2013年に「災害対策基本法」が改正され、「避難行動要支援者名簿」を作成して、障がいのある人の避難行動を行政がサポートすることが義務付けられました。そして同年、内閣府の防災担当から「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」が公表されています。
法律で何が定められているのか、行政がどのような避難支援をする指針なのか。ポイントを紹介します。
〇個人情報保護と名簿の関係
障がいのある人の名簿を市町村が作成することを定めた法律です。個人情報保護の観点では、以下のことがポイントです。
・情報提供を拒否できる
名簿作成のために行政に個人情報を提供する「同意書」に、障がい者側がサインをすることになっています。ここで「同意しません」を選択する権利があります。
・拒否した人でも緊急時は支援する
災害が発生している、あるいは発生が予測される事態になり、「同意しません」を選択した障がい者に危険がある場合は、行政は拒否者の情報も含めて、避難行動を支援する側に名簿を提供できます。緊急時の情報提供は拒否権がありません。
〇名簿の掲載事項
基本項目として以下の事項が記載された一覧式の名簿が作成されます。
・氏名
・生年月日
・性別
・郵便番号
・住所または居所
・電話番号その他の連絡先
・障害種別と等級または区分
・その他
しかしこれだけでは情報としては十分ではありません。地域の事情にあわせて、個人単位で個別計画を策定することが推奨されています。内閣府による様式例では、以下の事項があります。
・避難時に配慮しなければならない事項
・同居家族等
・緊急時の連絡先
・普段いる部屋や寝室の位置、不在時の目印、避難済みの目印
・(予定される)避難支援者の情報
・(予定される)避難場所等の詳しい情報
〇避難支援全体計画の策定
名簿があるだけでは避難支援はできません。事前準備として、以下の取組が指針として示されています。
・市町村防災全体計画と地域防災計画の策定
どのような状況で、誰がどこに避難するのか。全体そして細かいエリア単位の計画を策定する。平時から勉強会や防災訓練を実施する。
・名簿の更新と関係者での共有
名簿や防災計画の鮮度を保ち、常に関係者で同じ最新情報を共有する。
・個人情報開示の同意形成
市町村担当者が平常時から避難行動要支援者に情報提供の重要性を説明し、かつ情報管理に必要な措置を講じて同意を得る。
〇災害時の対応指針
以下の4段階で避難行動を支援することが示されています。
・避難のための情報伝達
障害の区分に対応して多様な手段で情報伝達を行う。
・拒否者も対象にした避難支援の初動
事前計画通りに避難支援を開始する。守秘義務には留意すること。
・安否確認の実施
事前計画通りに避難行動要支援者の安否確認を行う。
・避難場所、避難所への運送
災害の状況と地域の実情に応じて、避難場所、避難所に要支援者を送り、そこの責任者に引き継ぐこと。
現実問題として、重度重複障がいのある人が、避難場所、避難所で過ごすことは大きな困難が伴いますが、災害対策基本法に基づき、行政では避難について以上の対応が用意されています。
(本稿は2020年6月に執筆しました)