特別支援学校 重度の障がいがある高校生の水族館での校外学習

高校の重度障がいのある生徒で編成された学年クラスの活動で、水族館に校外学習に行った事例をご紹介します。

重度の障がいがある高校生の校外学習

事前の準備です。水族館の様子を、パンフレットやホームページなどで予習します。

そして水族館にいる生き物の学習です。知的な障がいが強い生徒の場合は、特徴が解り易い動物について学びます。例えば高足蟹。長い足の巨大な蟹の名前、生態などを図鑑などで学習します。例えばペンギン。生息地の南極を地球儀で調べ、ネットの動画で歩くところや泳ぐところを見て、生態を勉強します。

校外学習の目標の設定です。「ペンギンを観察して写真を撮る」、こんな感じの目標を生徒一人一人が決めます。目標を校外学習のシオリに書きます。このシオリは家庭に持ち帰って当日持っていくので、家族も生徒の目標が何か解ります。

お土産の候補と予算も決めます。「水族館オリジナルクッキーを1500円で」、こんな感じです。もちろん家族の了解も事前に得て、当日はお財布にお金を入れて持っていきます。

出発です。スクールバスに生徒と先生、全員が乗り込みます。校外学習はマンツーマン対応が基本です。学校全体で先生のやり繰りをして、生徒一人に先生一人がつきます。

重度の障がいがある高校生の校外学習

今回の昼食はレストラン、初期食の対応をしていただけるレストランです。そういうレストランは結構あります。特にホテル系のレストランは、ほとんどのところが対応していただけます。

水族館に到着。車椅子の生徒も安心のバリアフリー水族館です。生徒と先生がペアになり、設定した目標を中心に勉強しますが、もちろん緩い勉強です。実際には遊びなので、楽しく水族館を廻ります。お土産コーナーにも寄り、予算内でお土産を選びます。

昼食の時間です。今回は水族館の中にあるレストランで昼食です。食べられる生徒はカレーライス、初期食の生徒は特別メニューをいただきます。昼食代は通常の給食費から払われるので、特別な実費負担はありません。めったに外食をする機会がない生徒も大勢います。

目標にした課題を終え、食事をして、お土産を買って、帰校します。

重度の障がいがある高校生の校外学習

水族館での生徒たちの様子は、先生が写真やビデオで撮っています。後日、振り返りの授業があり、当日の写真やビデオを見て、そして各人の目標達成状況を発表します。重度の障がいがある高校生は、このような校外学習を体験しています。

知的に問題がない生徒のクラスなら、校外学習は工場見学が多いそうです。最近は、車椅子でも見学できる、バリアフリーな工場が数多くあります。東京の特別支援学校の校外学習先の人気ナンバー1は、羽田の飛行機整備場の見学ということです。

(本稿は2019年11月に執筆しました)

別稿で「特別支援学校の夏休み帳・冬休み帳は家族の思い出の記録」を掲載しています。ご参照ください。

特別支援学校の夏休み帳・冬休み帳は家族の思い出の記録

特別支援学校では、児童生徒の様子を家庭と学校で毎日やりとりをする「連絡帳」があります。

そして「連絡帳」とは別に、夏休み、冬休み、春休みの期間は、その期間専用の記録をする冊子が配られます。起床時刻、睡眠時間や平熱などの生活健康面の記録、お出かけや旅行などの遊びの記録などが主な記載内容です。

重度の障がいのある児童生徒の場合、自分では書けませんので、保護者が記入していきます。それほどボリュームがある冊子ではありません。サッと書けるくらいのものをご想像ください。

この記録の目的は、お休み期間中の児童生徒の健康状態を、簡易的ではありますが家庭と学校の双方で把握することと、始業式のあと、どんなお休みを過ごしたのか、クラスやグループで校内発表をするネタにすることです。したがって、お休み期間のお出かけや旅行などの遊びの記録は、ネタとして重要です。

重度の障がいがある児童生徒のご家庭も、長いお休みの期間、ずっと家にいるだけではありません。家族で障がいの状況に応じた企画を考えてお出かけをします。そして写真や動画を撮る。普通の家庭と同じです。むしろ、自分一人ではどこにも行けない児童生徒なので、普通の家庭よりも、遊びの企画に熱心な家庭が多いのかもしれません。

楽しい思い出が出来たら、始業式の前に家庭でネタの編集をします。発語やコミュニケーションに課題のある児童生徒の場合、発表者本人からの説明は期待できません。記録帳のネタを先生がみて、本人に代わって発表します。

