障害者政策委員会における第5次障害者基本計画の検討状況

令和5年度からの第5次障害者基本計画について、障害者政策委員会で審議が行われています。厚労省から公開されている、令和4年1月末開催第61回障害者政策委員会の資料から、審議の状況を紹介します。なお本稿では、原文に従い「障害」は漢字表記とします。

〇今後のスケジュール概要

令和4年3月以後   基本方針改定案全体の審議

令和4年秋頃    障害者政策委員会の意見として基本方針改定案を取りまとめ

令和4年度中    障害者政策委員会の意見を踏まえ、基本方針の政府案を作成

          パブリックコメント等の手続を経て閣議決定

〇主な意見(一部を抜粋)

・障害のある構成員の選任においては、 性別に大きな偏りが出ないよう取り組む必要がある。

・特に知的障害者の参画が進んでいない。知的障害のある人が実質的に参画できる体制の確立について方策を検討すべき。

・テレビ放送等について、知的障害者に理解しやすい情報提供手法を記述すべき。

・避難所や防災計画に障害のある女性の視点も必要。

・障害のある女子の様々な場面での性犯罪・性暴力被害に対する対応について明記し、早期の対応を進める必要がある。

・障害者権利条約の国内実施のために、リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康)に関わる内容を追記すべき。

・病院と一体となっている重症児者施設は、地域移行の対象ではないことを確認し、重症児者施設不足の解消を進めるべき。

・ヤングケアラーや介護者支援対策を強化するものを盛り込んでほしい。

・視覚障害に関して乳幼児期の早期支援が必要不可欠。視覚支援学校への幼稚部の設置や、早期教育相談担当者の常勤化が必要。

・現状の障害基礎年金は生活保護水準以下であり、年金のみで生活を維持することはできない。経済的自立の支援を年金を含めてどのような組合せで実現するのか明示すべき。

・インクルーシブ教育システムを推進していくために、我が国が目指すべき到達点を明確にすべき。

・特別支援学校のセンター的機能を実施する上での教員の人員配置が不足しているので、加配を増やすべき。そのためには、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の更なる改正が必要。

・障害者の文化芸術活動を観光化するなど地域振興に結び付ける視点を盛り込むべき。

障害者基本計画は令和5年度から第5次計画が始まります。

《生きるちから舎ニュース 2022年2月9日付》

厚生労働省の予算案からみる令和4年度の障がい者福祉政策

厚労省の令和4年度予算案が公開されています。

前年比が大きく伸びているのは、「医療的ケア児への支援の充実」4.0 億円(前年2.2 億円)。

医療的ケア児等への支援の充実を図るため、令和3年9月18 日に施行した「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」に基づく「医療的ケア児支援センター」の設置を推進するとともに、医療的ケア児等への支援者の養成、地域で関係者が協議を行う場の設置、医療的ケア児等に対応する看護職員確保のための体制構築、医療的ケア児等の家族への支援等を総合的に実施する、としています。

予算増額が大きいのは、「重度訪問介護等の利用促進に係る市町村支援」12億円(前年8.9億円)。

重度障害者の地域生活を支援するため、重度障害者の割合が著しく高いこと等により訪問系サービスの給付額が国庫負担基準を超えている市町村に対する補助事業について、小規模な市町村に重点を置いた財政支援を行う、としています。

他には「発達障害児・発達障害者に対する地域支援機能の強化」3.9億円(前年2.7億円)。

発達障害児者の各ライフステージに対応する一貫した支援を行うため、地域の中核で ある発達障害者支援センター等に配置する発達障害者地域支援マネジャーの体制を強化することで、市町村や事業所等が抱える困難事例への対応促進等を図り、発達障害児者に対する地域支援機能を強化する、としています。

新規に予算計上されたのは「障害者ピアサポート研修事業に係る指導者養成研修」10百万円。

都道府県・指定都市における障害者ピアサポート研修事業の実施を推進するため、当該研修事業を担う指導者の養成が必要であることから、国において指導者養成研修を実施する、としています。

前年と同じ予算額の主な政策は以下です。

「障害福祉サービス等提供体制の基盤整備(施設整備費)」 48 億円(前年48 億円)

「雇用施策と福祉施策の連携による重度障害者等の就労支援」7.7 億円(前年7.7 億円)

「障害者虐待防止の推進」6.2億円(前年6.2億円)

「聴覚障害児支援の推進」1.7 億円(前年1.7 億円)

減額予算となったのは「芸術文化活動の支援の推進」3.7億円(前年4.6億円)

障害者文化芸術活動推進法を踏まえ、芸術文化活動(美術、演劇、音楽等)を通した障害者の社会参加を一層推進するため、地域における障害者の芸術文化活動への支援のための都道府県センターの設置促進や全国障害者芸術・文化祭を開催する予算です。

「障害福祉の現場で働く人々の収入の引き上げの実施」については「補助率10/10の交付金」により「障害福祉職員を対象に収入を3%程度(月額9千円)引き上げるための措置を実施する。」と記されています。

