障がい者側から合理的配慮の不提供と指摘された事業者の対応事例

合理的配慮の不提供

2021年11月と12月、障害者政策員会に「障害者差別解消法に基づく基本方針の改定に係る団体へのヒアリング」結果が報告されています。その中から、合理的配慮の不提供に当たるのか、事業者側からみれば判断に苦慮する事例を抜粋して紹介します。

なお内容を分かりやすくするために、報告の原文を一部修正しています。ご承知おきください。

・スポーツクラブへの入会に関して、障がいの程度、障がいに付随する症状や服用薬の副作用等を考慮し、事業者側としては安全確保の観点から、利用する際には介助者が同行する条件を提示したところ、差別と言われた。

・新型コロナウイルス非常事態宣言下、マスクを着用できない障がい者が同行者と施設の利用を希望した。同行者から事情の説明を受けたが、ルールに従い利用を断わった。

・新型コロナウイルス感染症が急拡大していた状況下、車椅子を使用している女性の産婦人科の受診に関して、病院スタッフによる介助が必要なこと、車椅子の消毒など衛生面における懸念があり、小規模な産院では対応が困難なため受診を断った。

・車内で固定困難な車いすでバス乗車を希望されても、運行の安全が確認できないためご利用をお断りしている。

・大型の電動車椅子は物理的に航空機の搭載スペースを超える場合があり、当該航空機に 搭載できないため、搭乗をお断りしている(または便を変更していただく)。

・朝のラッシュ時間帯、白杖をお持ちのお客様に、車いすでタクシー乗り場まで送るよう依頼されたが、駅事務室の係員が1名だったため、お断りした。

・車椅子をご利用のお客様から、列車の発車直前にご乗車のお申し出を受けたが、案内準備に時間をいただくため、ご希望の列車ではなく次の列車(15分後)にご乗車いただいた。

・障がいをお持ちのお客さまをご案内する際、改札までのご案内を行っている。お客さまの中には、他会社への改札までご案内を求められる方もいるが、駅構外で事故が起きた場合に責任が持てないことから断っている。

・教習所に備え付けられている車両による教習を希望する身体障がい者の方について、身体障がい者用教習車両を備えていない教習所が入所を断った。

・ある教員が合理的配慮のつもりで聴覚に障がいのある学生を授業中にあてなかったが、実はその障がい学生は授業中にあててほしかったため、不当な差別的取扱いとして問題になった。

・日本障害者歯科学会の専門指導医は 33 名、専門医は 149 名、専門医研修施設は 40 施設しかない。そのため地域の歯科診療所で全ての患者を受け入れるのは難しく、地域の病院歯科や都道府県の障害者歯科センター等での受け入れをお願いしている。

・短時間就労している精神障がいのある方から、8時間働きたいと相談された。他の職員に意見を聞いたところ「しっかりしている反面、作業の態度と作業内容の完成度に難がある」、「他のパート職員と同じ仕事は任せるのは難がある」「誰かが指導と管理をする継続的必要性は負担になる」など否定的な意見が出された。それをもとに本人と話し合いをした結果、退職された。

・大人用のおむつ交換ベッドが館内に設置が無く、代替案として救護室のベッドをご利用いただくようご案内しましたが、 館内に設置が無いのは差別であると強く非難された。

・店舗内で視覚障がいを持つ女性をご案内する際、買い物したい商品の特性のため、同性による案内を希望されたが、女性スタッフが不在で対応できなかった。

・車いすを利用する従業員から、既存のバリアフリートイレが席から遠いため、執務エリアに近い箇所へバリアフリートイレを新設することを要望されたが、コスト面から断った。

・知的障がいのあるお客様が靴を購入した。きちんと接客をして納得いただきご購入されたものと捉えていましたが、後日、返品の申し出がありました。しかし既にその靴は数日屋外で履かれたのがあきらかで返品を受けても再販は不可能。よって使用後であったため一度は返品をお断りした。しかしながらご家族から激しいクレームを受け、お買い物の段階で十分な商品説明や試着を行っていたことを、販売者側が証明する術がないため、その時に限り返品を受けることにした。

・宿泊を伴う長距離航路で、車椅子利用者から部屋までの介助要請があり、部屋までご案内した。その後、ベッドへの移動やトイレの介助を依頼されたが、同伴者もおられたのでお断りした。

・バリアフリー設備が整備されている地下自由通路がある駅において、車いすご利用のお客様から、駅の改札内を通り反対側出口に行きたいとのご要望があった。改札内の施設を利用する場合には、入場券の購入をお願いしているが、無料で通行したいという希望である。地下自由通路があることを丁寧に説明したが、合理的配慮に欠けると主張された。

・車いすをご利用のお客様より「無人駅を毎日、平日に通勤で使いたいが介助は可能か」とのご相談をいただいた。無人駅での毎日の対応は困難であると回答した。

・電動車いすは重量があり、住戸内の床の補強をしないと入居することができない。多額の費用がかかるために入居を断ると、補強を強く主張された。

・車椅子使用の障がい者が物件を確認して入居。入居後にスロープの改修等を強く要求されたが断った。

障害者政策員会では、障害者基本計画(第5次)の検討がすすめられています。

(本稿は2021年12月に執筆しました)

別稿で「障害者政策員会で検討されている不当な障害者差別と合理的配慮の事例」を掲載しています。ご参照ください。