、そこまで行っていると時間がかかり過ぎる、などの理由で、自宅から離れたバス停を学校から設定されることがあります。雨の日、風の日は、バス停まではマイカーで行く人もいます。車椅子の児童生徒の場合、バス停までが坂道かどうかも深刻な問題です。

バス停を決定するのは、学校のバス担当の先生です。毎日のことなので、かなり激しく、バス担当の先生に交渉する保護者がいます。他にも保護者から見ると、不満な決定がいろいろとあり得ます。実際に起こったトラブルの事例です。

行き帰りとも、バスの時刻表は決まっていますが、自分よりも学校により近い利用者の生徒が、ほとんど休みでバスを利用しないことが多い場合、利用しない生徒のバス停に寄らない分、いつもバスの時間が余ることになります。臨機応変に時刻表を変えてくれ、という要望が出ましたが、学校は対処できませんでした。

大型の車椅子を使用する生徒の利用するバスが小型で、乗降時に頭がぶつかることがありました。保護者は即刻学校に大きなバスへの変更を要望しますが、いったん決めたバス会社とそこのバスなので、来年の4月までは今のままで、という学校バス担当の先生からの回答です。

東京都の場合、医療的ケアが必要な児童生徒のバス通学に、保護者の同乗を認めません。保護者がマイカー等で通学させるか、訪問学級にするかの選択が求められます。

※近年は医療的ケアができる有資格者がバスに同乗するケースもあります。別稿「医療的ケア児がスクールバス通学 都立特別支援学校のガイドライン」をご参照ください。

そして、通学級を選んだ場合、医療的ケアのために、登校中保護者は学校に待機することが求められます。そのため重度障がいのある子が通う特別支援学校には「保護者控室」があります。

重度障がいのある子の保護者が、子どもと一緒に学校に行くためにバスに同乗させてくれ、と交渉していますが、空席があっても原則認められません。

日常的な運用面でのよくある不満です。バスを実際に運行しているスタッフは、学校から委託を受けている業者なので、何かを自分の判断でしてはいけないルールになっています。

もちろん気の利いたスタッフの方もいますが、「こういう場合はうちの子に毛布を掛けてあげてください」と言っても、「学校の先生に言ってもらえますか」という返答になることがあります。これは極端な例ですが、バスの話なのにバスの人に話せない、ということがあります。

多くの障がいのある子の保護者は、安全に対して固いルールのスクールバスに、安心と不満を持ちながら利用しています。

(本稿は2019年11月に執筆しました)

障害のある児が特別支援学校に通学できる社会になったのは、戦後からです。別稿で「日本の障がい者福祉 戦後から2020年まで75年の歴史をやさしく解説」を掲載しています。ご参照ください。

障がいのある子が通う特別支援学校のインフルエンザ発生を連絡する公式文書

インフルエンザが疑われる症状が出ると、医療機関で検査を受け、陽性であれば効く薬を服用してしっかり治す。それが当たり前になりました。多くの医療機関では、感染防止のためにインフルエンザ疑い患者用の待合室があります。

会社でも、インフルエンザの場合は勤務を休むようにルールが徹底されてきています。ただの風邪とインフルエンザでは、扱いが全く変わる会社が多いようです。

学校の場合はもっと徹底されています。ほとんどの小中高等学校では、インフルエンザの場合は欠席扱いにはなりません。また、登校再開には医療機関の治癒証明が必要です。

さて身体障がいのある児童生徒が通う特別支援学校の場合です。体力的に弱い児童生徒が多いので、風邪は大敵です。ましてやインフルエンザは別格扱いです。インフルエンザの発症者がでると、学校長名の公式文書が全校に発信されます。

インフルエンザの発生を連絡する公式文書は「インフルエンザを発症者が出たのでお知らせします。・・・・」という文書です。内容としては、発生日、発生者の属性、スクールバスを使用している生徒の場合はその利用しているバスのコース名などが書かれます。氏名など発生者の属性は、個人情報への配慮のため「高等部の教員」とか「中等部の生徒」などの表現になります。学年や性別の表記もないのが一般的です。

学校でのインフルエンザ発生を知らされた場合、家庭ではどのような対応をするのか。ほとんどの家族は、特別な対応は何もしません。発症者が出た、と知らされても、特別にすることがありません。

自分の子どもが発症者に近い環境にいた場合、ひょっとすると感染していて明日にでも発症するかもしれないと考えて、様子を見るために学校を休ませる家族もいます。でも、そこまで心配する家族は稀です。

出来ることは、発症者がでたことでインフルエンザの流行が迫ってきていることを改めて強く認識して、よく手を洗わせる、早寝早起きしっかりした食事など、健康的な生活に気を配るなど、一般的な予防方法を頑張ることです。

発症を伝える公式文書は、日常の感染予防をより徹底する動機づけにはなります。障がいのある子どもと生きる家族は、感染リスクには日常的に神経質ですが、よりいっそう神経をいきわたらせます。

体力的に弱い、重度の身体障がいがある人にとって、インフルエンザをはじめ各種の感染症はとても怖い病気です。抵抗力が無いため、肺炎まですすむ可能性が高い人たちです。流行期には人ごみには絶対連れて行かないなど、家族は日常的に神経を使っています。

学校も公式文書を出します。インフルエンザの流行期は、重度の身体障がいの人と家族にとって、大変な季節です。

(本稿は2019年11月に執筆しました)

別稿で「重度の知的障がいがある子の入院に付き添う親の苦労」を掲載しています。ご参照ください。