奈良 正倉院 車椅子見学ガイド バリアフリー情報

誰もが知っているが、実際に見たことがある人は少ない「正倉院」。どこにあり、どうやって見学をするのか、そして車椅子で見学できるのか。車椅子からみた現地の状況を紹介します。

正倉院は天平以来、永く東大寺が管理してきました。明治になり国の管轄に移り、現在では宮内庁が管理しています。予約は不要ですが、一般公開は平日のみ、10時から15時です。

正倉院が建つのは、奈良東大寺大仏殿の北、約100mの場所です。大仏殿は賑わいますが、正倉院周辺にはほとんど観光客がいません。静かな地に建っています。

正倉院側から大仏殿を見ると、緑の中を鹿が遊び、そのバックに巨大な大仏殿が見えます。南大門方面からみる大仏殿とは、違う姿を見ることができます。

正倉院バリアフリー情報

車椅子で正倉院へ向かうルートです。東大寺大仏殿の西側、西回廊沿いを北上します。大仏殿の横までは舗装路です。ここから先、正倉院へ向かう2本の未舗装路があります。その距離は約70mです。

「講堂跡」の中を通る東側の未舗装路はデコボコが激しい道です。「大仏池」寄りの西側の未舗装路は砂利が深い道です。どちらも車椅子では難所です。両ルート通行してみましたが、砂利道の西側ルートよりも、デコボコの東側ルートのほうが、まだ通行しやすい印象です。どちらのルートを選ぶかは、悪さ比べの選択になります。

そして正倉院施設敷地前の横道10mが、更に悪路です。短い距離ですが、いっそうの気合が必要です。

正倉院バリアフリー情報

正倉院の管理敷地内に入ります。入場は無料で、施設内にトイレはありません。ここからは舗装路で、車椅子での通行に大きな問題はありません。そのまま50mほど進むと、正倉院正面の鑑賞エリアです。

正倉院バリアフリー情報

鑑賞は正倉院の正面からだけで、横に廻り込むことはできません。間口33m、総高14m、床下2.7m。鑑賞エリア前部から写真を撮っても全景は入りません。

建物の外見状態は極めて良好。黒光りしているような印象をうけます。正倉院は写真で見る印象とは違い、まるで生きているような倉です。築後1,260年が経過しています。

正倉院バリアフリー情報

敷地内はフラットです。東大寺からのハードなバリア路を通行出来れば、正倉院は車椅子で見学できます。

(本稿は2018年6月の取材に基づいています)

奈良 興福寺 車椅子参拝ガイド バリアフリー情報

奈良「興福寺」は、車椅子での参拝が簡単ではありません。現地のバリアフリー状況を紹介します。

興福寺バリアフリー情報

興福寺は周囲の土地よりも高台にあるので、アクセスルートは急坂です。南側の「猿沢池」方面、西側の近鉄奈良駅方面へ抜ける道は、急な下り坂。「五重塔」から「猿沢池」へ直行するルートは、有名な「五十二段路」です。そして境内のほとんどは深い砂利路面で車椅子はスタックします。

興福寺バリアフリー情報

「東金堂」「五重塔」が並ぶ周辺は、深い砂利路面で車椅子はスタックします。「中門跡」前を通り「南円堂」そして「三重塔」への行程も、すべて深い砂利路面です。南大門跡周辺は強烈なデコボコ未舗装路。「南円堂」から「中金堂」そして「北円堂」へ向かう道も砂利路面。境内は車椅子の難所が続きます。

興福寺バリアフリー情報

2018年元旦、国宝館がリニューアルオープンしました。国宝館内はバリアフリー、車椅子で阿修羅像を拝観できます。

アクセスは興福寺の有料駐車場からがバリアフリールートです。車が通るルートで興福寺に入って下さい。このルート以外は、すべてバリア路面を通ります。車なら直接駐車場を利用するのが便利です。身障者用駐車区画の用意があります。

興福寺バリアフリー情報

国宝館について詳しく紹介します。国宝館入口はスロープがあります。拝観料は障がい者減免制度があり、本人と介助者1名が半額に減免されます。なお国宝館のパンフレットは別途有料です。

国宝館内はバリアフリー設計。その名の通り、興福寺の国宝を車椅子で鑑賞できます。車椅子での観覧に大きな問題はありませんが、静寂が求められる美術館なので、声が出てしまうタイプの障がいのある人は、騒ぐと居心地が悪くなります。バリアフリートイレは出口付近にあります。スペースは狭く、一般的な車椅子が入るギリギリのサイズの個室です。

国宝館は車椅子利用者にお薦めできます。来館ルートは駐車場からです。

興福寺バリアフリー情報

車椅子での興福寺境内散策はお薦めできません。車椅子では無理をせずに、見えるところから、見える範囲での参拝をしてください。

なお東大寺についての詳しいバリアフリー情報は別稿を参照してください。

(本稿は2018年6月の取材に基づいています)

奈良 吉野山 車椅子散策ガイド バリアフリー情報

桜の名所で世界遺産がある「吉野山」。「下千本」を中心に、車椅子からみた現地のバリアフリー状況を紹介します。

吉野山の観光シーズンは桜と紅葉の時期。特に桜の季節は交通規制がかかります。車椅子利用者の場合、ケーブルカーの利用は難しくアクセスは車が便利。マイカー、タクシー、バス、いずれの交通手段でも、オールシーズン観光の拠点になるのは「下千本観光駐車場」です。「下千本観光駐車場」から徒歩で「金峯山寺」方面に進むコースでバリアフリー状況を紹介します。

