重度重複障がいがある家族のための車選び。安全で安心な外出のために、自動車メーカーがカタログモデルとして販売している、福祉カーの購入を検討する人が増えています。
どのような車両タイプが用意されているのか、家族の障がいの状況に応じてどのタイプを選ぶべきなのか。福祉カー選びの第一歩で検討すべきことをまとめて紹介します。
〇車両タイプの体系
カタログモデルは以下の体系に分類できます
「車椅子のまま乗車するタイプ」
-①「スロープで乗降するタイプ」
-②「昇降機で乗降するタイプ」
「シートに乗り換えるタイプ」
-③「回転シートで助手席に乗降するタイプ」
-④「電動シートで左後席に乗降するタイプ」
-⑤「電動シートで助手席に乗降するタイプ」
さらにこの分類の下に、詳細な仕様の違いはありますが、まずはこの5分類のどのタイプにするのかを検討します。
〇車椅子のまま乗車するか
重い身体障がいがある家族が利用する場合、最初に決めるべきポイントは、車椅子のまま乗車するか、シートに乗り換えるかです。
一般的なシートでは座位を確保できない、身体の変形が激しく姿勢が保てない、などの重い障がいがある場合は「車椅子のまま乗車するタイプ」の車両を選びます。
一般シートの利用が可能な障がいの場合、「車椅子のまま乗車するタイプ」を選ぶメリットは「乗り換える手間がないこと」です。
ただし以下のデメリットがあります。
・車両後部に広い乗降スペースが必要
車両により必要なスペースは違いますが、一般に縦2m弱のスペースは必要です。自宅車庫で乗降が可能であることは必須です。また一般的な身障者用駐車スペースで、この乗降スペースが確保できない区画はよくあります。
・衝突事故などでは安全性が劣る
車椅子をしっかりと固定し、車両に装備されているシートベルトを装着し、車椅子にヘッドレストが付いていたとしても、万が一の衝突事故の場合、一般シートに比べると、車椅子乗車の安全性はどうしても劣ります。
・ロングドライブには不向き
高機能高品質な車椅子で、かつ車内で車椅子を正しく固定して利用しても、車が動くことによって生じる力で、一般シート乗車よりも車椅子乗車は負荷がかかります。したがって、短距離を短時間、優しい運転で移動する利用に限られます。
「車椅子のまま乗車するタイプ」の車両は、「スロープで乗降するタイプ」と「昇降機で乗降するタイプ」の2つに分かれます。
それぞれの特徴は以下の点です。
「スロープで乗降するタイプ」
昇降機に比べれば価格が安く、装置の重量は軽くなります。ただし乗降スペースは縦に長く必要です。
「昇降機で乗降するタイプ」
スロープよりも高価で、重量は重くなります。カタログモデルの一般家庭用福祉カーでは、あまり採用されていません。
〇助手席か後席か
「シートに乗り換えるタイプ」の車両を検討する場合、利用する家族の障がいが重度であるなら、③「回転シートで助手席に乗降するタイプ」の利用の可能性を最初に確認します。無理であれば選択から外してください。
「回転シートで助手席に乗降するタイプ」は、一般に軽度の障がい者用で、少し足が悪くなった高齢者などの利用を想定した構造です。
そのため、ほぼ自分で起立でき、そこから腰掛ける動作が可能で、かつ乗車する意図をしっかり自覚出来ることが必要です。
車両により仕様の詳細は異なります。「回転シートで助手席に乗降するタイプ」を選択したい場合は、重い障がいがある家族が利用できるのか、実車でよく確認することをお薦めします。
次に、④「電動シートで左後席に乗降するタイプ」と⑤「電動シートで助手席に乗降するタイプ」を検討する場合のポイントです。
乗車する家族に重度で重複した障がいがある場合は、本人の知的、コミュニケーション面での障がいの状況と、同乗する家族構成などを考慮する必要があります。
一般的には、運転装置に触る恐れのない、④「電動シートで左後席に乗降するタイプ」の選択が無難です。
ただし、⑤「電動シートで助手席に乗降するタイプ」には以下の魅力があります。
・景色がよく見えて楽しい
・運転する家族の近くにいることが楽しい
様々なシーンで利用する家族の状況を想定して、助手席か後席かを選択してください。
〇専用車椅子や着脱式車椅子を使用できるタイプ
重度の障がい者向きではありませんが、「車椅子のまま乗車するタイプ」と「シートに乗り換えるタイプ」の中間的なタイプがあります。
専用の簡易車椅子のまま乗車できるタイプ、または電動シートが外れて簡易車椅子としてそのまま利用できるタイプです。
カタログモデルは数多くありません。車両によっては、専門業者にオーダーメイドで改造を依頼することができます。
重度重複障がいがある家族のための車選びは簡単ではありません。慎重に検討してください。
(本稿は2020年4月に執筆しました)