したがって、先生に良くわかるように編集します。どこに行って、何をして、どんなことが楽しかったのか、写真やパンフレットなどがあると、より伝わりやすくなります。凝りだすと結構手間のかかる編集作業になりますが、熱心にネタの編集に取り組むご家庭が多いようです。始業式の日に、このお休み期間中の記録帳を持たせます。

こんな発表をして、どうだった、という学校での様子は、毎日の連絡帳に先生が記載して、家庭に様子がフィードバックされます。

そして後日、記録帳は家庭に返却されます。毎日の連絡帳をずっと保管してあるご家庭が多いようですが、お休み期間中の記録帳も、一般に各家庭で、その後長期保管されます。あの年はここに行った、この年はこんなことをした。記録帳は家族の思い出の記録になっていきます。

デジタル時代になって、写真をプリントアウトすることが減っていますが、この記録帳はすべてペーパーなので、昔ながらの楽しみ方が出来ます。

単に「ここに行った」だけではなく、こんなことをして、どうだった、とまで書いてあるので、あの頃はそういうことを家族で考えていたのか、と思い出に残ります。

ただ重度の身体障がいのある人の場合、残酷なことですが、成長とともに、出来たことが出来なくなることがあります。昔の記録帳をみると、あの頃はこんなことも出来ていた、という寂しい思いをすることもあります。

一生懸命に生活をした記録です。仮に学校から冊子を渡されて提出を求められないとしたら、おそらくこういう記録を家族も残さないでしょう。重度の障がいのある家族がいる家庭には、このような記録の財産が眠っています。

(本稿は2019年11月に執筆しました)

別稿で「大人になった重度重複障がい者と共に生きる親の想い・悩み・希望」を掲載しています。ご参照ください。

特別支援学校 重度の障がいがある小学生の全校遠足

重度重複障がいのある小学生が通う特別支援学校でも、遠足があります。学校の先生方が、周到な準備を重ねて企画します。本稿では、毎年5月に、全校生徒で大きな公園に遠足に出掛ける小学校の例をご紹介します。

体調の管理は慎重に行います。遠足の3日前くらいから、朝晩の熱を記録するシートが家庭に配布されます。家庭で熱を測って記入します。当日の荷物の準備も大変です。5月の公園の気候は、当日その場でどうなるのか分かりませんので、暑さ対策、寒さ対策の両面で備えます。急な雨への対策も準備しておきます。

当日はお弁当です。普通食を食べることが出来る子のご家庭は、普通の遠足のお弁当の準備と同じです。たいへんなのは、中期食や初期食の子どもの家庭です。作り慣れているとはいえ、せっかくの遠足お弁当ですから、美味しくて、見た目にもこだわったお弁当を作ります。ミキサーやトロミ材を巧みに使って、驚くほどの仕上がりのお弁当をつくるご家庭もあります。そういう子どもは、お出かけの支度、朝の食事も一人ではできないので、家庭の朝は大忙しです。

通常通りのスクールバスで登校します。9時前には全員が学校に到着。9:30には学校から公園に出発です。全校遠足なので、スクールバス全便がフル動員され、先生と児童が乗りこみます。

先生の荷物も半端ではありません。着替えやオムツ替えが必要な児童のために、大型のテントまで持参します。万が一に備えた救急道具も、酸素ボンベまであるフルパックです。レクリエーション生演奏用のギター、太鼓など楽器類も持っていきます。

重度重複障がいの児童の遠足は、マンツーマン対応が基本です。保健室の先生も含めて、学校側も総員で対応します。児童と先生がペアで、お散歩をしたり、ゲームで遊んだり、先生のギター演奏で歌ったりします。

そして昼食タイム。初期食の児童の場合、お食事だけでつきっきり1時間かかる子もいます。先生は自分の食事は片手でパクパクでおしまいです。日頃から慣れているとはいえ、公園でのお弁当は、いつもとは違う大変さがあります。

15時過ぎには下校のスクールバスの時間になるので、昼食後は学校に戻る準備が始まります。大荷物の片づけです。実質10時過ぎに到着し、13時過ぎには出発になります。それでも公園で1回か2回は、児童のトイレが入ります。大忙しの遠足がこれで終わります。

学校に到着すると、ひと休憩。体力的に弱い子が多いので、無理は出来ません。ゆっくりと水分補給をして、軽いストレッチなどで体調を整えます。隙間をみて先生たちは、今日の様子を連絡帳に書きます。そして下校になります。

ある特別支援学校の遠足の実際です。この学校の場合、遠足の写真は後日教室や廊下に掲示され、保護者が見ることが出来ます。

(本稿は2019年11月に執筆しました)

別稿で「特別支援学校の修学旅行でディズニーランドへ行く」を掲載しています。ご参照ください。