現状調査からみる 放課後等デイサービス 今後の課題

現状調査からみる 放課後等デイサービス 今後の課題

2012年度に約3,100ヵ所の事業所から始まった放課後等デイサービスは、2019年度には全国で13,500ヵ所、利用者は2019年9月期で約22万8,000人になりました。

この急成長の裏で、悪質な事業者の問題、サービスの質の問題などが表面化し、2015年には事業所が留意すべき事項をまとめたガイドラインが策定され、2017年には厚生省令などが改正され、配置する職員の半数以上を保育士、児童指導員とするほか、児童発達支援管理責任者の資格要件に保育所などでの児童福祉経験、障害児・障害者の支援経験を追加するなど、事業所の運営基準が厳格化されました。また報酬制度と単価も改訂されています。

「令和元年度障害者総合福祉推進事業」として行われた「放課後等デイサービスの実態把握及び質に関する調査研究報告書」のデータを中心にして、放課後等デイサービスの今後の課題を考察します。

○地域間格差の解消、空白エリア対策

事業者へのアンケート結果では、運営母体の50.9%は「営利法人」です。民間事業者による営利事業なので、人口が多いエリアに事業所が集中しています。

市町村単位では、北海道・東北、信越、四国では「0 ヵ所」が 3 割を超えています。全国の中核市・施行時特例市・特別区と政令指定都市では「10 ヵ所以上」が 95%前後ですが、市を除いた町村では「0 ヵ所」が 40.6%になります。

放課後等デイサービスがない、多くの地域をどうするか。あくまで民間事業者の参入を促すのか、行政による公共サービスを導入するのかが、大きな選択肢になります。

○重度障がい児、問題のある障がい児の受け入れ対策

事業者へのアンケート結果では、医療的ケア児の利用者が0人の事業所が66.9%、行動障害のある利用者が0人の事業所が42.4%です。

家庭からみて預けにくい児、事業所からみて預かりにくい児の放課後をどうするのか。放課後等デイサービスでの受け入れを前提にして対策を打つのか、重度または問題児は別の障がい者サービスの利用を基本とするか、方向性を定める必要があります。もし障がいの軽い児が放課後等デイサービスの対象であるのなら、障がいの重い児を受け入れる事業者への報酬が高い現行制度は、方向性と矛盾することになります。

○虐待児のセーフティーネット機能の強化策

事業者へのアンケート結果では、不登校の子どもが 1 人以上在籍している事業所は 24.8%、児童相談所が関与している子どもが 1 人以上在籍している事業所は 20.8%、児童相談所は関与していないが虐待もしくは不適切な養育があると思われる子どもが1 人以上在籍している事業所は 18.5%です。

放課後等デイサービスは、現実的な問題として、虐待児のセーフティーネットを兼ねる必要があります。現状は事実上各事業所の善意任せです。事業としては顧客である保護者から子ども守る機能を、どのように整備するかが問題です。

○支援プログラムの科学的な最適化手法の開発

アンケート結果では「具体的な活動を設けず、本人が自由に過ごせる時間」を提供している事業者が87.1%。その一方でPTなど「有資格者による訓練」を提供している事業者は26.3%です。

子どもにTVばかり見させている悪質な事業者が問題になりましたが、現時点ではまだ支援プログラムは各事業者任せで、科学的な手法、合理性がある効果的なノウハウは確立されていません。

「サービスの質の向上に向けて実施している取組は何か」という問には、「保護者向けのアンケート調査の実施」が76.2%、「外部研修への従業者の積極的参加の促進」が65.1%です。

事業所の職員の数に占める、経験年数 5 年未満の職員数は平均で 59.7%でした。

特別支援学校、あるいは障がい者通所施設などと連携して、支援プログラムの科学的な最適化手法を開発していく体制構築が必要です。

○事業所の客観的な評価基準の確立

支援プログラムの在り方が確立されていないので、提供されるサービスの質を科学的客観的に評価することができません。

現状の方法は、ガイドラインの内容に連動した「事業者向け放課後等デイサービス自己評価表」及び 「保護者等向け放課後等デイサービス評価表」があり、保護者による評価、職員による評価、事業所全体による評価を実施し、その結果を公表することが求められています。

○サービス利用に関する実効あるアセスメント

障害児支援利用計画策定数に占めるセルフプラン数の割合は平均で 28.5%です。

「放課後等デイサービスガイドライン」の中で重要であり、その実効性が問われるのは「3 児童発達支援管理責任者向けガイドライン」だと思われます。

長文を抜粋してガイドラインから引用すると「子どもと保護者及びその置かれている環境を理解するためには、子どもの障害の状態だけでなく、子どもの適応行動の状況・・・・子どもの発育状況、自己理解、心理的課題、子どもの興味関心事となっていること、養育環境、これまで受けてきた支援、現在関わっている機関に関すること、地域とのつながり、利用に当たっての希望、将来展望等について必要な情報をとり、子どもと保護者のニーズや課題を客観的に分析・・・・保護者のニーズと子ども自身のニーズは必ずしも一致するわけではないので、子どものニーズを明確化していくこと・・・・発達段階にある子どものニーズは変化しやすいため、日頃から状況を適切に把握し対応し・・・・児童発達支援管理責任者は、放課後等デイサービス計画を作成し、すべての従業者が放課後等デイサービス計画に基づいた支援を行っていけるように調整する。」としています。

このガイドラインに現実を近づけていくための新事業が必要です。

公的なサービスを事実上民間に委託することで、放課後等デイサービスは人口の多い都市部を中心に、急速に拡大しました。今後は質の向上が課題です。

(本稿は2020年8月に執筆しました)

別稿で「障がい児通所支援の在り方に関する検討会がキックオフ」を掲載しています。ご参照ください。