《生きるちから舎ニュース 2022年1月20日付》

障がい者側から合理的配慮の不提供と指摘された事業者の対応事例

2021年11月と12月、障害者政策員会に「障害者差別解消法に基づく基本方針の改定に係る団体へのヒアリング」結果が報告されています。その中から、合理的配慮の不提供に当たるのか、事業者側からみれば判断に苦慮する事例を抜粋して紹介します。

なお内容を分かりやすくするために、報告の原文を一部修正しています。ご承知おきください。

・スポーツクラブへの入会に関して、障がいの程度、障がいに付随する症状や服用薬の副作用等を考慮し、事業者側としては安全確保の観点から、利用する際には介助者が同行する条件を提示したところ、差別と言われた。

・新型コロナウイルス非常事態宣言下、マスクを着用できない障がい者が同行者と施設の利用を希望した。同行者から事情の説明を受けたが、ルールに従い利用を断わった。

・新型コロナウイルス感染症が急拡大していた状況下、車椅子を使用している女性の産婦人科の受診に関して、病院スタッフによる介助が必要なこと、車椅子の消毒など衛生面における懸念があり、小規模な産院では対応が困難なため受診を断った。

・車内で固定困難な車いすでバス乗車を希望されても、運行の安全が確認できないためご利用をお断りしている。

・大型の電動車椅子は物理的に航空機の搭載スペースを超える場合があり、当該航空機に 搭載できないため、搭乗をお断りしている(または便を変更していただく)。

・朝のラッシュ時間帯、白杖をお持ちのお客様に、車いすでタクシー乗り場まで送るよう依頼されたが、駅事務室の係員が1名だったため、お断りした。

・車椅子をご利用のお客様から、列車の発車直前にご乗車のお申し出を受けたが、案内準備に時間をいただくため、ご希望の列車ではなく次の列車(15分後)にご乗車いただいた。

・障がいをお持ちのお客さまをご案内する際、改札までのご案内を行っている。お客さまの中には、他会社への改札までご案内を求められる方もいるが、駅構外で事故が起きた場合に責任が持てないことから断っている。

・教習所に備え付けられている車両による教習を希望する身体障がい者の方について、身体障がい者用教習車両を備えていない教習所が入所を断った。

・ある教員が合理的配慮のつもりで聴覚に障がいのある学生を授業中にあてなかったが、実はその障がい学生は授業中にあててほしかったため、不当な差別的取扱いとして問題になった。

・日本障害者歯科学会の専門指導医は 33 名、専門医は 149 名、専門医研修施設は 40 施設しかない。そのため地域の歯科診療所で全ての患者を受け入れるのは難しく、地域の病院歯科や都道府県の障害者歯科センター等での受け入れをお願いしている。

・短時間就労している精神障がいのある方から、8時間働きたいと相談された。他の職員に意見を聞いたところ「しっかりしている反面、作業の態度と作業内容の完成度に難がある」、「他のパート職員と同じ仕事は任せるのは難がある」「誰かが指導と管理をする継続的必要性は負担になる」など否定的な意見が出された。それをもとに本人と話し合いをした結果、退職された。

・大人用のおむつ交換ベッドが館内に設置が無く、代替案として救護室のベッドをご利用いただくようご案内しましたが、 館内に設置が無いのは差別であると強く非難された。

・店舗内で視覚障がいを持つ女性をご案内する際、買い物したい商品の特性のため、同性による案内を希望されたが、女性スタッフが不在で対応できなかった。

・車いすを利用する従業員から、既存のバリアフリートイレが席から遠いため、執務エリアに近い箇所へバリアフリートイレを新設することを要望されたが、コスト面から断った。

・知的障がいのあるお客様が靴を購入した。きちんと接客をして納得いただきご購入されたものと捉えていましたが、後日、返品の申し出がありました。しかし既にその靴は数日屋外で履かれたのがあきらかで返品を受けても再販は不可能。よって使用後であったため一度は返品をお断りした。しかしながらご家族から激しいクレームを受け、お買い物の段階で十分な商品説明や試着を行っていたことを、販売者側が証明する術がないため、その時に限り返品を受けることにした。

・宿泊を伴う長距離航路で、車椅子利用者から部屋までの介助要請があり、部屋までご案内した。その後、ベッドへの移動やトイレの介助を依頼されたが、同伴者もおられたのでお断りした。

・バリアフリー設備が整備されている地下自由通路がある駅において、車いすご利用のお客様から、駅の改札内を通り反対側出口に行きたいとのご要望があった。改札内の施設を利用する場合には、入場券の購入をお願いしているが、無料で通行したいという希望である。地下自由通路があることを丁寧に説明したが、合理的配慮に欠けると主張された。

・車いすをご利用のお客様より「無人駅を毎日、平日に通勤で使いたいが介助は可能か」とのご相談をいただいた。無人駅での毎日の対応は困難であると回答した。

・電動車いすは重量があり、住戸内の床の補強をしないと入居することができない。多額の費用がかかるために入居を断ると、補強を強く主張された。

・車椅子使用の障がい者が物件を確認して入居。入居後にスロープの改修等を強く要求されたが断った。

障害者政策員会では、障害者基本計画(第5次)の検討がすすめられています。

(本稿は2021年12月に執筆しました)

別稿で「障害者政策員会で検討されている不当な障害者差別と合理的配慮の事例」を掲載しています。ご参照ください。