2016年に施行された「障害者差別解消法」により「障害者差別の解消」と「合理的配慮の提供」が求められています。
法の施行から年月が経ちましたが、個別の問題では対応の判断に悩ましいケースが多々あります。
施行の翌年に内閣府がまとめた「合理的配慮の提供等事例集」より、「不当な差別的取り扱い、合理的配慮の不提供に当たらない事例」から、判断が悩ましい事例を抜粋して紹介します。改めて障害者差別、合理的配慮の考え方の参考にしていただければ幸いです。
「地域による行政サービスの格差」
A市とB市で独自に取り組んでいる福祉行政サービスにおいて、適用条件やサービス内容に格差があっても、そのことは不当な差別的取り扱いには当たらない。
「障害種別による減免制度の違い」
障害者割引が、身体障害者と知的障害者に適用され、精神障害者には適用されないケースがあるが、「積極的改善措置」なので、不当な差別的取り扱いには当たらない。
「相談時間や回数の制限」
一人の相談者が相談し続けることで、他の相談者が長時間待たされる場合などは、障害者に対して、対応時間や回数に区切りをつけても合理的配慮の不提供には該当しない。
「障害者が要求するサービス水準の充足」
年金の支給金額、福祉サービスの利用回数、また学校や一般店舗でのスタッフの恒常的な配置などについて、障害者からの希望と合わない点があっても、そのことでは合理的配慮の不提供には該当しない。
「スロープ・エレベーターがない施設」
公共施設、民間施設とも、段差があるのにスロープ・エレベーターがない場合、環境整備の問題なので、そのことでは合理的配慮の不提供には該当しない。
「身体介助要請への対応」
障害者から飲食店での食事介助、温泉施設での入浴介助などを頼まれても、身体介護行為を事業の一環として行っていないなら、断っても合理的配慮の不提供には該当しない。
「移動困難者からの個別要望」
自宅への送迎やイベントのネット中継など、移動が困難な障害者からの個別の要望は、その行為を事業として行っていないなら、断っても合理的配慮の不提供には該当しない。
「車椅子席の料金」
コンサートなどでA席が5,000円、B席が2,500円の料金で、車椅子鑑賞が出来る席がA席しかない場合、車椅子利用の障害者がB席を希望したとしても、事情を説明してA席での観覧を勧めても合理的配慮の不提供には該当しない。A席の料金を値下げする義務もない。
いずれも現実に発生すると、対応に苦慮するケースです。ひとつの判断材料として事例集をお役立てください。
ただし同じようなケースでも、小さな状況の違いによって、対応を変えるべきケースが想定されます。柔軟で合理的な判断が求められています。
(本稿は2020年5月に執筆しました)