吉野山の観光

「下千本観光駐車場」は、400台を収容する駐車場で24時間利用可能です。通常は無料で観桜期は有料になります。身障者用駐車区画は出入口にある公衆トイレの近くです。この公衆トイレにバリアフリートイレがあります。設備はシンプルですが実用に耐えるトイレです。駐車場は車椅子で問題なく利用できます。

駐車場内から金峯山寺方面にかけてが、下千本の観光エリアです。距離的には金峯山寺仁王門まで700mほど。一般的には観光ルートとして、散策が推奨されるコースですが、車椅子で向かうと傾斜と道の狭さに苦しめられます。現地の状況を詳しく紹介します。

下千本の観光エリア

下千本観光駐車場から一般道に出ます。この道は、観光シーズンは一般車両通行禁止、あるいは一方通行規制がかかりますが、閑散期は一般車両が自由に通行します。

駐車場から出るとすぐに「下千本展望所」があります。緩やかな上り坂を進むと、「七曲坂」手前では少し下り坂になります。その先に「大橋」。現地に橋の解説があるのでご覧下さい。さらに進むとケーブルカーの「吉野山駅」。このあたりまでは、アップダウンも緩やかで道幅は多少の余裕があります。一般的な車椅子利用者なら、問題なく散策できます。

吉野山駅」を過ぎると、次にある観光スポットは「黒門

「吉野山駅」を過ぎると、次にある観光ポイントは「黒門」です。徐々に道が狭くなり、車が来ると車椅子を道端に寄せるのに気を使うようになってきます。そして上り坂が段々ときつくなります。気合を入れて「黒門」を越えます。

次の観光ポイントが「銅の鳥居」。このあたりで車椅子での移動に体力的な余裕がなくなります。一般的な車椅子利用者なら、元気な介助者が必要です。そしてこの先「仁王門」までは、車椅子にとって地獄のような急坂になります。しかも道は狭いので、無理な人は引き返してください。かなりの強者でなければ「仁王門」の下まで車椅子で行くのは困難です。

その先にある世界遺産、吉野山の金峯山寺。高台にそびえ立つ「蔵王堂」は高さ34mで、東大寺大仏殿に次ぐ木造大建築です。

吉野山の金峯山寺

構造物としては本堂である「蔵王堂」と「仁王門」、青いお顔の「秘仏本尊」が有名です。役行者が開祖である修験道の総本山。参拝に訪れたい世界遺産です。ただ残念ながら、車椅子での参拝は、現実的には無理です。状況を詳しく紹介します。

吉野山の金峯山寺

蔵王堂への通常ルートは、仁王門の下からの急な階段路です。車椅子はもちろん、体力に不安のある人にはお薦めできません。階段路の前に「スロープはこちら」という案内があります。山を上ってきて右手へ廻るルートです。この道も急坂で狭路、通常期は一般車両が自由に通行できるので、車両が来ると車椅子の逃げ場がない怖い道です。進むとスロープがあります。

スロープといっても、中央部は階段、両端が幅狭いスロープを組み合わせた急坂路で、傾斜角度30度くらいありそうな、転がり落ちそうなスロープです。しかもスロープ部は、一般的な車椅子がギリギリの狭さ。その距離は30mほどあります。このスロープを車椅子で上り下りするのは現実的ではありません。

何らかの方法で蔵王堂まで車椅子で進んだとします。蔵王堂の前の広場は、車椅子がスタックして動けなくなる深い砂利路面です。

蔵王堂の前は深い砂利路面

そして蔵王堂の入口は階段で、スロープはありません。金峯山寺は、車椅子では仁王門近づいて、下から見上げるのが精一杯です。

吉野山の金峯山寺

千本観光駐車場から仁王門の付近まで、お土産店や飲食店など数多くのお店があります。吉野葛、柿の葉寿司、梅干し、お漬物・・・。見る限りバリアフリーな店はほぼありません。入口には段差、狭い店内、店内にも段差。山の坂道の狭いスペースにあるお店なので、どうしてもそうなります。それでも何店舗かは、車椅子でも何とかなりそうなお店があります。急坂の横にあるほとんどのお店は、車椅子では利用困難な構造なので、道がフラットな箇所にあるお店を狙って下さい。

交通規制のない観光シーズン以外の時期に吉野山をドライブで楽しむ場合、道は狭く反対から車が来るとすれ違いが出来ない箇所が上千本方面まで連続します。ドライブに気合が必要な吉野山です。「観光車道」まで抜ければ、普通の2車線路になります。

吉野山の車椅子での散策

以上のように吉野山の車椅子での散策は、実際にはかなり困難が伴います。下千本観光駐車場の近くを、無理ない範囲で行動されることをお薦めします。この範囲にも数軒のお店があります。

車で吉野山を訪れた場合、最寄りの道の駅は「道の駅吉野路大淀iセンター」です。詳しくは別稿を参照してください。

(本稿は2018年6月の取材に基づいています)