障がいのある家族のために、マイカーとして福祉車両の購入を検討している方に、人気車種の実力と特徴を紹介します。
軽自動車、コンパクトカー、ミニバンの3部門別に、2019年度の販売台数上位3車種を比較しました。
軽自動車部門
・ダイハツ「タント」 3,732台
・ホンダ「N-BOX」 2,278台
・スズキ「スペーシア」 950台
福祉車両の販売台数では上記の通りの実績ですが、軽自動車全体の2019年販売実績でも、上記3車種が3強です。
全体の順位と販売台数は ①「N-BOX」25万台 ②「タント」17万台 ③「スペーシア」16万台です。「N-BOX」は2014年から5年連続で軽自動車販売台数1位を達成しています。
「N-BOX」は2017年に2代目にフルモデルチェンジ。デザインはキープコンセプトながら、プラットフォームとエンジンを一新しました。さらに、先進の安全システム「ホンダセンシング」をほぼ全車種全グレードに標準搭載しました。その結果、車両価格は約10万円値上がりしましたが、マーケットに好感をもって受け入れられています。
「スペーシア」も同年2017年末にフルモデルチェンジして2代目がデビュー。スズキの新世代プラットフォーム「ハーテクト」を採用し、剛性を高めて軽量化を実現しています。また全車にマイルドハイブリット機構を導入し、同時にカメラとレーダーを組み合わせた先進の安全システムを標準装備しました。
「スペーシア」の福祉車両販売台数が低いのは、同じスズキの「エブリイ」と「エブリイワゴン」に票が分かれているのも要因です。「スペーシア」「エブリイ」「エブリイワゴン」3車種の2019年度福祉車両合計販売数は2,000台を超えます。
「タント」は2019年に4代目にフルモデルチェンジ。ダイハツの新世代プラットフォーム「DNGA」を採用し、ボディ剛性を30%向上させ、骨格重量は40%のダイエットを成功させています。そして最新の安全システム「スマートアシスト」を装備。助手席側のBピラーをドアに内蔵させた「ミラクルオープンドア」は旧モデルから継承しました。
新型プラットフォームによる走行性能、燃費、ハイトスタイルによる居住性と乗降性、そして先進の安全システム。現行の人気3車種は、大きな差がなく、高いレベルで競合しています。
車選びのポイントは、デザインの好き嫌い、販売店の印象、納車納期など、ちょっとしたことを重視することだと思います。
コンパクトカー部門
トヨタ「シエンタ」 2,968台
トヨタ「ポルテ・スペイド」 551台
ホンダ「フリード」 462台
販売台数では「シエンタ」の一人勝ちです。内訳は車椅子乗車タイプが2,427台、助手席回転シートタイプが541台。「ポルテ・スペイド」は助手席乗降タイプのみで551台なので、「シエンタ」の車椅子乗車タイプが売れています。フリードの車椅子乗車タイプは262台とやはり過半数を占めます。このクラス、コンパクトカー部門では、車椅子乗車タイプが人気です。
現行「シエンタ」は2015年にデビューした2代目で、アクアをベースに後半部を延長したプラットフォームを採用しています。ハイブリットタイプはアクアのシステムを流用、ガソリンエンジン車は先代のカローラフィルダーなどのエンジンを流用しています。2018年にマイナーチェンジして、先進の安全システムを主なグレードで標準装備しました。大胆なボディデザインが目を惹きます。
「ポルテ」「スペイド」の姉妹車は、2012年にデビューした2代目。ヴィッツと同じBプラットフォームを採用しています。そのため最小回転半径はFF車では4.6mと取り回しの良さが自慢です。2015年には燃費の改善改良を行いカタログデータで22.2km/リッターとなり、ライバルと同水準になりました。2016年には先進の安全システムを導入。2019年位には歩行者を検知する最新のシステムに切り替わりました。パッケージでは助手席側が1枚ドアなのが特徴。その大きなドアを利用した助手席乗降が魅力です。
「フリード」現行モデルは2016年に登場。2019年にマイナーチェンジして、先進の安全システム「ホンダセンシング」がアップデートされました。現在搭載されているACCは、時速30km以上で作動する設定なので、渋滞時は使用できません。
福祉車両の販売数ではシエンタの大きく水をあけられていますが、一般車両の販売台数全体ではフリードはシエンタに肉薄しています。
シエンタとフリードは、どちらもハイブリット車とガソリン車の設定があり、燃費にほとんど差はありません。カップホルダーなどの装備の充実具合も甲乙つけがたいハイレベルです。2車の最大の違いは3列目シートの形状や収納方式ですが、福祉車両の場合はその観点の違いは意味をなしません。
背はフリードがやや高く、運転席周りのスペース、運転席からの視界は、ややフリードが広い設計です。スペースユーティリティーを重視するなら、若干フリードが有利。シャープなデザインを好むならシエンタ。「ポルテ・スペイド」は、ライバルに比べて積極的に選ぶ利点があるとすれば、助手席側のドアが広く開くことです。
ミニバン部門
トヨタ「ノア・ボクシー」 4,307台
日産「セレナ」 904台(2017年度実績)
ホンダ「ステップワゴン」 229台
この部門では「ノア・ボクシー」の兄弟車が圧勝しています。ただしセレナの販売データが古いため、販売台数の差は正確ではありません。
「ノア」「ボクシー」そしてついでに「エスクァイア」の違いについて説明します。「ノア」と「ボクシー」は純粋な姉妹車で、トヨタ販売店の系列で名称を変えて販売されています。トヨタではこの伝統的な販売戦略を見直す方針で、次期モデルからは1車種に統合されることが予想されています。若干の内外装の違いはありますが、「ノア」と「ボクシー」は同じ車と考えて問題ありません。
「エスクァイア」は、フルサイズミニバン「ヴェルファイア」などで取り入れた、派手な内外装を与えられた車種です。車の基本機能は「ノア」と「ボクシー」と同じですが、見えるところ、触れる箇所は違う車です。
現行モデルは2014年にデビューした3代目。その後マイナーチェンジがあり、現在では3車種とも先端の安全システムなどが搭載されています。ただしトヨタらしい車格のヒエラルヒーにより、上位車種の「ヴェルファイア」などに搭載されている安全システムよりは、一段落ちる設定です。
「セレナ」現行モデルは2016年に登場した5代目。2019年にマイナーチェンジを受け、e-POWERの投入、先端技術「全方位運転支援システム」が搭載されました。またフロントデザインは、エスクァイア的な押し出しの強い顔になっています。したがって今もっとも新しい技術が投入されている鮮度の高い車種は「セレナ」です。
「ステップワゴン」現行モデルは、2015年にデビューした5代目。2017年にモデルチェンジして、ハイブリットモデルの投入、「ホンダセンシング」のアップデートが施されました。5代目ステップワゴンの機能面の最大の特徴は、横に開くテールゲート「わくわくゲート」です。また2015年当時としては、ミニバンで初めてダウンサイジングした1.5リッター直噴エンジンを搭載し、燃費でも一歩リードしました。ホンダ独自の低床技術が生きる広い室内空間が魅力のミニバンです。
複数人の家族で乗る福祉車両としては、このクラス以上が快適です。「ノア」と「ボクシー」が売れていますが、技術の先進性では「セレナ」、室内空間の広さは「ステップワゴン」がリードします。走行性能や燃費には車種での大きな差はありません。むしろ車種の中でどのグレードを選ぶかで変わります。
福祉車両は、マイカーとしてとても魅力的です。現在のカタログモデルはレベルが高く、車としての楽しさをあきらめる必要はありません。
(本稿は2020年4月に執筆しました)